「ゴルフ科学者」ことブライソン・デシャンボーの「教科書」であり、50年以上も前に米国で発表された書物でありながら、現在でも多くのPGAプレーヤー、また指導者に絶大な影響を与え続ける「ザ・ゴルフィングマシーン」。その解釈に向かい続け、現在はレッスンもおこなう大庭可南太に、上達のために知っておくべき「原則に沿った考え方」や練習法を連載形式で教えてもらおう。

みなさんこんにちは。「ザ・ゴルフィングマシーン」研究者およびインストラクターの大庭可南太です。これまでの記事では、「ザ・ゴルフィングマシーン」で提唱されているスウィングの「部品」である「コンポーネント」という概念を、プロのスウィングを例に挙げて紹介してきました。

最終的にはこれらの「部品」群が、その必要とされている機能を発揮しつつ、ほかの部品の機能を阻害しない、つまりスウィング全体として調和がとれている状態を目指したいわけです。

しかし初心者やアベレージゴルファーの場合、個々の「部品」の機能もあやふやなうえに、一つを整えるとほかの箇所がメチャクチャになるという問題が起きる場合が多いです。典型的な例では、「ドライバーがよくなるとアイアンが当たらない」などという場合です。

そこで今回の記事では、レッスンの現場ではどのような手順を踏んで上達を目指していくのかについて、「ザ・ゴルフィングマシーン」の記述を元に紹介をしていきたいと思います。

指導者の役割は「優先順位」をつけること

例えばあるところに、商品は月並みで、価格も高く、立地が悪くて、広告にもお金をかけられないという飲食店があるとします。もしこの飲食店に経営コンサルティングをするとすればどうなるでしょうか?

ゴルフのレッスンで言えば、「当たらない、飛ばない、カッコ悪い、もうYouTubeの見過ぎで何が何やらわからない」という場合や、「ここに問題があると思うのだけど」という課題の設定がそもそも間違っているという場合もあります。

いっぽうで、その問題解決に向けて投入できる資源には限りがあります。つまり練習にかけられる時間は有限です。まして一回に1時間足らずのレッスンで達成できる内容には限りがあります。私が実際におこなっている手順は以下です。

1.どのような問題が存在しているのかを把握する。
2.どの問題の解決から取り組むのかの優先順位をつけて共有する。
3.問題解決の具体策(ドリルや練習器具)を提案する

その中でどのようなコミュニケーション(言いまわしや動機付け)がその個人に対して有効なのかを探っていきます。しかし指導者にとってもっとも重要なことは、「優先順位をつける」ことだと思っています。問題が38箇所存在するとして、それらをすべて羅列しても頭がパンクしますので効果的なレッスンになりません。

ではこの「優先順位」はどのようにしてつけているのでしょうか。

答えはつねに「ザ・ゴルフィングマシーン」にある

「ザ・ゴルフィングマシーン」では以下の三つをスウィングの「本質」と定義しています。

1. スウィングの軸の安定(ステイショナリーヘッド)
2. スウィングプレーンの確保(バランス)
3. クラブヘッドの加速(リズム)

画像: 「ザ・ゴルフィングマシーン」のスウィングに必要な機能の概念図。この機能をどのように達成するのかによって、採用される「部品」のバリエーションも変化する。(画像はザ・ゴルフィングマシーンより抜粋)

「ザ・ゴルフィングマシーン」のスウィングに必要な機能の概念図。この機能をどのように達成するのかによって、採用される「部品」のバリエーションも変化する。(画像はザ・ゴルフィングマシーンより抜粋)

実際のレッスンでもこの順番で最適化を図っていくことが最適であると私は感じています。順番に見ていきましょう。

(1)スウィングの軸の安定(ステイショナリーヘッド)

これができていない状態とは、「スウェイ、起き上がり、突っ込む、そのほかの現象によって、頭部が不用意に動くことでスウィングの中心軸が確保されていない」ことです。あるいは「前傾角度の維持」が失われている場合も当てはまるでしょう。

画像: 当たり前だがプロ、上級者でこのスウィング軸が確保できていない選手はいない。前傾角度を維持して手の通り道を確保し、インパクト後も頭部は後方に残っている(写真は小祝さくら)

当たり前だがプロ、上級者でこのスウィング軸が確保できていない選手はいない。前傾角度を維持して手の通り道を確保し、インパクト後も頭部は後方に残っている(写真は小祝さくら)

