プロと同じようにスウィングしているつもりなのに動画を撮影すると似ても似つかぬ不格好なスウィングになっている。これって“アマチュアあるある”といえるが、実はモノマネ力が足りていないのだという。渋野日向子らのプロトレーナーとして活動する斉藤大介氏が、モノマネ力の重要性を解説する。
画像: 笹生優花はマキロイのスウィングを完コピ。「マネる力がゴルフに生かされています」(笹生)

笹生優花はマキロイのスウィングを完コピ。「マネる力がゴルフに生かされています」(笹生)

全米OP優勝の笹生優花はマキロイのスウィングをマネて強くなった!

プロのスウィングをマネしたいと思うゴルファーは多いが、実際にマネできている人はほとんどいない。その理由をプロトレーナーの斎藤大介氏に聞いてみた。

「人間には『ミラーニューロン』という神経細胞があります。“モノマネ細胞”と言われることもありますが、この細胞は自分が見たものを鏡のように脳内に映し出し、自分のなかで再現する働きをしていると言われています。ですが、その働きが活発な人とそうでない人がいると思います」 

斎藤氏によると「ミラーニューロン」の働きが活発な人は観察力やイメージ力が高く、動きを再現する運動神経も優れているという。その取り組みが成功した例が米女子メジャーを制した笹生優花のスウィングだ。

笹生はローリー・マキロイのスウィングに憧れ、どうやったら同じように振れるのかを真剣に考え、フィジカルを鍛えたことによってマキロイからもお墨付きのスウィングを手に入れました。

「アマチュアがそこまでするのは難しいかもしれませんが、たとえばドラコン選手のスウィングを見た後にクラブを振ると、何も見ずにクラブを振ったときよりもヘッドスピードが上がったりします。いいお手本があるといいスウィングができるのも『ミラーニューロン』の働きだと感じています。赤ちゃんが父親や母親と似たような行動をするのと同じように、動きをマネることは、ゴルフだけでなく、あらゆるスポーツにおいても不可欠なものなんです」 

モノマネをもっと活用すべきだと、斎藤氏は力説する。

モノマネ力が高いとゴルフの再現性もアップする

画像: モノマネ力によるゴルフのメリットは4つ。①同じ動きができる「再現性のアップ」②ミスショットに対処できる「修正力」③練習やトレーニングの「効率化」(表現力)④自分自身を客観視できる「目標の明確化」。これらモノマネ力を持っているリディア・コー

モノマネ力によるゴルフのメリットは4つ。①同じ動きができる「再現性のアップ」②ミスショットに対処できる「修正力」③練習やトレーニングの「効率化」(表現力)④自分自身を客観視できる「目標の明確化」。これらモノマネ力を持っているリディア・コー

斎藤氏がモノマネ上手はゴルフ上手と感じたのは2017年から3年間、トレーニング指導を行ったリディア・コーの存在にある。

「私はスウィングコーチではないのでトレーニングの動きを彼女に教えるのですが、教えた動きをすぐに理解し、再現できていました。世界のトップ選手のトレーニングは動きもかなり複雑になるのですが、複雑な動きでもすぐに再現できるのです。彼女のモノマネ力は天才的でしたね」 

リディア・コーはモノマネ力を生かして誰かのスウィングをマネしたわけではないが、モノマネ力がゴルフに役立っていると感じたのは次のような理由だという。

「トレーニングで教えた動きと同じ動きをすぐにできるということは、スウィングコーチが教えた動きもすぐにできるようになります。そうすると必然的にスウィングの再現性がアップします。再現性がアップすると動きにズレが生じたとき、そのズレに気づける能力も高まります。ミスショットの原因を推測し、修正することができるようになるのです」 

再現性がアップし、修正力が身につくと、自分がイメージした動きを自由に表現できるようになる。練習やトレーニングでもムダな動きがなくなり、効率よく上達できるようになるのだ。

「モノマネ力が高い選手は自分のレベルを客観的に判断することができますから、どんな練習やトレーニングに取り組めばレベルアップにつながるかを自分自身で見つけることができます。その結果、目標や課題をより具体的に設定することもできるんです」 

これはゴルフに限らない。野球でもサッカーでもモノマネが上手な選手はプレーも上手なのだ。

「私は学生時代、野球部でしたが、野球部にはモノマネ上手な選手がだいたい1人はいます。そういう選手はプレーも上手いんです。モノマネ力が高いということは、動きを観察して瞬時に理解し、自分で再現できるので、高い技術を持っているのでしょう」 

リディア・コーは斎藤氏がトレーニング指導を始めたときからモノマネ力が高かったが、モノマネ力を少しずつ高めることは、アマチュアにもできるという。

どうしたら「モノマネ力」を育てることができるか?

