「ゴルフ科学者」ことブライソン・デシャンボーの「教科書」であり、50年以上も前に米国で発表された書物でありながら、現在でも多くのPGAプレーヤー、また指導者に絶大な影響を与え続ける「ザ・ゴルフィングマシーン」。その解釈に向かい続け、現在はレッスンも行う大庭可南太に、上達のために知っておくべき「原則に沿った考え方」や練習法を教えてもらおう。

みなさんこんにちは。ザ・ゴルフィングマシーン研究家で、ゴルフインストラクターの大庭可南太です。さて今回は冬本番のゴルフについての話題となります。

冬は、沖縄だのハワイだの暖かい地域でしかゴルフをしないという方はいざ知らず、寒い中でもゴルフをしたいという熱心なゴルファーなら誰でも感じることが「寒いと飛距離が落ちる」ということであります。

これについては、気温が低くなることで空気の密度が上がる(空気抵抗が増える)、ボールが固くなって弾性が落ちる、厚着をするのでスウィングがぎこちなくなるなど、諸説ありますが、おそらくこれらが複合的に作用していることは事実でしょう。

というわけで、そんな冬の「飛距離」について、ザ・ゴルフィングマシーンの記述をもとにお勉強をしてみてはいかがでしょうか。

インパクトは「衝突」である

さっそくですが、ザ・ゴルフィングマシーンでは「インパクトはクラブヘッドとボールの衝突現象である」とし、「全体の運動量の総和は不変である」としています。

つまりクラブヘッドがまず高速で運動し、それがボールに衝突し、ボールが変形、そして形状の復元を行い、ボールの運動(飛行)に転換されるという、"運動エネルギーの転換"が行われるのがゴルフのインパクトになります。

この際のエネルギーが全てボールの飛距離に転換されれば結構なのですが、実際には一定のロスが発生する事に加え、スピンや熱などにも転換されています。

ザ・ゴルフィングマシーンの記述によれば、クラブヘッドの速度を100としてボールにインパクトした場合、インパクトを終えた時点(クラブフェースとボールが離れた時点)では、クラブヘッドの速度は80に下がり、ボールの速度が150まで上昇するとしています。

画像: 画像A かなり理想的(ミート率1.5)な状態でのインパクト前後のクラブヘッドとボールの速度

画像A かなり理想的(ミート率1.5)な状態でのインパクト前後のクラブヘッドとボールの速度

この状態はいわゆるヘッドスピード40m/秒でインパクトした際にボール初速が60m/秒になることを意味しますので、かなり理想的なミート率ということになりますが、それでも前述の「ロス」がどうしても発生してしまいます。

例えばビリヤードのように、同じ重量のボールどうしがぶつかった場合、ぶつけられたボールの速度が元のボールの速度と同じになれば、エネルギーのロスは発生していないことになりますが、現実にはそうはなりません。

反発係数の最大値

このロスの割合を示した数値が「反発係数」と呼ばれるものです。ゴルフの場合、ボール、クラブヘッドの反発係数はルールで決まっており、ボールの場合は0.800、クラブヘッドは0.830となっています。

画像: 画像B ゴルフのボール、クラブの反発係数はルールで決められている。ドライバーで、クラブヘッドと同じ重量のボールを打った場合、初速は速度が83%になるが、実際にはゴルフボールはもっと軽いので、ボール初速はヘッドスピードの最大1.5倍程度になる

画像B ゴルフのボール、クラブの反発係数はルールで決められている。ドライバーで、クラブヘッドと同じ重量のボールを打った場合、初速は速度が83%になるが、実際にはゴルフボールはもっと軽いので、ボール初速はヘッドスピードの最大1.5倍程度になる

ちなみにロスがゼロの場合、反発係数は「1」になります。計算上、この反発係数が「1」の状態でゴルフをすると、ミート率は1.62になります。

運動エネルギーとヘッド重量

この反発係数の上限を超えたボールやクラブヘッドはルール不適合になりますので、競技で使用することはできません。ということは、飛距離アップのためにはクラブヘッドの運動エネルギーを上げるしかありません。

