「ゴルフ科学者」ことブライソン・デシャンボーの「教科書」であり、50年以上も前に米国で発表された書物でありながら、現在でも多くのPGAプレーヤー、また指導者に絶大な影響を与え続ける「ザ・ゴルフィングマシーン」。その解釈に向かい続け、現在はレッスンも行う大庭可南太に、上達のために知っておくべき「原則に沿った考え方」や練習法を教えてもらおう。

みなさんこんにちは。「ザ・ゴルフィングマシーン」研究者およびインストラクターの大庭可南太です。これまでの記事では、「ザ・ゴルフィングマシーン」で提唱されている「手の教育」という概念のもと、ボールに効率よくエネルギーを伝えることのできる方法とそのトレーニング方法について紹介してきました。今回の記事からは実践編として、ラウンド中に役に立つ考え方を説明していきます。最初のお題は、スウィング中に何を「把握」しているかです。

「視認」→「判断」→「対応」という本能

突然ですが、私たちがゴルフをしているとき、何を感じながらプレーをしているのでしょうか?

たとえば地面の傾斜(バランス感覚)、あるいは肌で感じる風の向き(触覚)、鳥や虫の鳴き声(聴覚)のほかに、「コイツより飛ばしてやる」といった緊張感などいろいろあるでしょうが、やはり一番大きなものは目に入ってくる情報、つまり視覚情報ではないかと思います。

そもそも人間は生活の中で、視覚情報(目)から状況を判断(脳)し、対応する行動(筋肉)することを繰り返しています。例えばクルマの運転であれば、ちゃんとレーンの中を走っているか、信号は何色か、ほかのクルマはどのような動きをしているかを目で確認し、脳はその情報をもとに対応策を考え、筋肉に指令を出します。その結果が、たとえば「ブレーキを踏む」あるいは「ハンドルを切る」といった行動に表れます。

画像: 人間の「対応行動」の一例。日常の生活はこうした行動の連続である

人間の「対応行動」の一例。日常の生活はこうした行動の連続である

これはスポーツの世界でも同様で、たとえば野球であればピッチャーのボールを「見て」、その軌道を予測してタイミングよくバットを振る(あるいは見逃す)ということをしています。私たちの生活はこうした「対応行動」の連続であり、これは動物や昆虫でも同じです。つまりこれは生物の本能と言ってよいでしょう。

ゴルフの理不尽さ

ではゴルフの場合はどうでしょうか。

目標方向に目を向ければ、できればそこに打っていきたいフェアウェイと、右に池、左にOBゾーン、あるいは木がせり出しているかもしれません。要するにあんまり見たくないものが映っています。

そして地面に目を向ければ、ティーイングエリアの地面と、そこにティーアップされて止まっているボールが見えるでしょう。

ゴルフというスポーツの難しさの一つに、「視覚情報→判断→対応」という人間生活の本能的行動がほぼ役に立たないばかりか、逆に悪さをするということがあります。

画像: コースに目を向ければプレッシャーとなる情報ばかり目に入るのがゴルフである

コースに目を向ければプレッシャーとなる情報ばかり目に入るのがゴルフである

まず、どこを見ても景色もボールもほぼ静止状態にあるため、「対応行動」を取るということができません。ひたすら自分から何かを働きかけることしかできない割には、プレッシャーに感じるものばかりが情報として入ってきます。

次に、ボールを目標方向に運ぶ競技であるにもかかわらず、アドレスからインパクトにかけては地面方向を向いていなければなりません。たとえば野球のピッチャーであれば、目標であるキャッチャーミットを見ながらそこに投げ込む意識を持てますが、ゴルフではそうはいきません。

このプレッシャーに対して、結果の善し悪しを目で見て確認したいという欲求が重なって、インパクトにかけて前を向いてしまう、いわゆる「ヘッドアップ」という状態が生まれます。それがインパクトを不安定なものにしてしまうことは誰でも経験があることと思います。

「把握」すべきものは何か

見てもしょうがないものばかりが見えているいっぽう、「オレは打つときは目をつぶるんだ」という人もあまり見かけません。プロの連続写真などを見ても、本人が何を意識しているかはともかく、インパクトでは必ず地面方向に顔が向いています。つまり何かは見ている、あるいは見えているはずです。

画像: インパクトの時に地面以外の方向に顔を向けているプロは見かけない(コリン・モリカワ左、ダスティン・ジョンソン右、写真/Blue Sky Photos)

インパクトの時に地面以外の方向に顔を向けているプロは見かけない(コリン・モリカワ左、ダスティン・ジョンソン右、写真/Blue Sky Photos)

