「ゴルフ科学者」ことブライソン・デシャンボーの「教科書」であり、50年以上も前に米国で発表された書物でありながら、現在でも多くのPGAプレイヤー、また指導者に絶大な影響を与え続ける「ザ・ゴルフィングマシーン」。その解釈に向かい続け、現在はレッスンも行う大庭可南太に、上達のために知っておくべき「原則に沿った考え方」や練習法を教えてもらおう。

みなさんこんにちは。「ザ・ゴルフィングマシーン」研究者およびインストラクターの大庭可南太です。さて先日おこなわれた国内女子ツアーの「日本女子プロゴルフ選手権コニカミノルタ杯」では、ルーキーイヤーの川﨑春花選手が、最終日8アンダーの逆転で初優勝を遂げました。

国内女子は毎試合のように有望な選手が出てまいりまして、日本女子ゴルフ界の未来は希望に満ちあふれていると感じるいっぽう、そのスウィングの潮流を追いかける側としては毎週なかなか慌ただしいものがあります。幸い川﨑選手のスウィングについては、「みんなのゴルフダイジェスト」でもすでに中村修氏が記事にしてくれていますので、そちらの連続写真を参考にしながら「ザ・ゴルフィングマシーン」的観点について紹介をしていきます。

今回のお題は「つま先の向き」についてです。

まずは川﨑選手のスウィングの連続写真(画像A)をご覧頂きましょう。

画像: 画像A:アドレスで左右のつま先が正面方向を向き(どちらにも開いていない足のポジション)、全体を通じてどちらにも下半身が流れないバランスの良いスウィング(写真/大澤進二)

画像A:アドレスで左右のつま先が正面方向を向き(どちらにも開いていない足のポジション)、全体を通じてどちらにも下半身が流れないバランスの良いスウィング(写真/大澤進二)

身長158センチ体重51キロと、大柄とは言えない体格ながら、ドライビングディスタンスでも今大会では全体の7位に入る原動力としてまず目に入るのは、トップにおける左肩の入りの深さです。

しかしここで注目なのは、川﨑選手の両足のつま先はほぼ正面を向いている、つまり両足のポジションは目標に対してスクエアな状態になっていることです。目立たないポイントですが、右足をスクエア、つまり右足の親指、土踏まず、カカトでできる線を目標方向に垂直にした状態でバックスウィングをおこなうと、平均的な柔軟性のプレーヤーにとってはけっこうな制限を感じるはずです。

よってアドレス時点で右足をどの程度開くのか、あるいは開かないのかは、その選手の意図するトップの捻転を作った状態にかなり密接に影響していると言えます。

川﨑選手の場合、右足をスクエアにしながらもじゅうぶんすぎるほど上半身が捻転しているうえに、インパクトにかけても左脚を蹴りながらヒップの前方へのスライドを抑えることで、重心をずっと中央に維持したままスウィングしているように見えます。逆に左足を開いておくと、フォローに向けてターンをしやすくなりますが、ヒップスライドも大きくなり、左脚に乗っている感覚が強くなります。

もちろんそれ自体は悪いことではありませんが、昨今の潮流としては「右足体重からから左足体重へ」という派手な体重移動はやや控えめに、下半身による重心移動を抑えたスウィングで安定性を作っている選手が増えてきているように感じます。

右スクエア左オープン

いっぽうオーソドックスかつ現代でも多数派と思われるのが、右足はスクエア、左足はややオープンというスタンスです。

画像: 画像B:渋野日向子も柔軟性を生かし、バックスウィングではスクエアな右足で捻転をつくっているが、左足はややオープンにすることでフォロー側を大きく取るイメージを持ちやすくしている(写真は2022年のシェブロン選手権 撮影/Blue Sky Photos)

画像B:渋野日向子も柔軟性を生かし、バックスウィングではスクエアな右足で捻転をつくっているが、左足はややオープンにすることでフォロー側を大きく取るイメージを持ちやすくしている(写真は2022年のシェブロン選手権 撮影/Blue Sky Photos)