多くの場合アマチュアの方は頑張って「体を使って」打とうと考えるあまり、スウィング軸が崩壊した状態になりやすいです。対策としては、アドレスでの姿勢をしっかりと意識した状態で連続素振りなどをおこなうと「スウェイ」と「捻転」の違いがわかってくると思います。

(2)スウィングプレーンの確保(バランス)

(1)のスウィング軸が確保されることで、スウィングプレーンが定まってきます。これによってボールを正確に打撃すること、つまり「当たる」ようになり、ボールの打ち出し方向も決まっていきます。

画像: ダウンスウィングのシャフト軸の移動平面(プレーン)が決定することで、ボールの打ち出し方向が決定する(写真は大西魁斗)

ダウンスウィングのシャフト軸の移動平面(プレーン)が決定することで、ボールの打ち出し方向が決定する(写真は大西魁斗)

練習の中で意識したいことは、「クラブヘッドの軌道を見る」ことです。実際にはクラブヘッドは高速で動きますので、「残像」のようなものになりますが、それでも意識をしていくと軌道が把握できるようになってきます。逆に言えば大きなミスショットになったときは、その軌道がまったく把握できていなかったケースが多いはずです。

ここから「軌道を把握しやすいバックスウィング」を意識するようになり、つまりトップオブザスウィングの位置も定まってくるようになります。

(3)クラブヘッドの加速(リズム)

この時点である程度ボールに当たり、打ち出し方向も定まってくるはずです。そこで「クラブヘッドをどのように加速するのか」という段階に進むことができます。この段階ではショルダーターンやフェースターンなど、多くの「部品」が関与しますので、ある意味「終わりなき旅」とも言えますが、(1)と(2)ができていないと出発すらできません。

画像: クラブヘッドの加速をタイミングよくおこなえるほど、フィニッシュも大きく、伸び伸びとしたものになっていく。写真はローリー・マキロイ(写真/姉崎正)

クラブヘッドの加速をタイミングよくおこなえるほど、フィニッシュも大きく、伸び伸びとしたものになっていく。写真はローリー・マキロイ(写真/姉崎正)

レッスンではロープのように柔らかいものを振って「遠心力」の感覚を掴んでもらうことや、バットのようにゴルフクラブよりも重いものを振ることで「クラブヘッドの重量」を感じていくことに取り組みます。

そしてこれら(1)〜(3)の取り組みはループしていきます。つまり(3)の「クラブヘッドの加速」が上達することで、(1)の「スウィング軸の安定」の感覚も変化します。コマを高速で回すほど中心軸が安定しているように見えるのと同じで、これらの(1)〜(3)は互いに密接に関係しているのです。

そうしてスウィングが形になっていくなかで、「スウィンガー」「ヒッター」といった適性や、ドローかフェードかと言った持ち球の選択もおこなわれるようになります。

このような成長戦略をベースとして、「今このとき」に何をおこなうべきなのかをしつこく提案するのが指導者の役目だと思っています。大抵のアマチュアの方は一つを達成すると「あー、もうわかっちゃったー」とか言って全然別のことを始めたりしますので。

ゴルフは「打つ」のではなく「立つ」スポーツ

一つ注意点として、このような手順を踏んでもいざ本番になるとまったく別のスウィングになってしまうという方が結構多くいらっしゃいます。

原因は「ボールを打とう」とすることです。ここで言う「打とうとする」行為は、「動いているものに合わせて動作を行う」というもので、いわば動物の本能のようなものです。例えば鳥が空中を飛んでいる虫を飛んでいって捕食するように、あるいはピッチャーがボールを投げればバッターが打つように、対象に対して反射的に「合わせる」動作を指します。

生存のためには重要な本能ですが、ゴルフでこの本能が発動するとインパクトを「点」で捉えるようになり、スウィングの構造がおかしくなる、ヘッドスピードが落ちる、また多くの場合「ダフる」といった現象が起きます。

この本能を「オフ」にすることは非常に難しいのですが、私は前述したように「クラブヘッドの軌道をつくる」意識をオススメしています。クラブヘッドが鋭く、高速で、美しい軌道を描く素振りをおこなって、あとはその軌道とボールの位置が重なっていれば当たってしまう。つまり完璧な素振りがボールを捉えてしまう場所にうまく「立つ」スポーツと考えた方が上達が早くなるように思えます。

簡単ではありませんが、上達の道筋の参考にしていただけると幸いです。

画像: ラフからのセカンドショット、正解は? 元バレーボール女子日本代表・狩野舞子のスイングが激変!【小澤美奈瀬】【ユーティリティ】【UT】 youtu.be

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