「ゴルフの科学者」ことブライソン・デシャンボーの「教科書」であり、50年以上も前に米国で発表された書物でありながら、現在でも多くのPGAプレーヤー、また指導者に絶大な影響を与え続ける「ザ・ゴルフィングマシーン」。その解釈に向かい続け、現在はレッスンも行う大庭可南太に、上達のために知っておくべき「原則に沿った考え方」や練習方法を教えてもらおう。

みなさんこんにちは。ザ・ゴルフィングマシーン研究者およびインストラクターの大庭可南太です。これまでゴルフを上達していくための原則論として、「木こりの三機能」と「ブランコの三原則」を紹介しました。今回は「ブランコの三原則」ついて詳しく説明をしていきます。

「ブランコの三原則」とは

以前紹介した、効率的なインパクトを作るための「木こりの三機能」を高いレベルで達成するためには、以下の「ブランコの三原則」が土台となります。

【1】ブランコの振り子運動の支点が安定している
【2】ブランコの支柱の構造が発生する負荷に対抗できる
【3】ブランコの加速を効率よく発生させるタイミングで力をかけられる

図にするとこんな感じです。

画像: ブランコの三原則をイラストで表現した画像(作図/大庭可南太)

ブランコの三原則をイラストで表現した画像(作図/大庭可南太)

例によってわかりにくい「ザ・ゴルフィングマシーン」では、この三つを

【1】ステイショナリーヘッド
【2】バランス
【3】リズム

として、ゴルフスウィングの「三つの本質」としています。

実際のゴルフスウィングでどのようにこれらの三原則が達成されているのかは、私があれこれ解説するよりも連続写真で確認する方がわかりやすいと思いますので、ここで我らが松山英樹選手にご登場いただきましょう。

支点にブレがない松山英樹のブランコの三原則

まず【1】の「振り子運動の支点」ですが、両腕を前方に放り投げるような動作の場合、この運動の中心は「両肩を結ぶ線と背骨が交差する」あたりになります。解剖学的な言い方では第七頸椎とか言うようです。よって黄色い線でそのように作図します。

そして【2】の「バランス」が保たれているかを確認するために、アドレス時の両足と【1】の支点を結ぶように赤線を引いてみます。そしてそれをスウィングの各ステージにトレースしたものが以下の連続写真です。

まずアドレスですが、このどっしりと安定感のある「A」の形のバランスに注目です。

画像: 画像A 振り子運動の支点は両肩を結ぶ線と背骨が交差するあたり(写真/姉崎正)

画像A 振り子運動の支点は両肩を結ぶ線と背骨が交差するあたり(写真/姉崎正)

トップでは左肩が顔の右サイドに来るほど捻転しているにも関わらず、スウィングの支点からのスエーは微塵も発生しませんし、「A」の形もしっかりと保たれています。

画像: 画像B スウィングの支点の位置にズレがなく安定している(写真/姉崎正)

画像B スウィングの支点の位置にズレがなく安定している(写真/姉崎正)

ダウンスウィングでも、クラブを下方に振り出していくための沈み込みが発生するだけで支点はほどんど動いておらず、強靱な下半身でスウィング中に発生する負荷に見事に対抗してバランスを確保しています。

画像: 画像C 沈み込む動きはあるものの支点にズレはまったくない(写真/姉崎正)

画像C 沈み込む動きはあるものの支点にズレはまったくない(写真/姉崎正)

インパクトでもバランスが完璧に確保されています。

画像: 画像D インパクト時も支点が安定していることで最大限にクラブを加速できている(写真/姉崎正)

画像D インパクト時も支点が安定していることで最大限にクラブを加速できている(写真/姉崎正)

そしてこのフォロースルーこそが「ザ・松山英樹」だと思いますが、両腕が力強く、クラブを前方に放り出していくことで発生するエネルギーのバランスを取るために頭部が後方に移動し、完璧な「ビハインド・ザ・ボール」の体勢を作り出しています。

画像: 画像E フォローでは支点をキープしたままビハインド・ザ・ボールを実現する(写真/姉崎正)

画像E フォローでは支点をキープしたままビハインド・ザ・ボールを実現する(写真/姉崎正)

黄色い線の交差部分である、【1】のスウィングの支点もまったくブレが発生していないように見えます。そうしようとすれば、頭部はこのようにカウンターの役割をする事が必要なことから、ザ・ゴルフィングマシーンでは「ステイショナリーヘッド」という表現をしているのだと私は思います。

画像: 画像F ブランコの支点がアドレスからフィニッシュまで安定していることでブランコの能力を高めている(写真/姉崎正)

画像F ブランコの支点がアドレスからフィニッシュまで安定していることでブランコの能力を高めている(写真/姉崎正)

松山選手の場合、原則【1】の「支点の安定」、原則【2】の「バランスの確保」がPGAの選手の中でもトップレベルに達成されていると思います。その結果原則【3】の「クラブを振り抜いていくリズム」が力強い躍動感を持って生み出されているように見えます。

言うなれば、世界でも有数の「ブランコ能力」を保持していることが松山選手の強みと言えます。その基本的本質を高いレベルで保持できていることと、大きなケガもなく8年連続でプレーオフ最終戦のツアー選手権出場を果たしていることは決して無関係ではないと私は考えています。

「PGAツアー選手の特徴」は両腕を縦に振り切る

アメリカPGAツアーで活躍している選手には、パワーも規格外であるのに加えて、松山選手のように両腕を思い切り縦に振り切ることで、驚異的に高いボールを打つという特徴があります。その高さがなければ硬くて速いグリーン上にボールを止めることができません。

松山選手以外に、「ブランコ能力」で私が今注目しているのは、チリのホアキン・ニーマン選手です。

画像: ブランコの能力が高いチリのホアキン・ニーマン

ブランコの能力が高いチリのホアキン・ニーマン

ヤバくないですか? このフォロー。この写真を見た後に、最初のイラストを見て頂きたいのですが、下半身から胴体にかけての幹、そこから伸びた枝のところに支点があって、両腕とクラブのブランコが思い切り動いている、ように見えませんか。

以上で「ブランコの三原則」についておわかりいただけましたでしょうか。さて、ここで私がつねづね疑問に感じていることなのですが、松山選手にしろニーマン選手にしろ、この人達って「まわって」るんでしょうか。確かに身体は目標方向を向いていますが、そもそも「ブランコ」の動きだとすると「まわる」って考えますかね? みなさんはどう思われますか?

This article is a sponsored article by
''.