「ゴルフ科学者」ことブライソン・デシャンボーの「教科書」であり、50年以上も前に米国で発表された書物でありながら、現在でも多くのPGAプレーヤー、また指導者に絶大な影響を与え続ける「ザ・ゴルフィングマシーン」。その解釈に向かい続け、現在はレッスンも行う大庭可南太に、上達のために知っておくべき「原則に沿った考え方」や練習法を教えてもらおう。

日本では新年の風物詩とも言える駅伝や高校サッカー、春高バレーなどのスポーツイベントが一通り終了するいっぽう、アメリカPGAツアーはハワイで本格的にトーナメントが始動しました。毎週トーナメントが開催される上にこのシーズンオフの短さでは、体をメンテナンスする期間が短すぎるけれど大丈夫なの? と毎年思ってしまうのですが、選手の皆さんにはなんとか体調に気をつけて頑張っていただきたいものです。

さて前回の記事では、しばしば言われている「前傾角度の維持」というワードについての解説を行いました。その結果、一般的なアマチュアはインパクトにかけて右ヒザや右腰などがボールに近づいていくのを、上半身を起き上がらせることでボールとの距離を調整して当てているのに対して、プロは逆にボディをボールから離れていくように使いつつ、前傾を深くすることでインパクトしているという「逆転現象」が起きていることを説明しました。

ザ・ゴルフィングマシーンで繰り返し提唱されている概念に「ヒップクリア」というものがあります。要はダウンスウィングで両手が下りてくる右腰の前のスペースを空けておくということなのですが、やり方はどうあれ、この「ヒップクリア」ができていれば「前傾角度の維持」も結果的に発生することになります。

ではこの「前傾維持」をキープしたままインパクトを迎えるとその後はどうなるでしょうか。やはり古くから言われている格言の一つに「ステイ・ビハインド・ザ・ボール」というものがあります。今回はこのワードについて考えて見ます。

「ステイ・ビハインド・ザ・ボール」は立派な英語

日本ゴルフ界にはこれでもかというほど和製英語が存在しますが、この「ステイ・ビハインド・ザ・ボール」は立派な英語のゴルフ用語です。もちろん「ステイ」しているのは頭部で、インパクト後も頭部がボールの後方に位置された状態を長くキープしましょうという意味になります。ちなみに「ヒット・ビハインド・ザ・ボール(ボールの後方を打ってしまう)」は「ダフる」という意味になります。

多くのアマチュアにとって、前傾が維持できずに上半身が水平に回転していった場合、この状態になることはかなり難しいと言えます。「地面反力」で地面を強く蹴って「ボディターン」して挙げ句の果てに「頭部は後方に残せ」とか言われたら、体がバラバラになる恐怖を覚えるとしても不思議ではありません。

では、プロは本当にそんなことをやっているのかを検証するために、今回は正面からの写真で見てみます。アドレス時点の両足の中央と頭頂部を結んだ線と両肩を結んだ線をトレースして、インパクトとフォローを比較します。

画像: 画像A プロの頭部はインパクト後、その場にステイ(留まる)どころか後方に移動しているが、スウィングの中心軸は不動のままである。(写真はジョン・ラーム 撮影/KJR)

画像A プロの頭部はインパクト後、その場にステイ(留まる)どころか後方に移動しているが、スウィングの中心軸は不動のままである。(写真はジョン・ラーム 撮影/KJR)

わかっていたことですが、プロの頭部はインパクト後しっかりと後方にステイされ、なんならフォローに向けて上半身が後方に倒れることでアドレス時点よりも頭部が後方に移動しているように見えます。

普通にアマチュアがスウィングしても絶対にこうはならないことが、プロのスウィングで起きるのはどうしてなのでしょうか?

「ステイ・ビハインド・ザ・ボール」になる理由

理由は大きく二つあると思います。一つめは、人体の構造上の理由です。ゴルフスウィングは両肩を結んだ線と両腕からなる「大きな振り子」と、コックと前腕の入れ替えを使用した「小さな振り子」の組合せでできていますが、「大きな振り子」の中心点はおおよそ背骨と両肩の間にありますので、その中心を維持したままスウィングすれば、両肩の上に乗っかっている頭部は後方に移動するのが自然ということになります。

もう一つの理由は、ダウンスウィングからインパクトに向けて骨盤が前方にスライドすることで上半身の後方への側屈(サイドベンド)が深くなるためです。

画像: 画像B 「大きい振り子」が前方に振り出されて、その上に乗っている頭部が後方に移動する要素と、ヒップが目標方向にスライドすることで背骨が後方に傾く要素が重なっているのが「ステイ・ビハインド・ザ・ボール」になる理由である。(図は”Search for the Perfect Swing”よる抜粋)