では「ザ・ゴルフィングマシーン」では、何を「見ろ」と言っているのでしょうか。じつは「二つのものの動きを同時に把握しろ」と難しいことを言っているのですが、ここではまず一つ目を紹介します。

それは「クラブヘッドの軌道」です。

「いやそんな速いスピードで動いているものは見えないでしょう」と思われかもしれません。でもクラブヘッドはたいてい金属製で、どこかが反射で光って見えるはずです。ある程度のスピードで振り回したとしても、その光の線、あるいはクラブヘッドの残像のようなものは見えないでしょうか。

いずれにせよ、見えるものは「点」の状態ではなく、「線」の状態です。ボールと地面は動きませんので、視点がブレなければ、地面を見ている固定カメラの静止画像に、一瞬クラブヘッド軌道の「線」が入ってくるような見え方になるでしょう。

で、ここからは当たり前の話なのですが、この軌道が限りなく目標方向に向かって真っすぐであれば、ボールってたぶん目標方向に飛ぶんじゃないですかね? もちろん人体の構造上、完全に直線的にクラブヘッドを動かすことはできないはずで、アーク(円弧)にはなるでしょう。

画像: クラブヘッドの軌道で、おおよその弾道の予測は可能である

クラブヘッドの軌道で、おおよその弾道の予測は可能である

それでもだいたい狙った方向にボールが飛びそうな「軌道」を作ることはできる気がしますし、その善し悪しをチェックする意識で地面方向を見ているというのが建設的ではないでしょうか。だってほかのものは見たところで役に立たないわけですから。打ったボールを目で追ったところで、念力でも使わないかぎり、もう曲がるものは曲がるしかないわけです。

ボールは「当てにいく」ものではなく「当たる」もの

つまり「ボール方向に目を向けておいて、そこを通過するクラブヘッド軌道を見る」ということになりますが、そうは言っても「この軌道だとまずいな」と思ってそれを修正してインパクトするということもできません。

長年の研究で、「見る→判断する→行動する」の対応行動は、人間の場合は最低でも0.25秒かかることがわかっています。これはダウンスウィングからインパクトに要する時間よりも長いため、ゴルフに応用することは不可能です。よって、ダウンスイング中に何らかの調節を入れながら上手く当てる、言い換えれば「当てにいく」というのはゴルフではムリなのです。

ではクラブヘッドの軌道を見ることは何の役に立つのでしょうか。ここではストロークにおける一般的なルーティンをもとに説明します。

画像: クラブヘッド軌道の確認と、ボール打ち出し方向をリンクさせるプロセス。広いゴルフ場で、自分周辺のできごとに集中することが必要となる

クラブヘッド軌道の確認と、ボール打ち出し方向をリンクさせるプロセス。広いゴルフ場で、自分周辺のできごとに集中することが必要となる

(1) まず目標を定め、そことボールを仮想の線で結びます。これを「ターゲットライン」といいます。

(2) アドレスの視点になってもターゲットラインを意識できるように、ボール付近にターゲットラインの目印となるものを探します。地面に落ちているものや、芝の色が変わっているところなど何でも構いません。これを「スパット」と呼びます。

(3) 次にターゲットラインと平行に立って、可能なかぎりスムーズなスウィングで素振りをします。このときにクラブヘッドの軌道を確認して、ターゲットライン方向に打ち出して行けそうなことと、その時のフィーリングを確認します。

(4) 素振りの時のヘッド軌道と、ターゲットラインの距離だけ近づいたところに立ちます。そして(3)と同じフィーリングのスウィングで、同じクラブヘッド軌道を作ります。そうすると構造上たぶんボールに当たってしまいます。

要するに、「当たりそうなクラブヘッド軌道を作る」と、「当たりそうなところに立つ」結果、「構造上ボールに当たってしまう」という意識です。

「それじゃあ当たるか不安じゃないか」「きっちり芯でとらえたい」。
はい、それは世界中のゴルファーの気持ちなのですが、これまで説明してきたように、残念ながらそうした考え方ではゴルフは永久に難しいままなのです。

ではここで紹介したプロセスで「必ず当たるのか」と言われると、プロでもミスショットしますのでそんなことわかりません。

しかし大事なことは、「必要な準備をしたら、あとはボールに当たるところでそれを再現することしかできない」という「受け入れる姿勢」なのです。

まずは素振りでいいので、クラブヘッドの軌道が「何となく把握できる」ようになることからはじめましょう。それができているということは、ヘッドアップは起きていないということになります。

次回はもう一つの「把握するべきもの」について紹介します。

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