PGAツアープレーオフ最終戦「ツアー選手権」はパトリック・カントレーの勝利で幕を閉じたが、その裏で「ツアー新記録」を達成していたのが、ホアキン・ニーマン。いったいどんな記録?

ケビン・ナのツアー選手権最速記録1時間59分から6分更新

2020〜2021年のフェデックスカップも「ツアー選手権」で閉幕。最終組でプレーしていたパトリック・カントレーが2週連続優勝を果たして、自身初のフェデックスカップチャンピオンに輝いた。

そのカントレーがティオフした13時55分の約2時間前に、実は珍記録が達成されていたのをご存知だろうか。

ブルックス・ケプカが手首の怪我のため、3日目に棄権。その結果、出場選手数は29人となり、2サムでプレーする「ツアー選手権」の最終日、最下位からのラウンドは、ホアキン・ニーマン1人となった。

通常2サムでのプレーでは、合計3時間半ほどで18ホールのプレーが終了する。だが、1人でのラウンドであるし、いつもよりも少しだけ早めにプレーしようと考えていたニーマン。少なくともフロント9は、とくに走ったり、大急ぎでラウンドするということはなかったそうだ。

だが、8番でダブルボギーを叩いたときに、「1ホールで20分もかかってしまった」と思った。そしてフロント9のプレーが終わり、10番に向かうとき、ボランティアに「まだ1時間3分しか経っていないよ」と伝えられた。その一言でニーマンの遊び心に火がついたのだ。

過去、ウェスリー・ブライアンが2017年「BMW選手権」最終日に1時間29分というツアー最速記録を達成。また、「ツアー選手権」(イーストレイクGC)での記録では、ケビン・ナの持つ1時間59分が最速だということをわかっていたニーマンは、「それなら早く回って、(ケビン・ナの)記録を破ろう」というモードに変わった。自分はもはや優勝争いには手が届かない、それなら楽しんでプレーしようと気持ちを切り替えたのだという。

画像: ツアー選手権最速記録更新のため走ってプレーするホアキン・ニーマン。キャディはもちろん、スタッフのスコアラーたちも併走した(写真/Getty Images)

ツアー選手権最速記録更新のため走ってプレーするホアキン・ニーマン。キャディはもちろん、スタッフのスコアラーたちも併走した(写真/Getty Images)

バック9からは、ショットを打っては走るという、クロスカントリーのようなゴルフが展開された。ウォーキングスコアラーの少年たちも、この「ランニングゴルフ」を面白がり、ニーマンとキャディに「早く!」とせき立て、スコアボードを担ぎながら自らもランニング。時間をチェックしながらゲキを飛ばしていたという。

大きな荷物を持たない選手やウォーキングスコアラーはともかく、もっとも大変だったのはキャディだろう。キャディ歴21年のベテラン、ゲーリー・マシューズ氏はバック9からのニーマンからの急な申し出に戸惑ったのではないか?

だが、実際は本人よりもマシューズ氏のほうがノリノリで、記録更新に向かって全力を尽くしていたそうだ。距離を伝えたら走る、の繰り返し…….重さ10キロ以上のバッグを担ぎ、息を切らしながらもなんとかバック9を駆け抜けた。

また、前夜にニーマンが1人で回ることを聞いていた彼は、こんなこともあろうかと、バッグの軽量化を事前に準備していたのだという。走りやすいように必要最低限のものだけをキャディバッグ内に残した。傘、レインカバー、予備のボール(通常9個は用意している)、通常バッグのポケットに入っているような練習小物をすべて取り出し、バッグに入れていたものはたった3つだけ。ボール3個とティを5つ、そしてグローブ1枚だけだった。

「15番に着いたとき、自分たちの後ろの組(5分違いでスタート)の(スチュワート・)シンクとマツヤマ(松山英樹)の組が8番のティショットを打ってるのが見えたんだ。それを見たときは最高な気分だった。そしてなんとか彼らがバック9に入る前に、プレーを終わらせたいと思ったんだよ」

そしてマシューズ氏は朝食も取らず、自分のウェイト自体も軽くして最終日に挑んだ。最終的には、ケビン・ナの持つ記録1時間59分を6分間更新し、「ツアー選手権」最速記録を樹立したのだった。

「早く回ってもいいことはなかったね。健康にはいいかもしれないけど、プレーにはなんのいいこともないよ」

そしてこのストーリーの続きは、スコアリングテント内まで続く。18ホールのプレーを終え、2つスコアを落とし、4オーバーの29位(最下位)でホールアウトしたニーマンはスコアリングテントでスコアカードを提出。そのときに競技委員の1人が深刻な表情で声をかけてきたという。

「よく聞いてくれ、ホアキン。キミはプロとしてゴルフというゲームを冒とくし、ツアー選手権を冒とくしたんだ。これはプロゴルファーが取るべき行動ではない。ゲーリー、キミも長年ツアーにいるんだから、この罰金が1万ドル(約100万円)であることは知ってるよね」

彼はその一言に冷や汗をかき、何かを言いかけようとした瞬間、「許してくれ! 冗談だよ」と言われ、ホッとしたという。

オリンピック出場を果たし、その後もずっと連戦が続いていたニーマンは、最終戦の最終日にランニングゴルフを経験。ホールアウト後は「疲れた」と記者たちに語っていたが、いくら若いとはいえ、数週間の連戦や移動の疲れがピークに達しているに違いない。

来週から早速、来シーズンの開幕戦「フォーティネット選手権」が始まるが、ニーマンは10月の「シュライナーズチルドレンズオープン」まで約1ヶ月、休暇を取るという。PGAツアーのシーズンは長い。しっかり休養をとり、英気を養って、ツアー2勝目を飾りたいところだ。

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