まずは自分の動きを客観視することが何よりも大事だという。

「今の時代、プロで自分のスウィング動画を見たことがない選手はいませんが、私は必ず選手のトレーニング動画を撮影しています。そうすると本人はものすごく速いスピードで動いているつもりでも、実際には大して速くなかったりするのです。そのズレを気づかせてあげることが、理想のイメージと実際の動きのギャップを埋める第一歩になります。だからこそ、自分のスウィング動画はじっくり観察してほしいですね」 

画像: 自分のスウィング動画を見たり(左)、ツアー中継や雑誌などでプロのスウィングを見たり(中央)、身近なものを忠実にデッサンする(右)など、観察力やイメージ力を高めることでモノマネ力を高められる

自分のスウィング動画を見たり(左)、ツアー中継や雑誌などでプロのスウィングを見たり(中央)、身近なものを忠実にデッサンする(右)など、観察力やイメージ力を高めることでモノマネ力を高められる

モノマネ力を高めるには自分のスウィングだけでなく、他人のスウィングを見ることも大事なのだと斎藤氏は指摘する。

「プロの中には『自分のスウィングしか興味がないから他人のスウィングは見ません』という選手もいます。ですが、そういう選手はスウィングの違いを理解できない傾向が強いです。いろいろなスウィングを見ることは重要です」 

ただスウィングを見るだけでなく、さまざまな角度から見ることも観察力アップにつながる。「たとえば自分の顔の絵を描くにしても、クロッキー(速写)といって10分くらいでパパッと描くのと、半日かけて描くデッサンでは観察するポイントが変わってきます。スウィングを見るときも同じで、全体を見るだけでなく、右ひじだけ注目して見たりすると、入ってくる情報も変わるんです」 

画像: 鏡を見ながらトレーニングや素振りを行うとイメージ力アップ(左)。2人1組で対面になって、相手の動きを完璧にコピーするトレーニングは運動神経アップにつながる(右)

鏡を見ながらトレーニングや素振りを行うとイメージ力アップ(左)。2人1組で対面になって、相手の動きを完璧にコピーするトレーニングは運動神経アップにつながる(右)

このような取り組みで観察力を高めた後、そのイメージをどう具現化するか。そのためには運動神経やフィジカルが必須になる。

「トレーニングに関しては、鏡を見ながらやるのが効果的です。イメージと現実のギャップをリアルタイムで確認しましょう。これはスウィングでも有効なはずです」 

また、斎藤氏はモノマネ力を高めるため、鏡のように向き合って、2人1組で行うトレーニングもおすすめだという。

画像: 指体操が効果的。小指から順番に指を折り曲げたり、親指から順番に折り曲げたりする。それができたら左手は小指から、右手は親指からといった具合に変化をつけると運動神経が高められる(左)。2人1組で指の動きを観察しながらの指体操もおススメ

指体操が効果的。小指から順番に指を折り曲げたり、親指から順番に折り曲げたりする。それができたら左手は小指から、右手は親指からといった具合に変化をつけると運動神経が高められる(左)。2人1組で指の動きを観察しながらの指体操もおススメ

「私が手の指を曲げたり伸ばしたりするのを対面の動きでマネしてもらいます。指の動きがスムーズになってきたら今度は全身の動きで同じことをします。モノマネごっこみたいですが、これがいいトレーニングになるんです」 

ゴルフの練習一辺倒ではなく、モノマネ力を鍛えるという発想の転換がゴルフ上達の近道になる、と斎藤氏は語る。モノマネなんてと侮ってはいけないのだ。

TEXT/Tomohide Yasui PHOTO/Akira Kato、Tadashi Anezaki MODEL/Rinako Kurokawa(GOLULU)

※週刊ゴルフダイジェスト2023年5月9・16日号「モノマネ上手はゴルフ上手」より

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