この右足をスクエアにすることには、捻転差を意識しやすいという利点のほかに、スウィングの方向性を感じやすいという指摘もあります。かのベン・ホーガンはその著書の中で、「右足を目標にスクエアにすることで、運動の全体の方向性を感じることができる。ピッチャーマウンドのプレートがホームベースの方向を向いているのを足の裏で感じるのと同じことだ」としています。

左右オープン

また、左右により自由に足首や、ヒザの可動域を確保したいのであれば当然、左右オープンという選択肢もあります。

画像: 画像C:左右のつま先が双方ややオープンに見えるマキロイのスウィング。故障のリスクという点では最小と思われる(写真/姉崎正)

画像C:左右のつま先が双方ややオープンに見えるマキロイのスウィング。故障のリスクという点では最小と思われる(写真/姉崎正)

捻転差を感じることはもちろん重要ですが、その感覚は筋肉や関節、じん帯や腱などが引っ張られたり、たわんだりする際の緊張感かもしれません。よって左右の足をオープンにして、あらかじめ可動域を確保しておくことで故障のリスクは最小限になるとも考えられます。

一般ゴルファーは故障を避ける意味でも、まずこの左右ややオープンな状態で始めるのが良いかも知れません。

ポジションとアクション

アドレスにおいてどの程度つま先を開いておくのか、あるいは開かないのか、静的な問題です。つまり、そうと決めて意識しておけば必ず達成できます。しかしそれによってその後の動作がどのように進行するのかは動的な問題です。

じつは今回の「つま先の向き」も、その後のアクションにつながっています。「ザ・ゴルフィングマシーン」のコンポーネント分類で言えば「フットアクション」と「ニーアクション」のバリエーションにつながっています。

画像: 画像D:コリン・モリカワはつま先のポジションで言えば「右スクエア左オープン」だが、ダウンスウィングにおけるひざのアクションは「キックイン」している(写真/Blue Sky Photos)

画像D:コリン・モリカワはつま先のポジションで言えば「右スクエア左オープン」だが、ダウンスウィングにおけるひざのアクションは「キックイン」している(写真/Blue Sky Photos)

例えばコリン・モリカワ選手は「右スクエア左オープン」の足のポジションですが、ダウンスウィングでは右ヒザが前方に送り込まれる「キックイン」の体勢を取っているために、インパクトにかけて右かかとが浮いてきます(画像D)。

これは決して「良い」「悪い」という話ではなく、スウィングの方向性として、「前半をコンパクトかつ捻転をじゅうぶんにとり、インパクトからフォローに向けて大きく」というイメージを持っているからではないかと思います。

画像: 画像E:デシャンボーはやや左脚荷重から、バックスウィングに向けて左かかとを持ち上げる(写真/KJR)

画像E:デシャンボーはやや左脚荷重から、バックスウィングに向けて左かかとを持ち上げる(写真/KJR)

逆にブライソン・デシャンボーの場合は、バックスウィングに向けて左のかかとが浮いてくる、いわゆる「ヒールリフト」という手法を採用しています(画像E)。また往年の名手ジャック・ニクラスもこの手法を採用していました。これによって最大限のバックスウィングのアークを獲得するいっぽう、インパクトからフォローにかけては右足が地面に付いた「ベタ足」の状態になります。

イメージとしては「バックスウィングを最大、インパクトからフォローにかけてバランス重視」という感じではないでしょうか。飛ばし屋に多い傾向とも言えます。

このようにアドレス時の「つま先の向き」で、その選手の意識しているスウィングのイメージをある程度推し量ることもできます。

冒頭の川﨑選手の例で言えば、「左右どちらにもコンパクトに、方向性とバランスを重視」ということになってしまうのですが、それで飛距離も出ているということなので「うん、活躍しそう」と思ってしまうわけです。

では、アマチュアはどうすればいいの?

前述のように、レッスンにおいてはまずは故障のリスクを避けることが重要なので、通常は左右どちらもややオープンをオススメする場合が多いです。その後しっかりと「ターゲットを意識してアドレスできる(これがまず難しいのですが)」ようになってから、出球をにらみつつ微調整を加えていくのが良いと思っています。

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