「余計なことをしたなあ」とコーチ後悔。からの優勝！ 稲見萌寧が復調のために意識したこと

前週優勝を逃し、調子を落として今週を迎えていた

ニトリレディスは稲見萌寧選手の優勝で幕を下ろしました。試合終了直後に奥嶋誠昭コーチと連絡を取ると、第一声は「謎すぎる優勝」というものでした。先週の「CATレディース」では風速15メートルを越える最終日に崩れ優勝を逃していた稲見萌寧選手は、その風の影響もあって予選落ちするのではないかと思うほど調子が悪かったといいます。

奥嶋コーチは悪い状態を改善しようと試みましたが、上手くいかず。頭を混乱させた状態で北海道に送り出したそうです。「余計なことをしたなあ」と思い、試合中は、送られてくる動画などをチェックしつつ、元に戻すことを心がけていたと言います。

元に戻すというのは、腕と体を同調させること。これまでもずっと取り組んできたことで、正確なショットが持ち味の稲見選手の生命線になっています。稲見選手が打つ前に行う動作でも、この腕と体の同調が意識されています。

不安と疑心暗鬼を抱えながらも、風の穏やかだった初日を3アンダーでスタートすると2日目を7バーディ1ボギーの66と一気に首位と2打差の2位タイへと駆け上がります。ところが強い風が吹いた3日目は2アンダーで首位と3打差に一歩後退。ラウンド後の会見で優勝を狙える位置で最終日を迎えることについて聞かれると「優勝を意識するより楽しく回ること」だと答えました。

「ゴルフで楽しいっていうよりも、自分の気分が楽しければいいかなって思ってるので、楽しく回るってことを一番に意識して、ショットが少しずつでも良くなってくれればいいかなって思います」と語っていました。結果ではなく過程にフォーカスするコメントは、いつもの“稲見節”ですね。

そして時おり風速5メートル以上の風が吹いた最終日には、不安で疑心暗鬼になっていたはずのショットが改善。大胆で果敢にピンを攻める稲見選手らしいプレーでバーディチャンスを量産します。最終日は79名がプレーしアンダーパーはわずかに12名、その中でも稲見選手のマークした5アンダーが単独のベストスコアでした。

スタッツを見ても4日間のトータルでフェアフェイキープ率83.6％、パーオン率88.8％と共に1位を記録し、距離のある難コース・小樽CCでも持ち前の安定した正確なプレースタイルで優勝を手にしたことが表れています。

よく「プレー中にスウィングのことを考えるのは良くない」と言われます。ターゲットにボールを運ぶのがゴルフの本来の目的ですが、スウィングに意識がいくと、その意識が薄れてしまうからです。ところが稲見選手の場合、毎ショットのルーティンにスウィングのイメージを繰り返しています。

これは私個人の考えですが、プロでも「スウィングは気にせず、ターゲットにだけ意識を集中させるタイプ」と、「ターゲットに運ぶために、スウィングに意識を集中させるタイプ」の2タイプがいると思います。奥嶋コーチに稲見選手はどちらのタイプかと問うと、後者だと答えてくれました。

大会期間中、奥嶋コーチに動画を送ってスウィングチェックを受けていたという稲見選手。しっかりと自分のルーティンを守ることで、スウィングと思い描く弾道がマッチして、どんどん調子を上げていったのでしょう。安定したショットでピンを攻め、バーディパットをしっかり決める。今年覚醒した稲見選手の強さを見せつける試合展開になりました。

2020-2021シーズンの7勝目を挙げたことで、3週連続優勝を狙った賞金ランク1位の小祝さくら選手に約200万円差に詰め寄っていますが、最終戦までは13試合残っており高額賞金の大会も多く含まれます。さらに、全英女子オープンからの帰国組は「日本女子ゴルフ選手権」から参戦するようですので、現在賞金ランク3位の古江彩佳選手が加わると賞金女王争いはさらに混とんとしてきそうです。

また、この試合では堀琴音選手が3日目にパー73のツアー最少スコアとなる64を記録し3位タイに入っています。次週以降は、ここ数試合好調の大里桃子選手、3戦連続トップテンとこちらも好調の三ヶ島かな選手あたりにも注目したいところです。