ちなみに運動エネルギーは

1/2×m(質量)×v(速度)の二乗

という計算式になります。

つまりクラブヘッドを重くする、あるいはヘッドスピードを速くすることで運動エネルギーを上げることができますが、これらは相殺する関係にあります。つまり同じ人がスウィングした場合、ヘッドを重くすればヘッドスピードは下がりますし、逆もまたしかりです。

長いゴルフの歴史の中で、この運動エネルギーが最大化するヘッド重量を追い求めた結果、7オンス(198.4グラム)を中心に前後2オンス程度ではほぼ変わらず、それ以上乖離すると運動エネルギーが低下することがわかっています。

最新のドライバーを買う意味

現実に過去から現在に至るまで、おおよそこの重量帯でドライバーヘッドは作られていますが、では飛距離が運動エネルギーで決まるとすると、しばしば言われる「最新モデルで飛距離アップ」とは何を言っているのかということになります。

実は、私がゴルフ業界から抹殺されることを怖れずにあくまで科学的な見地から言えば、チタンだろうがカーボンだろうが鉄でもパーシモンでも、材質によって運動エネルギーそのものは大きく変化しません。しかし実際にそれがボールの変化に影響を与えないと言えるのは、「常に設計上の理想的なフェースの一点でインパクトができるならば」という前提が必要になります。

実際にはわずかでもミスヒットをすれば、フェース面の向きは狂い、不必要なスピンが発生し、エネルギーのロスは増え、ボールの飛距離は落ち、そして曲がります。

現代のクラブ設計は、運動エネルギーの法則、また反発係数のルール規制などの条件下で、いかにエネルギーのロスをおさえて純粋なボールの飛距離に転換をするかにかかっています。そう考えると重量配分などの自由度を増すために、フェースをカーボンにして軽量化するという設計思想が生まれるのも納得が行きます。

シャフトの重量の影響

クラブヘッドの重量を大きく変化させることができないのであれば、シャフトはどうでしょうか?重いシャフトを使うと飛距離は伸びるのでしょうか?

これも長年研究されていることですが、シャフト重量の重い軽いに関わらず、インパクトの運動エネルギーに及ぼす変化はほとんどないことがわかっています。つまりヘッドスピードが上がるシャフトが良いシャフトなのであり、ヘッドスピードが同じであればシャフトは重くても軽くても飛距離には影響がないことになります。

これは現代のゴルフを見れば明らかで、シャフトそのものはこの数十年でかなり軽量化されていますが、平均飛距離は逆に伸びています。これは軽量であっても、パワーヒッターが充分にヘッドを加速できるカーボンの設計精度が向上したことの現れだと思います。

画像: 画像C PGAの選手であっても、昨今ドライバーのシャフトの重量は60g〜70g代が中心である。これはスチール(さらにはヒッコリー)の時代からすれば大幅に軽量化されている。写真はローリー・マキロイ (写真/Blue Sky Photos)

画像C PGAの選手であっても、昨今ドライバーのシャフトの重量は60g〜70g代が中心である。これはスチール(さらにはヒッコリー)の時代からすれば大幅に軽量化されている。写真はローリー・マキロイ (写真/Blue Sky Photos)

ボール

実は飛距離に一番大きく影響していると私が考えるのが、ボールの製造技術の向上です。様々な素材や、ディンプルの設計による空力性能の向上によって、曲がらず、飛距離に効率よくエネルギー転換されるようになっているはずです。

ただし野ざらしになった状態の拾ったボールは劣化している可能性がありますので、「どうせすぐなくなるんだし」などと考えて拾ったボールでゴルフをするのはやめましょう。業者さんがロストボールとして選別しリユースされているものは別として。

まとめると、飛距離アップを目指す上では

(1)やはり最新モデルのドライバーは平均飛距離をアップさせる様々な工夫が凝らされていることは事実である。

(2)シャフトは重量よりも、ヘッドスピードとミート率が向上するものを選ぶ。軽くても飛ぶ。

(3)野ざらしになった拾ったボールで、ゴルフをしない。

ということを踏まえた上で、

(4)ヘッドスピードを向上させるスウィングを追求する。

ということになります。以上、「飛距離アップの基礎科学」でした。

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