1930年、球聖ボビー・ジョーンズは年間グランドスラム(全英・全米両アマ、全英・全米両オープン)を達成すると、28歳の若さで競技ゴルフから身を引く。引退後、故郷のジョージア州アトランタに理想のコースを造るべく土地探しを始めた。しかし、故郷では自分が思うような土地が見つからず、見つけたのは州都アトランタから240キロ離れたオーガスタの果樹園だった。3回目は選手のアスリート化に対応して変わっていくコースのお話。

1997年、他を圧倒する飛距離を武器にタイガー・ウッズがマスターズを初制覇

 今日的問題はボールやクラブなど用具用品の進化であり、飛びすぎることへのコースの対応であろう。ドライバーの素材はメタルからチタン、カーボン複合へ。そして2000年に登場したタイトリスト「プロV1」に代表されるウレタンソリッドボールによる飛距離の劇的なアップ。これはオーガスタとて例外ではない。

 1997年、タイガー・ウッズが18アンダーと2位に12打差をつけて圧勝してから、彼を意識した改修が始まった。しかし、タイガーは01年、ナイキ「ツアーアキュラシーTW」を使い完勝、“通年グランドスラム”を達成してしまった。

 かのジーン・サラゼンが、1934年、15番パー5でダブルイーグルの快挙を成し遂げたとき、サラゼンは残り220ヤードを4Wのフェースをかぶせて打っている。ホールの距離は485ヤードから昨年まで530ヤード(22年の今年は550ヤード)に伸びたとはいえ、飛ばす選手なら8番アイアンだ。

 今年は11番パー4が15ヤード伸ばされ520ヤードに。15番パー5は前述のように20ヤード増で550ヤード。全長は大会史上最長の7510ヤードとなる。25年前にタイガーが初優勝したときと比べると、585ヤードとパー5の1ホール分以上も伸びている。

 このように毎年コースを改修し、その時代、その時の最強選手が勝利するように演出する、これこそがマスターズの本質といえよう。

画像: 当時の大会史上最少ストロークの270、史上最年少優勝でマスターズを初制覇したタイガー。4400万人以上という、かつてない数の視聴者がこの試合をテレビで見たという

当時の大会史上最少ストロークの270、史上最年少優勝でマスターズを初制覇したタイガー。4400万人以上という、かつてない数の視聴者がこの試合をテレビで見たという

平均323ヤードという群を抜く飛距離で、2位に12打差という記録的な勝利を挙げたタイガー。オーガスタナショナルGCはタイガーのパワーに対抗すべく“タイガー・プルーフ(タイガー対策)”をスタートさせる。99年にはフェアウェイの周りに短いラフ、“セカンドカット”を設置し、高い精度のティーショットが求められるように。また、コースの延伸も始まり、2002年にはトム・ファジオによる大改造が行われ9ホールが延長(1、7、8、9、10、11、13、14、18)。しかしタイガーの勢いは止められず、2006年にはさらに6ホールを延長(1、4、7、11、15、17)。今年は1997年と比べて585ヤードも全長が伸ばされている。

画像: 7番ホールの2打目地点

7番ホールの2打目地点

オーガスタで唯一、リーダーボードに向かって打つ7番。2001年には4日間で3バーディを奪ったタイガーだったが、2002年の大改造でティーイングエリアが40~45ヤード下げられると、その年は2バーディに。2006年にさらにティーイングエリアが35~40ヤード下げられると4日間ノーバーディと、このホールでは〝タイガー封じ〟が成功したようにも見える。だが5勝目を挙げた2019年は再び2バーディを奪い勝利につなげた

オーガスタの〝タイガー・プルーフ〟が始まった

タイガーの優勝とヤーデージの変遷

開催年ヤーデージ記録
1997年6,925Y初優勝
1999年6,985Y
2001年6,985Y2勝目
2002年7,270Y3勝目
2003年7,290Y
2005年7,290Y4勝目
2006年7,445Y
2010年7,435Y
2019年7,475Y5勝目
2022年7,510Y

距離が伸ばされたバック9注目ホール
 マスターズは本当にパワーゲーム化したのか?

