PGAツアー82勝、海外メジャー15勝と輝かしい記録を持つタイガー・ウッズは、これまでに何度もスウィング改造を重ねてきた。コーチごとのスウィングの変遷とアマチュアの参考になるポイントを、プロゴルファー・吉田一尊が前後編に分けて解説! 後編にあたる本記事では3人目のコーチ、ショーン・フォーリー期、そして復活優勝の土台を作った4人目のコーチ、クリス・コモ期のスウィングを解説する。

スタックアンドチルト理論を取り入れたショーン・フォーリー期のスウィング

ではタイガーの2012年頃のスウィングを見ていきましょう。この頃のスウィングには3人目のコーチ、ショーン・フォーリーの教えが反映されています。

フォーリーの教えの軸となるのは、スタックアンドチルトという理論。アドレス時から左足体重で構え、切り返しでさらに左足に体重をシフトして打つ左足1軸のスウィングです。

画像: スタックアンドチルトを取り入れて、より左足体重でスタンスも狭いアイアン的スウィングに

スタックアンドチルトを取り入れて、より左足体重でスタンスも狭いアイアン的スウィングに

これをタイガーも取り入れた結果、前傾が深く、スタンス幅も狭いアイアン的なアドレスに変化しています。また、もともと左足軸寄りで構えるタイプだったタイガーがさらに左足体重の度合いを増やしたので、バックスウィングでの右へのシフト量が減り、ダウンスウィングでは左にシフトし過ぎるようになっています。

画像: もともと左足軸で構えていたタイガーがスタックアンドチルトを取り入れたことで、切り返しからダウンスウィングでの左サイドへシフトが多くなり過ぎた

もともと左足軸で構えていたタイガーがスタックアンドチルトを取り入れたことで、切り返しからダウンスウィングでの左サイドへシフトが多くなり過ぎた

するとどうなるか。ボールに対してクラブの入射角が急になり過ぎて、インパクトでロフトが立ってしまい、ボールの高さが出なかったり、スウィングが詰まってしまうんです。

それを解消するために、左肩をインパクト手前で急激に上げて、腕とクラブが通るスペースを確保しています。体の動きでアジャストしていたため、飛距離ロスも起こり体への負担も多かったと推測できます。

画像: 急角度で下りてくるクラブの通り道を確保するために、インパクト手前で左肩を急激に上げてアジャストしていた

急角度で下りてくるクラブの通り道を確保するために、インパクト手前で左肩を急激に上げてアジャストしていた

もしかすると当時使っていたドライバーがスピン量が多すぎて吹け上がってしまうので、低い球でスピンを減らしたい、という意図があったかもしれませんが、いずれにせよドライバーにしてはかなり上から抑えたようなスウィングになってしまいます。

もともとバックスウィングで右にスウェイしてしまう方が左足軸を意識するのは良いことなのですが、タイガーのようにもともと左足軸で構えているゴルファーはその度合いをより強くしてしまうのはNGですね。

一方で腕の使い方は良い方向に進化しています。フェースローテーションの度合いを減らしながらも、右ひじの位置が外れないようアームローテーションは上手く行えていて、フェースを閉じたことでシャフトを立たせながらクラブを上げています。方向性もより安定し、2人目のコーチ、ハンク・ヘイニーの時期からより大型ヘッドに合った振り方になっていますね。この腕の使い方は完璧で、誰もがマネできる形です。

個人的な意見ですが、この理論はタイガーには合っておらずスウィング改造には失敗しているように思います。スウィング的にも無理がある良くない時期だと言えます。もし下半身の使い方が今までのままだったら、もっと良くなっていたことでしょう。

過去の良いところを取り入れた集大成! クリス・コモ期のスウィング

そして4人目のコーチがクリス・コモの指導が反映されたスウィングを見てみましょう。ショーン・フォーリー期よりスタンス幅も広くなり、自然体で構えられているように見受けられます。

ハーフウェイバックでのフェースの向きに注目すると、若干下を向いていますね。それでいてコッキングをあまり使わず体の回転でクラブを上げていき、左足体重で構えたアドレスから右サイドに体重をシフトしています。

画像: 最新ドライバーに合わせ、フェースをシャットに上げていくバックスウィングはフォーリー期と同様

最新ドライバーに合わせ、フェースをシャットに上げていくバックスウィングはフォーリー期と同様

体の使い方はショーン・フォーリー以前の自然な動きになりつつ、腕・手首の使い方に関してはショーン・フォーリー期のようなフェースを閉じて使う素晴らしい形ができていますね。実際、インパクトでも掌屈を保ちながらインパクトしています。

切り返しからダウンスウィングでまた左サイドに体重をシフトしていくのですが、その量は減っていますね。それによって、左ひざが開く量が少し増え、体を回転する動きが多くなっています。

画像: 切り返しでは左サイドにシフトしていくが、以前よりもその量は控えめ。左ひざを開く量が増え、体の回転を生かして振っている

切り返しでは左サイドにシフトしていくが、以前よりもその量は控えめ。左ひざを開く量が増え、体の回転を生かして振っている

横への移動量が多いとクラブ軌道がインサイドから入り過ぎて引っかけの原因につながってしまいます。とくにこの時期のタイガーはフェードボールを多用していましたので、その辺りも考えてのことでしょう。

ドローで飛ばしていくよりもフェードで安定してティーショットを打つ。タイガーはティーショットが散ってしまう傾向があったのですが、その辺りも修正してフェードを打つスウィングを作り上げたのではないかなと思います。言うなれば飛距離より方向性重視ですね。

ただ体が自然に動かせているので結果的に飛距離も出ているでしょう。以前はスピンが多いドライバーで無理やりスピンを減らすためにロフトを立てて打っていたのが、ドライバーをテーラーメイドのものに替えてスピン量も以前より大幅に減ったでしょうから、クラブが仕事をしてくれることでより体の負担も減らしていったのだと思われます。

それに加えて下半身への負担を減らす動作も加わっています。インパクト前後を見ると、左足を少し背中側に滑らすように動かしていますね。これはインパクトの衝撃を左ひざで受け止めないように逃がす動きです。

画像: 左足を少し背中側に滑らすことで左ひざへの衝撃を軽減。フォローの早い段階で体が起き上がるのは腰への負担軽減のためだと吉田

左足を少し背中側に滑らすことで左ひざへの衝撃を軽減。フォローの早い段階で体が起き上がるのは腰への負担軽減のためだと吉田

また、フォローの早い段階で前傾をキープせず体が起き始めています。これも腰への負担を減らす工夫ですね。もちろん万人に合う動きではないですが、体への負担を軽減する方法として、参考になるでしょう。

そして腕の使い方に関してはショーン・フォーリー期のようなフェースを閉じて使う素晴らしい形ができています。個人的には、過去のスウィングの良いところをすべて合わせた集大成的なスウィングだと思っています。

ただ、みなさんご存じの通りタイガーは2021年2月の自動車事故によって現在戦線を離脱しリハビリ中、という状態です。SNSなどで垣間見える限りでは快方に向かっているようですが、まだツアー復帰が実現するかも不透明な状態ではあります。

またツアーに復帰して、もしかするとケガの影響でまたスウィングに変化があるかもしれませんが、変わったなかでそのときのベストなスウィングを作ってまた復活してくれるのではと期待しています。

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