「ゴルフ科学者」ことブライソン・デシャンボーの「教科書」であり、50年以上も前に米国で発表された書物でありながら、現在でも多くのPGAプレーヤー、また指導者に絶大な影響を与え続ける「ザ・ゴルフィングマシーン」。その解釈に向かい続け、現在はレッスンも行う大庭可南太に、上達のために知っておくべき「原則に沿った考え方」や練習法を教えてもらおう。

みなさんこんにちは。ザ・ゴルフィングマシーン研究者およびインストラクターの大庭可南太です。日本のゴルフ界では主要大会が終了し、つかの間のシーズンオフの雰囲気に包まれるなか、スポーツ界の話題はサッカーワールドカップ日本代表一色となりました。

今大会では緒戦のドイツ戦に奇跡の勝利、コスタリカにまさかの敗戦、決勝トーナメント進出をかけたスペイン戦に再び逆転勝利と、良くも悪くも期待と想像を裏切る展開となったために、メディアでもSNS上でもそれは激しく「手のひらを返す」論調が氾濫しました。

日本人の「勝てば官軍」感覚、少しかっこよく言えば「結果至上主義」が炸裂した格好となりましたが、これは実はサッカーの論評だけではなく、皆さんのゴルフへの考え方にも大きく影響しているところがあると感じましたので、思うところを書いてみようと思います。

今回のW杯日本代表の本質性

私個人としては、今回の日本代表は緒戦のドイツ戦に勝利したことと、史上初めて決勝トーナメントを明確に意識した選手起用をしたという点で、W杯における戦い方という点で新たな1ページを作ったと思います。

今回は中3日の強行日程、また通常のサッカー界のシーズンオフである6月開催ではなく、シーズン真っ最中の11月開催(疲労、ケガが多い)、さらには交代可能選手が5人に増えるなど状況が変化したなかで、前線からのプレスや流れを変える選手交代など、チームとして一つの「スタイル」を作って戦いに臨めたという点で画期的だったと思うのです。これまでの日本代表はどちらかと言えば格上相手に「一生懸命がんばる」が戦術の全てでしたので。

それが、緒戦に勝利したときは「神采配」などと喝采の嵐かと思えば、第二戦を落とせば大バッシングで、絶望的と思われたスペイン戦に勝てば再び賞賛のオンパレード。いくらなんでもそこまで手のひらを返しすぎたら手首がちぎれるだろうと思ったのは私だけではないでしょう。史上初のベスト8進出を賭けたクロアチア戦では惜しくもPK戦での敗退となりましたが、ここまで雄姿を見せてくれた日本代表には感謝しかありません。

結果も大事ですが…

もちろんプロスポーツの世界ですので、結果は大事です。これはサッカー界に限ったことではなく、ゴルフ界においても同様であるといえます。例えば、やや特徴的なスウィングをする選手が活躍すれば「あの独特の切り返しが」「あの低いトップが」などともてはやされ、調子を落とせば「あのスウィングじゃ勝てない」「そもそもコーチが良くない」などとにわか評論家がネット上で容赦ない批判を浴びせます。

画像: 画像A  プロはスウィングを改造したり磨き上げたりし、常により高いレベルの「新しい景色」を目指して試行錯誤を重ねている(左は渋野日向子 写真/岡沢裕行 右は稲見萌寧 写真/写真/有原裕晶)

画像A  プロはスウィングを改造したり磨き上げたりし、常により高いレベルの「新しい景色」を目指して試行錯誤を重ねている(左は渋野日向子 写真/岡沢裕行 右は稲見萌寧 写真/写真/有原裕晶)

結果や、表面的な事象にとらわれて雰囲気が一変するというのは、これまでも政治やスポーツの世界で起きていた日本人の気質とも言えますが、もう少し本質的な部分に目を向ける意識もあって良いのではないかと思うのです。

たとえば「個性的なスウィング」と「結果」の間に本当に因果関係があるのかどうかや、「なぜ」その選手がそうしたスウィングを行う「選択」をしているのかといったことです。

