現在世界ランキング5位のプロサーファー、五十嵐カノア選手。さらに上を目指して鍛錬する日々のリラックスタイムは「ゴルフ」。インタビュー後編は、ゴルフとサーフィンの共通点から世界で活躍する秘密まで、話を聞いた。
画像: 五十嵐カノア/25歳。木下グループ所属。カリフォルニア州出身。3歳でサーフィンを始め、2016年チャンピオンシップツアー参戦資格を獲得、2019年に同ツアー初優勝。2021年東京五輪銀メダル獲得

五十嵐カノア/25歳。木下グループ所属。カリフォルニア州出身。3歳でサーフィンを始め、2016年チャンピオンシップツアー参戦資格を獲得、2019年に同ツアー初優勝。2021年東京五輪銀メダル獲得

子どもの頃から世界を回る。大きな経験になります

GD カノア選手が生まれ育った土地、カリフォルニアのハンティントンでワールドタイトル獲得(2024年パリ五輪へ繋がるISA2022ワールドサーフィンゲームスで初優勝)。改めて、振り返えると……。

五十嵐 ハンティントンビーチは、子どもの頃からすごく練習していて、波をよく知っていることもありますし、友だちも家族も周りにいてやりやすかった。昨年のオリンピックが日本の千葉で開催されたときもやりやすかったのと同じ感じでした。波を他選手より少しでも知っている“ローカルナレッジ”があれば、勝つ確率は1%でも上がる。自信が持てて、良い成績を得ることができました。

GD 13歳の頃からゴルフをしているというカノア選手。どのくらいプレーしますか?

五十嵐 時間が空くとゴルフをしてます。特に今はオフシーズンなので、ゴルフするチャンス! という感じです(笑)。1週間に1度はやりたいなと。始めたきっかけは、ケリー・スレーター(トッププロサーファー) がやっていたから。僕の父はプレーしないんですよ。

画像: 帰国後、所属の木下グループで優勝報告した際のひとコマ。「日焼け対策は?」の質問に「1日4~5時間、海にいるので日焼け止めは大事。スポンサーの資生堂さんのものを使っています(笑)」

帰国後、所属の木下グループで優勝報告した際のひとコマ。「日焼け対策は?」の質問に「1日4~5時間、海にいるので日焼け止めは大事。スポンサーの資生堂さんのものを使っています(笑)」

GD YouTubeでカノア選手がゴルフしている動画を発見しました。そこで、「PGAツアーのプロにもなりたいな」といっていましたが...…。

五十嵐 そうですか(笑)。まあ、サーフィンが終わったらPGAツアーに……いけないと思いますけど、どこまでできるか、自分でテストしたりはしたい。もちろん、今はサーフィンをやっているので。でも、今の間にも一応一生懸命練習しおいて、サーフィンが終わったら挑戦できるようにと。

GD PGAのチャンピオンズツアーから目指すとか?

五十嵐 そこまで行けるとは思っていませんけれど(笑)、すごくゴルフのファンではあります。

GD サーフィンとゴルフに動きなどの共通点はありますか?

五十嵐 やっぱり「コア」をすごく使うところです。体をひねるところもかな。サーフィンはコアを使い、コアから全部のパワーがくるという感じですが、ゴルフもそう。ゴルフをしているときもコアに集中すればすべて安定します。「太もも」がパワーをつくると言う人も多いけど、やっぱりコアだと思います。それが似ているのかなと。

GD 試合でのメンタル面で共通する点はありますか?

五十嵐 サーフィンでは、プレッシャーがかかると頭の中が意外とぐちゃぐちゃになるんです。だから頭のなかを整理することが必要。ゴルフでもストレスがあると頭がぐちゃぐちゃになるし、そうなると調子もよくない。きちんとリラックスしてやらないといけない。これは逆にサーフィンのために勉強になりました。自然相手のスポーツなので、コントロールできることが少ない。だから波が来ない間はきちんと頭のなかをリラックスさせて、波が来たらきちんとアタックできるようにしておく。ゴルフをしていると、そういうトレーニングにもなるんです。いいバランスが取れるようになります。

GD ゴルフはトレーニングですか?

五十嵐 そういう部分もありますけど、やっぱり、サーフィンのことを考えなくていい、リラックスの時間という感覚のほうが大きいですね。オフの時間でやるので、友だちと一緒に、ゆっくりゴルフができるというのがすき。トレーニングとサーフィンの間にゴルフがあるという感じです。

GD トレーニングはどういうことを行いますか?

五十嵐 サーフィンは全身を使います。水泳みたいに水をかき分ける「パドル」なんかもやる。だからやっぱりコア、そして波に乗ったときのバランスが大事です。そのためのトレーニングをしますし、加えて、太ももやレッグパワーも大切ですから、そこも鍛えます。

GD ほかにも取り組んでいるスポーツはありますか?