 圧倒的なパワーと飛距離でマスターズを制したタイガー・ウッズ。オーガスタは2002年と2006年に全長を伸長し対抗、距離的にタフなコースに様変わりした。しかし、タイガー以降も、フィル・ミケルソン、アンヘル・カブレラ、バッバ・ワトソン、アダム・スコットと、歴代優勝者には当時のパワープレーヤーの名が目立つ。誰もがタイガーのようなパワーと飛距離を求め、ゴルフ界に未曽有のパワーゲーム化が巻き起こったからだ。そして、いつしかオーガスタも「飛ばし屋有利」と言われるようになった。

 だが1997年にはPGAツアーの平均飛距離でジョン・デーリーに次ぐ2位だったタイガーも、2019年には296・8ヤードで71位相当まで順位を下げ、トップのキャメロン・チャンプとの差は20ヤード以上。しかし5回目のグリーンジャケットを手に入れた。

「パー5が劇的に変わった。97年の15番はドライバーでティーショットを打ち、2打目はウェッジだった」というウッズだが、19年の2打目は5番アイアン。もちろん飛距離があれば有利なことには違いないが、経験と熟練の技も必要なのがマスターズ。大会史上最長の7510ヤードに伸びた今年のマスターズ。パワーヒッターと熟練の技のどちらが勝つのか目が離せない。

監修/川田太三(コース設計家)
協力/武居振一(JGAゴルフミュージアム参与)
構成/古川正則(特別編集委員)
写真/宮本卓、小誌写真部

11番 アーメンコーナーの始まり

画像: 11番セカンド付近

11番セカンド付近

昨年の平均ストローク「4.40」で2番目に難易度が高かった11番。ティーイングエリアからの景色は狭く、左右から松の枝が迫りプレッシャーに。すでに距離の長いパー4として知られていたが、今年、さらに距離が伸ばされた。ティーショットが打ち下ろしとはいえ、パー5の13番より10ヤードも長く、難易度がさらにアップ

主な変更箇所
2002年
 ティーイングエリアを25~30ヤード下げ、右に5ヤード移動
2004年
 フェアウェイ右サイドに36本の松の木を植樹
2006年
 ティーイングエリアを10~15ヤード下げ、右サイドに木を追加
2008年
 右サイドの木を何本か伐採し、フェアウェイを広く
2022年
 ティーイングエリアを15ヤード下げ、左に移動。右サイドの松を何本か伐採

13番 距離の短いパー5

画像: 13番ティー 空撮写真

13番ティー 空撮写真

開場から3度もティーイングエリアが下げられ現在は510ヤード。距離は短いがティーショットの難しさ、セカンドショットの多様性、グリーン周りのハザードを考えるとやさしいホールではない。2017年に隣接するオーガスタCCから土地を購入しており、将来的に距離が伸びる可能性も

主な変更箇所
2002年
 ティーイングエリアが20~25ヤード下げられる

18番 木のトンネルを通すティーショット

画像: 18番 木のトンネルを通すティーショット

主な変更箇所
2002年
ティーイングエリアを55~60ヤード下げ、右に5ヤード移動。バンカーの位置を見直し、大きさも10%アップ。フェアウェイバンカーの左側に木を植樹
2022年
グリーンまでの距離を変えずにティーイングエリアを13ヤード拡張」

2002年の改造でティーイングエリアが大きく下げられた18番。2019年最終日は1、5、7、10番のティーショットで3Wを使用してきたタイガー。優勝を目前にした18番でも迷わず3Wを手にし、フェードボールでフェアウェイ右サイドをとらえ、2打目をショートさせたものの優勝を勝ち取った

15番 巧妙なわなが待ち受ける

画像: 15番 グリーン前のハザード

15番 グリーン前のハザード

主な変更箇所
1999年
フェアウェイのマウンドを小さくし、左右に松の木を植樹
2006年
ティーイングエリアを25~30ヤード下げ、左に20ヤード移動
2009年
ヤーデージは変えずにティーイングエリアを前方に8~9ヤード拡張
2022年
ティーイングエリアを20ヤード下げ、フェアウェイの形を変更

昨年の最終日、松山英樹が2打目をオーバーし池に入れたホール。左の林がせり出しているため2オンを狙おうとするとドローで曲げないといけないが、ドロー回転のボールではグリーンで止められず奥にこぼれてしまう。グリーン手前は短く刈り込まれ、少しでもショートすると手前の池に転がり落ちる

タイガーの最終日2打目の番手変化

1番
Par4
2番
Par5
3番
Par4
4番
Par3
5番
Par4
6番
Par3
7番
Par4
8番
Par5
9番
Par4
10番
Par4
11番
Par4
12番
Par3
13番
Par5
14番
Par4
15番
Par5
16番
Par3
17番
Par4
18番
Par4
1997年400Y
PW
555Y
8I
360Y
残り15Y
205Y
6I
435Y
PW
180Y
9I
360Y
PW
535Y
2I
435Y
PW
485Y
8I
455Y
PW
155Y
PW
485Y
8I
405Y
PW
500Y
PW
170Y
9I
400Y
SW
405Y
SW
2019年445Y
8I
575Y
4I
350Y
SW
240Y
4I
495Y
4I
180Y
8I
450Y
8I
570Y
5W
460Y
8I
495Y
FWに戻すだけ
505Y
7I
155Y
9I
510Y
8I
440Y
9I
440Y
9I
170Y
8I
440Y
8I
465Y
7I
※パー3はティーショット

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