「ゴルフ科学者」ことブライソン・デシャンボーの「教科書」であり、50年以上も前に米国で発表された書物でありながら、現在でも多くのPGAプレイヤー、また指導者に絶大な影響を与え続ける「ザ・ゴルフィングマシーン」。その解釈に向かい続け、現在はレッスンもおこなう大庭可南太に、上達のために知っておくべき「原則に沿った考え方」や練習法を教えてもらおう。

みなさんこんにちは。「ザ・ゴルフィングマシーン」研究者およびインストラクターの大庭可南太です。さて先日おこなわれた国内男子ツアー「フジサンケイ・クラシック」では、プロ2年目の大西魁斗選手が 初優勝を遂げました。大西選手は9歳で渡米、13歳からIMGアカデミーを経て南カリフォルニア大学に進み、オールアメリカンにも選出された経歴を持ちます。

大西選手のスウィングは、このコラムでも前回まで取り上げてきた「ヒップクリア(右腰が両手の通り道をふさがないようにすること)」を完璧におこない、その結果右の側屈(サイドベンド)を強烈に入れながら前傾をキープした状態でショットを放っていきます。

今回の記事では大西選手のスウィングを例に、「ヒップクリア」スウィングをおこなった際の特徴について解説をしていきたいと思います。

大西魁斗のスウィング

ではまず大西選手のスウィングを見ていきましょう(写真A)。

画像: 写真A:ややベタ足で右腰のボール方向への移動を抑えつつ、左脚が伸びていくことでダウンスウィングのエネルギーを作り出している

写真A:ややベタ足で右腰のボール方向への移動を抑えつつ、左脚が伸びていくことでダウンスウィングのエネルギーを作り出している

比較的高めのトップから、ダウンに入っても右腰がボール方向に近づくのを極力抑えて、左腰を背中側に持ち出すことでヒップクリアを達成しています。そのため両手がまったく詰まることなく、体幹と両手の距離を保ったままインパクトを迎えています。

右のつま先を基準として線を引いてみると、やはり右腰や体幹がボール方向に近づいている度合いが極端に少ないことがわかります。そのため側屈(サイドベンド)量が増えるために、インパクトに向けて頭が沈み込んでいく体勢になります。

前回の記事で紹介したヒップクリアの手段ということで言えば、マキロイ選手と同様「右ベタ足」型と、「左ヒップ持ちだし型」を同時におこなっていることで、これ以上は不可能なほどヒップクリアを達成しています。

こうしたスウィングはやはりある程度幼少期のうちからトレーニングを積んでこなければ完成できないものにも感じます。しかし単純に「個性的」なわけではなく、「ハブのプレーン」をしっかりと意識して完成してきたスウィングに思えます。

「ハブ」を意識すれば肩は開かない

「ハブ」とは両手の通り道という意味です。

画像: 写真B:両手の通り道を自転車のタイヤの部分に見立て、スウィングの中心軸とスポークでつながっている様子をスウィングの「ハブ」という。「ハブパス」「ハブプレーン」などとも表現される(写真は「Search for the Perfect Swing」より抜粋)

写真B:両手の通り道を自転車のタイヤの部分に見立て、スウィングの中心軸とスポークでつながっている様子をスウィングの「ハブ」という。「ハブパス」「ハブプレーン」などとも表現される(写真は「Search for the Perfect Swing」より抜粋)

ゴルフクラブを両手で握っている以上、その両手の軌道によって作られるプレーンが目標方向を向いていれば、ボールを目標に打ち出せる確率が上がるはずだという、原理的には単純な考え方です。

大西選手もアメリカ育ちと言っていいと思いますが、アメリカではあれほど多くの選手が活躍しながら、スウィングの形ということで言えばけっこうみんなバラバラ、つまり自由です。「個性」を尊重する風土と言ってしまえばそうなのかも知れませんが、好き勝手に振り回して結果が伴わなければ意味がありませんので、「これだけは守れよ」という原則があるはずです。

その原則のひとつがこの「ハブのプレーン」ということになります。そして方向性を意識するほど、このプレーンが「縦回転」に近づいていくいっぽう、飛距離を意識するほど「捻転差(Xファクター)」を意識することになります。

画像: 体幹(腰、胸郭)は目標方向に向きつつ、肩はほぼ縦回転、つまり右肩が垂直に下がっているように動いている

体幹(腰、胸郭)は目標方向に向きつつ、肩はほぼ縦回転、つまり右肩が垂直に下がっているように動いている

つまり「ハブのプレーンは縦回転」でありながら、腰や体幹は目標方向に向いて「捻転差をつくる」ということを、どのレベルで達成するのかということを意識してトレーニングをしていると考えられます。それを体格および筋力や柔軟性などの「個性」に応じてどのようにマッチングしていくかというのがアメリカ的なのではないかと考えます。

日本的なゴルフ観の問題として私が感じるのは、「体幹が目標方向に向く」ことをかなり意識するいっぽう、「肩が開かない」ことをあまり重要視しません。結果ハブのプレーンも左を向いてカット軌道になりがちなので、スライスするプレーヤーが多いという現象が起きますが、そりゃそうなるでしょうと思うわけです。

「右肩が下がる」が本来正しい

そうした日本的レッスン用語のひとつに「右肩を下げるな」というのがありますが、「ザ・ゴルフィングマシーン」では逆に「右肩は下がるよ」と言っています。

というか大きな三角形を縦に回して、中心軸がズレなければ本来右肩はインパクトに向けて下がって行くはずなのです。

画像: 両肩と両手を結んだ「大きな振り子」が縦に回転するのであれば、必然的に「右肩は下がる」はずである。(撮影/岩崎亜久竜)

両肩と両手を結んだ「大きな振り子」が縦に回転するのであれば、必然的に「右肩は下がる」はずである。(撮影/岩崎亜久竜)

「ザ・ゴルフィングマシーン」では、スウィングのあるべき順番として、

【1】ヒップがクリアできている(手の通り道が確保されている)
【2】右肩がそのスペースに向かって下りてくる
【3】右肩に追従して右ひじが下りてくる
【4】クラブがインサイドから適正なプレーンで下りてくる

という流れを紹介しています。逆にこの流れが崩れるケースとして、

【1】ヒップがクリアできない(おそらく下半身の動きに不具合がある)
【2】右腰がボール側にせり出す
【3】右肩がボール側にせり出す
【4】クラブが外から下りてくる(アウトイン軌道になる)

と言う流れを紹介し、「典型的なエラー」としています。

さらに「ダウンにかけて右肩は、後方、下方に留まるように意識せよ」とも言っていますので、右肩の意識でハブのプレーンを適正化できるとしているわけです。

改めて大西選手のインパクトを見ると、ほぼ右肩が垂直に回転して「下がっている」ように見えます。しかしハブの中心軸とボールの距離が変わらなければ、クラブがボールに近づいているわけではないのでダフることにはならないのです。

もちろん一般的なアマチュアが大西選手のスウィングを目指すのは難しいかも知れません。ですが、ご自身のスイングの「両手の通り道はちゃんと確保できているのだろうか」ということを意識して練習することは誰にでもできると思います。ぜひお試しください。

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