五十嵐 今はサーフィン、ゴルフ、バスケットです。僕は苦手なスポーツをするのは嫌い。何かをやるときは、上手くないと面白くないですよ(笑)。ゴルフは子どものときからやっているので、リラックスできるし、自信を持ってできるスポーツなんです。野球はやっても全然自信がないから。バスケットもそんなに上手くないけど(笑)。結局、子どものときからサーフィンはトップレベルにいるのでやっぱり面白いんです。 

毎日毎日1%でも上手くなりたい

GD 小さい頃から世界を回って試合に出ているカノア選手。世界を目指すなら、早めに世界に飛び出したほうがいいですか?

五十嵐 そうですね。やっぱりすごく勉強になると思う。言葉もそうだけど、違う文化や食べ物なんかもたくさん挑戦するとか、ちょっとしたことでもいいんです。僕も家にいるのが一番やりやすいし、簡単ではあるけれど、世界を回ればそのぶんやっぱり経験になる。その経験が自分のスポーツにつながります。僕はサーフィンで世界を回って、違う波、違うコンディションを経験し、あとは違う選手とも戦ってきた。ヨーロッパのスタイルは違うし、オーストラリアのスタイルはまた少し違う。みんなを見て、自分が上手くなる。そのための経験なのかなという感じです。世界を回るのはすごくいいと思います。

GD 食べ物が合わないことなどはないですか?

五十嵐 子どものときから、なるべく、どの国に行っても、合わない食べ物でも頑張って合わせるようにしています。どこに行っても何の食べ物でもエネルギーになるように、自分を慣らす練習、そういうトレーニングもあるんです。どこでもいいパフォーマンスができる準備はしておかないと、と子どもの頃から思っていました。

GD 日本のサーフィン界に、若手選手は出てきていますか?

五十嵐 はい、東京オリンピックのおかげで、これからすごく出てくると思います。日本ではサーフィンはまだまだ小さなスポーツ。これからどんどん人気が出てほしいので、僕がサポートしていくことも大切だと思う。楽しみです。

GD 最近、「サーフ&ターフ」(*注)の試合でも優勝したとか。

五十嵐 はい、昨年ですね。サーフィンでは負けちゃったけど、ゴルフで勝ったから優勝できた(笑)。ケリー・スレーターと一緒に出ました。彼はプロサーファーのなかで、一番ゴルフが上手くてスクラッチプレーヤーなんです。彼はPGAツアーのプロゴルファーとすごく仲がいい。僕には仲がいい人はあまりいません。友だちには「カノア、松山(英樹)は知り合い?」って言われますけど。だから、ぜひ会ってみたいですね。

GD 日本でもサーフ&ターフを流行らせましょう!

五十嵐 いいですね。それに日本でゴルフをまだプレーしたことがないので、チャンスがあればぜひプレーしたいです。

GD サーフィンもゴルフも頑張ってください!

五十嵐 2023年、ゴルフはシングルプレーヤーが目標(笑)。サーフィンはまだまだこれからです。パリオリンピックに向けてもそうですけど、WSLの世界チャンピオンに向けて、時間もエネルギーもあるので、毎日トレーニングして、目標に向かって頑張ることに集中したい。毎日毎日1%でも上手くなりたいと思うので、時間を上手く使い自分をコントロールして目標に近づけるように頑張ります。ゴルファーの皆さんも応援よろしくお願いします!

*注/ゴルフとサーフィン、両方のスコアで競う大会。「サーフ&ターフ」とはハワイやカリフォルニアなどで波があればサーフィン、波がなければゴルフに興じるというスタイルを指すもの

画像: 「100ではなく、70%ののスウィングを心がけています。力が入りすぎるのはよくない。サーフィンも練習のときは同じ感じです。好きなコースはオーストラリアのブリスベンのグレイズ。でも、一番は地元ハンティントンのシークリフかな」

「100ではなく、70%ののスウィングを心がけています。力が入りすぎるのはよくない。サーフィンも練習のときは同じ感じです。好きなコースはオーストラリアのブリスベンのグレイズ。でも、一番は地元ハンティントンのシークリフかな」

五十嵐カノア。25歳。木下グループ所属。米・カリフォルニア州出身。3歳の頃、両親の影響でサーフィンを始め、6歳でローカルコンテストに優勝。最年少の9歳でUSAチームに入る。2015年の米ジュニアツアーで年間1位、日本人として初めて2016年のチャンピオンシップツアー参戦資格を獲得、2019年には同ツアーで初優勝。2021年の東京五輪で銀メダル獲得。2022年ISAワールドサーフィンゲームズで優勝。5か国語を操る。180㎝・78㎏。「カノア」はハワイ語で自由という意味

週刊ゴルフダイジェスト2022年12月13日号より(PHOTO/Tsukasa Kobayashi、Getty Images)

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