ツアー解説でおなじみの佐藤信人プロ。今回は、完璧なゴルフでマスターズを制覇してジョン・ラームについて語ってくれた。
画像: 「表彰式では自分の言葉で感謝を伝え、笑いも取って素晴らしいスピーチを披露。これだけの英語力をあっという間に身に付けてしまったラームの頭のよさにはいつも驚かされます」by佐藤(Photo/Blue Sky Photos)

「表彰式では自分の言葉で感謝を伝え、笑いも取って素晴らしいスピーチを披露。これだけの英語力をあっという間に身に付けてしまったラームの頭のよさにはいつも驚かされます」by佐藤(Photo/Blue Sky Photos)

期待値が下がっていたラームは、ほんの少しだけ楽にプレーできた!?

圧倒的な強さで、初めてグリーンジャケットに袖を通したジョン・ラーム。

前回、ローリー・マキロイの予選落ちについて、エクスペクテーション(expectation=期待値)が、いかにゴルフに作用するかと書きました。マキロイにはキャリアグランドスラム、スコッティ・シェフラーには連覇への大きな期待がかかりました。

もちろんラームも優勝候補の一人でしたが、アーノルド・パーマー招待は39位、ザ・プレーヤーズ選手権は棄権、そしてWGCマッチプレーは予選敗退と、マスターズ前の3試合は精彩を欠いたこともあり、メディアの注目はもっぱら2強とLIVゴルフ組に。そんなこともあってか期待値も下がり、ほんの少しだけ楽にプレーできたのかもしれません。

もっともラームに、まったくプレッシャーがなかったわけではありません。

最終日、首位のブルックス・ケプカを2打差で追う展開は得意な展開ではありました。しかし中盤でケプカをつかまえると、パトロンからは「セベのために頑張れ!」の声援が。奇しくも最終日の4月9日はセベ・バレステロスの誕生日。6年前、同じスペインのセルヒオ・ガルシアが、セベの誕生日に優勝したことをパトロンたちは知っているのです。

緊迫した場面で、自分のいい面を出せるのが本当の強い選手

それにしてもラームは強かった。特に最終日は、ショットもパットもノーミスの完璧なゴルフ。ゴルファーに限らず人間は、プレッシャーのなかでは自分のいい面も悪い面も顔を出すものです。しかし、そのような状況で自分の長所を引き出せる選手こそ、本当に強い選手なのでしょう。

唯一のミスは18番で左に曲げたティーショットですが、ほぼ優勝を手中にしていた段階でのミス。あれが1打差など緊迫した場面であれば……という意見もありますが、ボクは緊迫した場面であればあるほど、あの試合のラームはフェアウェイのど真ん中に豪快なショットを放ったのではないか、と思います。それほどラームの強さが際立った試合でした。

一方、敗れたケプカはラームと違って、最終日は悪い面が顔を出してしまった気がしてなりません。ここ数年の優勝者は、例外なくグリーン周りに天才的な技術と自信を持った選手です。その観点からケプカを見た場合、PGAツアー時代からスタッツを見れば、ショットとパットに比べて弱いのがグリーン周り。天候によりグリーンが軟らかかったこともあって、ケプカも3日目までは完璧なゴルフでした。

ところが最終日、グリーン周りの"弱い面"が顔を出してしまいました。ただラームをハグしたケプカはグッドルーザーであり、同時に今大会を盛り上げた一人だったことに異論を挟む人はいないと思います。

母国の英雄の誕生日に栄冠をつかんだラーム。火曜日のプレスインタビューで、最終日がセベの誕生日だと知ったそう。セベの最後の優勝は40年前、24年前のホセ・マリア・オラサバルの2回目の優勝も「まだ親もゴルフをやっていなくてあまり記憶にない」というラームですが、スペインの先輩たちの偉業が自分を奮い立たせてくれていたのかもしれませんね。

※週刊ゴルフダイジェスト2023年5月9・16日号「うの目 たかの目 さとうの目」より

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