「ゴルフ科学者」ことブライソン・デシャンボーの「教科書」であり、50年以上も前に米国で発表された書物でありながら、現在でも多くのPGAプレイヤー、また指導者に絶大な影響を与え続ける「ザ・ゴルフィングマシーン」。その解釈に向かい続け、現在はレッスンも行う大庭可南太に、上達のために知っておくべき「原則に沿った考え方」や練習法を教えてもらおう。

みなさんこんにちは。「ザ・ゴルフィングマシーン」研究者およびインストラクターの大庭可南太です。先週おこなわれたPGAツアーの日本大会である「ZOZOチャンピオンシップ」では、キーガン・ブラッドリー選手が4年ぶりとなるツアー4勝目を挙げました。

日本人の祖父をもつ、リッキー・ファウラーも最後まで優勝争いにからみ、日本人選手では中島啓太選手、久常涼選手が12位に食い込むなどその活躍が話題になりました。

今回は上位選手のスウィングの連続写真をもとに、クラブの加速の手法、「ザ・ゴルフィングマシーン」の用語で言えば「パワーローディング」の方法の違いについて紹介をしていきたいと思います。

クラブの加速の順番

ゴルフスウィングでは、最終的にはクラブヘッドが最大限に加速してボールと衝突することで飛距離がのもととなるパワーが獲得できるわけですが、ザ・ゴルフィングマシーンでは、以下のような過程を踏むとしています。

(1)アキュムレート(蓄積)
人体が捻転その他をおこなうことで、クラブをトップの位置まで移動させます。この時に必要な筋肉群の収縮が行われます。

(2)ロード(負荷)
筋肉その他が活動することで、緊張が発生し、あるいはシャフトがしなったりします。

(3)ストア(保持)
その状態を保持したまま、適切な位置に両手やクラブのパワーユニットが移動できる状態にします。これができていないといわゆる「アーリーリリース」の状態になります。

(4)デリバリー(移送)
リリースがおこなわれるべき適切な場所までパワーユニットを移送します。

(5)リリース(開放)
シャフトのしなり、手首のコックなどが開放され、クラブヘッドのスピードに転換されます。

ここまでバックスウィングからダウンまでの過程を分解して考えながらスウィングをしている人もいないとは思いますが、運動としては投げ釣りで仕掛けを遠くに飛ばす動作を考えると、もう少しわかりやすいかも知れません。

釣り竿と仕掛けを後方に移動させ(蓄積)、前方に投げ出す動作を開始するとともに竿がしなり(蓄積)、その適切なしなりをキープしたまま(保持)、竿を持った両手を適切な位置まで移動させ(移送)、両手の速度が減少する代わりに竿のしなりが戻って(開放)、仕掛けが遠くに飛んでいく。あれ、わかりやすくなかったですかね?

重要なことは、ゴルフスウィングであれ、投げ釣りであれ、運動には連動しつつも順序がある(「シーケンス」と言います)わけで、これらの各パートの発生タイミングや、その重なり合い方で運動に個性が出てくるということです。当然のことながら、この「シーケンス」の完成度が高い(連動が効率的である)ほど、同等のフィジカルであって高いパワーを発揮できるということになります。

ざっくりいえば、プレーヤーが「どのタイミングでパワーを込めて」クラブを振り下ろしているのかは、けっこう個性があるということです。前置きが長くなりましたが、各選手のスウィングをその視点で見ていきましょう。

キーガン・ブラッドリーの「トップから持続型」ローディング

まずは今大会で優勝したキーガン・ブラッドリー選手のスウィングを見ていきましょう(画像A)。まずこの選手の特徴は、アドレスの時の両手の位置が異常に低いです。もはや何かに腰掛けた状態で前傾をしているくらいになっていますので、両手の位置とヒザの高さがほとんど変わりません。

画像: 画像A 手元が低い状態のアドレスから、比較的早い段階でローデョングアクションを開始し、じっくりとリリースにつなげているキーガン・ブラッドリーのスウィング。左脚の伸ばし方もゆっくりである(写真は2022年のZOZOチャンピオンシップ)

画像A 手元が低い状態のアドレスから、比較的早い段階でローデョングアクションを開始し、じっくりとリリースにつなげているキーガン・ブラッドリーのスウィング。左脚の伸ばし方もゆっくりである(写真は2022年のZOZOチャンピオンシップ)