このコラムでも活躍した選手の「評論的」な内容を取り上げることもありますので「おまえが言うな」と言われるかもしれませんが、ザ・ゴルフィングマシーンという書物は、あくまで物理・幾何学的原理のもと、人体が現実的に実行可能なスウィングの原則論を追求していますので、その点での合理性や、想定できる選手の意図などに焦点をあてて解説してきたつもりです。

画像: 画像B 左はフェードを持ち球とする稲見萌寧、右はドローを持ち球とする渋野日向子(写真/大澤進二)

画像B 左はフェードを持ち球とする稲見萌寧、右はドローを持ち球とする渋野日向子(写真/大澤進二)

実はこの「本質性」を無視して、「結果が良ければすべてよし」という発想になってしまうと、本人のゴルフにも悪影響が出てしまう可能性があります。それは結果を理想に近づけるための「こじつけ」が発生しやすいからです。ザ・ゴルフィングマシーンではこれを「補填行動」と呼びます。

カット打ちでも「ドローが打ちたい」!?

日本ゴルフ界にはどうも「ドローボールはかっこいい」とう風潮があります。多くの場合、当初スライスが出るのがゴルフですので、その気持ちもわかるのですが、スライスが出る根本的な原因は、クラブヘッドの軌道がカット(アウトサイドイン)になっているからという例が多いように思います。

よって根本的な解決策としては、クラブヘッドのカット軌道を修正してドローボールを打つため、わずかにインサイドアウト軌道になるスウィングへの変更を図っていくことになります。そのためのご本人の同意を得て、練習方法を提案していくことがインストラクターの本来の役割でもあるはずです。

しかし「結果」だけを重視して、とりあえず「ドロー」っぽいボールになれば、あるいはスライスの曲がり幅が少なくなればそれでいいと考えると何が起きるでしょうか。

一つはあらかじめフェースを被せてスライスを相殺する行為です。確かに握り方(グリップ)を変更することは即効性はありますが、フェースがインパクトで閉じ切れないとやはりスライスしますし、閉じ過ぎれば引っかけになりますので、左右両方に曲がるという結果を招きます。

またドライバーなど重心角の大きいクラブであれば、ややトゥ寄りに当てて「ギア効果」を発生させることでドロー回転を生み出すという方法もあります。最近のドライバーはフェースの設計も高度化していますのでスライスが弱まる、もしくはドローになるということもあるでしょうが、打点のわずかなズレで球種が変わってしまうので、これも逆球の恐怖と隣り合わせになります。

画像: 画像C 本来カット軌道で打撃すればボールにはスライス回転がかかるはずである(左)。しかしドライバーのように重心角の大きいクラブでトウ寄りに打撃すると重心角を中心にヘッドが回転することでボールにドロー回転が発生することがある(右)。これを「ギア効果」と呼ぶ。(写真はSearch fot the Perfect Swingより抜粋)

画像C 本来カット軌道で打撃すればボールにはスライス回転がかかるはずである(左)。しかしドライバーのように重心角の大きいクラブでトウ寄りに打撃すると重心角を中心にヘッドが回転することでボールにドロー回転が発生することがある(右)。これを「ギア効果」と呼ぶ。(写真はSearch fot the Perfect Swingより抜粋)

さらには「どうせ右に曲がるんだから、最初から左を向いて立つ」という手法も根強い人気がありますが、これはカット軌道をさらに強めてしまうので、よりスライスが強くなる調整になってしまいます。

このように「結果」だけを強引に追い求めれば、上記のような「補填行動」を強める、あるいは複数を組み合わせることになり、その複雑な状況下でナイスショットを生み出すための「練習」が必要になります。しかしそれは相当に確率の低い、難しいことに挑戦し続けることを意味します。

よって本質的には、カット軌道を受け入れてフェードボール主体のゴルフにするか、スウィングをインアウト軌道に改造していくかのどちらかを選ぶことになります。またその方が結果的には近道になるはずです。

まさに森保監督の言っていた、目先の結果に「一喜一憂」することなく、長期的な視点も意識しながら練習をしていくことがゴルフでも重要なのではないかと再認識した今回のワールドカップでした。

This article is a sponsored article by
''.