画像B 「大きい振り子」が前方に振り出されて、その上に乗っている頭部が後方に移動する要素と、ヒップが目標方向にスライドすることで背骨が後方に傾く要素が重なっているのが「ステイ・ビハインド・ザ・ボール」になる理由である。(図は”Search for the Perfect Swing”よる抜粋)

結果として、前方に振り出されるクラブヘッドのエネルギーを、後方に移動する頭部の重量でカウンターバランスしているとも言えます。ということは理論上、ヘッドを前方に振り出すエネルギーが大きくなるほど、「ステイ・ビハインド・ザ・ボール」の動作も大きくしなければならないことになります。

では逆に、「ステイ・ビハインド・ザ・ボール」を強く意識すれば、ヘッドスピードは上がるのでしょうか?

「ダウンスウィングの初期に右肩は『後方に』『下方に』動く」

「ステイ・ビハインド・ザ・ボール」を意識することでヘッドスピードが上がるというのは、おそらく真実ですが、条件があります。その条件とは、前述の「大きい振り子」が限りなく縦のプレーンで動いているということです。

より正確な言い方をすれば、「バックスウィングよりもダウンスウィング時のほうが、ショルダーターンのプレーンがスティープになる」ということです。言葉で説明すると難解ですので、写真で解説します。

画像: 画像C 大西魁斗選手のスウィング。バックスウィング時に両肩を結ぶ線と、ダウンスウィング時のそれを比較すると、ダウンスウィング時には極度にスティープな角度でショルダーターンしていることがわかる。(写真は2022年のセガサミーカップ 撮影/中村修)

画像C 大西魁斗選手のスウィング。バックスウィング時に両肩を結ぶ線と、ダウンスウィング時のそれを比較すると、ダウンスウィング時には極度にスティープな角度でショルダーターンしていることがわかる。(写真は2022年のセガサミーカップ 撮影/中村修)

写真の大西選手を見てみると、ダウンスウィング時の両肩を結ぶ線が、ほぼ地面に垂直になっていることがわかります。ということはその両肩から生えている両腕もほぼ地面に垂直なプレーンで動いていることになります。このとき、「大きな振り子」が縦のプレーンで動いているということになります。

もちろんこの角度には個人差があり、大西選手ほど垂直に動かさなければいけないわけではありません。しかしこのダウンスウィング時のショルダーターンのプレーンが水平に近づくほど、インパクトにかけて右肩がボールに近寄っていくというのは前回の記事でも紹介したとおりです。さらにそうしたスウィングにおいて「ステイ・ビハインド・ザ・ボール」を意識すると、背骨(頸椎)と右肩が干渉しますので、首を痛める要因になりますので注意が必要です。

逆にショルダーターンのプレーンが縦になるほど、両肩の間にある頭部は後方に移動しますので「ステイ・ビハインド・ザ・ボール」は必ず発生します。

ではどうすればショルダーターンを縦のプレーンにできるか、なのですが、ザ・ゴルフィングマシーンにこのような一節があります。

「ダウンスウィングの初期に、右肩は、『後方に』『下方に』動く」というものです。実際に上級者のスウィングでは、ダウンスウィングの初期に右肩は、やや背中側の下方に動いていることが、モーションキャプチャーなどの動作解析でもわかっています。

アマチュアがこの動作にならないのは、上半身をしっかり「回して」前を向きながらスウィングするものだという先入観が強いからだと思いますが、本当は「上半身を後方に向けたまま打つ」くらいでちょうど良いです。その上で首と右肩が干渉しないことを確認しながら、ムリのない範囲でハーフショットなどの練習でスウィングを作っていくのが良いと思います。

画像: 画像D 別の角度から見た大西魁斗のアイアンショットのフォロー。右肩が背骨と干渉しないからこそ、頭部が後方に残り、前傾角度も維持できている(撮影/中村修)

画像D 別の角度から見た大西魁斗のアイアンショットのフォロー。右肩が背骨と干渉しないからこそ、頭部が後方に残り、前傾角度も維持できている(撮影/中村修)

写真の大西選手のように余裕をもって視線を地面方向に保つことができれば、背骨と右肩の干渉は発生していないと思われます。くれぐれもケガには注意しながら飛距離アップを目指したいものです。

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