長身(188cm)ということもありますが、ここまで両手の位置が低いとうことは、アドレスの時点でのコックの量が多いということになり、このコックの形を終始キープしたままトップを迎え、あまり急激ではなく、じっくりとシャフトに負荷をかけたままリリースにつなげています。

最近の選手はダウンで左足を蹴るとともに瞬間的なローディングをおこなう選手が多いように思えますが、ブラッドリー選手のスウィングはじっくりと踏み込んでいくように左脚を使っていますので、肉体的負荷も少ないように見えるスウィングです。36歳で優勝できた、というよりもPGAツアーの第一線で戦い続けられているのもこうした特徴のゆえではないかと思います。

リッキー・ファウラーの「中間型」ローディング

同じ角度から写しているリッキー・ファウラー選手のスウィングですが(画像B)、キーガン・ブラッドリー選手と比較して、ややコックを少なめに始動して捻転でバックスウィングをおこない、ダウンスウィングの中盤でシャフトに負荷をかけています。そのため、ブラッドリー選手に比べて左脚が伸びるタイミングが少し速くなっています。

画像: 画像B ダウンストロークの中盤でシャフトに負荷をかけているリッキー・ファウラーのスウィング。キーガン・ブラッドリーと比較してやや早めに左脚を伸ばして(蹴って)いる(写真は2022年のZOZOチャンピオンシップ)

画像B ダウンストロークの中盤でシャフトに負荷をかけているリッキー・ファウラーのスウィング。キーガン・ブラッドリーと比較してやや早めに左脚を伸ばして(蹴って)いる(写真は2022年のZOZOチャンピオンシップ)

とはいえその左脚の伸ばし方も、それほど強く蹴っているようにはうつりませんので、どちらかというと上半身のキレで振っている印象のスウィングに見えます。

久常涼の「後半型」ローディング

この選手のスウィングは昨年生で拝見をしましたが、いわゆる私の大好きな「ゆったり見えて飛んでいる」タイプのスウィングで、全体にあまり力感、あるいは緊張感といったものを感じさせないのにしっかりクラブヘッドが動いている印象です(画像C)。

画像: 画像C コックを少なめに大きな半径のバックスイングをおこない、ダウンストロークのかなり後半にシャフトに負荷をかけている久常涼のスウィング(写真は2022年のZOZOチャンピオンシップ 写真/岡沢裕行)

画像C コックを少なめに大きな半径のバックスイングをおこない、ダウンストロークのかなり後半にシャフトに負荷をかけている久常涼のスウィング(写真は2022年のZOZOチャンピオンシップ 写真/岡沢裕行)

特徴的なのは二枚目(中央)の状態です。ダウンスウィングの中盤というか、リリースタイミングの直前であるにもかかわらず、この時点ではまだシャフトに大きな負荷がかかっているように見えないことにお気づきでしょうか。

ギリギリまでローディングを遅らせ、短い時間の中でシャフトに負荷をかけてリリースまで持って行くことで、最大限のパワーを引き出しています。インパクトの直前だけパワーを込めるような動作に見えます。

一般論として、キーガン・ブラッドリー選手のように、シャフトに負荷をかけている時間が長い選手は正確性に優れ、瞬間的に負荷をかける方が飛距離の効率は良くなります。

「竿」を通じて「おもり」を感じる

とはいえ(毎度おなじみの結論ですが)ここに「正解」はありません。人それぞれのフィジカルも感性も異なりますので、どのようにクラブヘッドを加速させるのが心地よいのかは人によって異なります。そのために「竿」であるシャフトは無数の種類(重量、振動数、剛性分布)が存在しているのです。

ではどうすれば自分に合った「型」に行き着くのかですが、まずは、ゴルフのスウィングを、「シャフトという竿を使って」「クラブヘッドというおもりを遠くに飛ばす」動作として認識することが大事だと思います。

対極の考え方は、「棒の先についたヘッドでボールを叩く」というものですが、実際にはシャフトは予想以上に「しなっているもの」ですし、その「しなり」があるからクラブヘッドの位置や状態を感知することができるのです。

「ボールを強く叩く」よりも、「シャフトを使ってヘッドを速く動かす」ことを意識していただくことが飛距離アップには有効だと思います。是非お試しください。

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