2015年の全米プロを制し、世界ランク1位に輝いていたジェイソン・デイ。コーチのクリス・コモとタッグを組んで、長い間苦しめられてきた腰痛からようやく解放されたという。世界ランク1位だった頃よりもゴルフに“取り憑かれている”というジェイソン・デイが語ったことは……。(2022年9月のインタビューより)
画像: ジェイソン・デイ。1987年、オーストラリア生まれ。PGAツアー13勝。2015年全米プロ優勝。その年から51週に渡って世界ランク1位キープ。タイガーと同じクリス・コモに師事、体にやさしいスウィングへ改造

ジェイソン・デイ。1987年、オーストラリア生まれ。PGAツアー13勝。2015年全米プロ優勝。その年から51週に渡って世界ランク1位キープ。タイガーと同じクリス・コモに師事、体にやさしいスウィングへ改造

「腰に負担がかからないスウィングを見つけたんだ」

GD 2015年に年間5勝して、全米プロにも勝ちました。でも、その後、腰を痛めて、スウィング改造に踏み出しましたが、具体的にはどのように変えたんですか?

デイ 簡単に言うと、それまでずっとやってきた動きを逆にしたといっていいでしょうね。テークバックでは腰を右にスライドしてトップに入り、そこからダウンスウィングに入ると、右腰と背中の間が潰されるような形になって、腰を痛めやすかったんです。そのため、テークバックでは腰をその場でターンさせるようにしました。ダウンスウィングでも腰のスライドを抑えてクラブを低くシャローに払うように振り抜いています。

GD 体重移動系のスウィングから回転系のスウィングに変えたということですか?

デイ そうです。以前は、腰と上体の捻転差がマックスになるように振っていました。でも、いまは腰と上体を一体化させるヒップターンです。足首もひざも腰も使って捻転するので、体全体としての捻転量は以前よりも大きくなっています。

GD 今回、初めて大きな故障を負ったんでしょうか?

デイ 実は13歳でゴルフを始めたときから腰の痛みと付き合ってきました。腰に負担のかからないもっと効率のいいスウィングを学ぶべきだったと思います。

画像: 「以前はダウンスウィングで腰をこんなふうに左にスライドしていたんだ。皆さんも気をつけてほしい」。ジェイソン・デイは腰を痛めた原因もわかりやすく説明

「以前はダウンスウィングで腰をこんなふうに左にスライドしていたんだ。皆さんも気をつけてほしい」。ジェイソン・デイは腰を痛めた原因もわかりやすく説明

GD いま、腰はどんな状態?

デイ とてもいい状態ですよ。100%近く回復しています。いまは体の各パーツの動きを効率化したり、より正しい動きに近づけるトレーニングを行っています。

画像: 「腰をその場で回す感じで、こんなふうにクラブを下ろすと、腰の負担が激減する」。クリス・コモと作り上げたいまのスウィングをセルフ解説

「腰をその場で回す感じで、こんなふうにクラブを下ろすと、腰の負担が激減する」。クリス・コモと作り上げたいまのスウィングをセルフ解説

GD 腰を痛める前は多くの勝利を重ねていました。とくに2015年は全米プロでも優勝しましたね。

デイ 当時は、すべてのタイトルをアグレッシブに獲りにいってましたね。狩猟の心境です(笑)。勝つためにできることはすべてやりました。その結果、腰の故障という代償を払うことになりましたが……。

GD いまの状況はどう表現しますか? 以前が狩猟だとすれば、いま現在は?

デイ ゴルフに“取り憑かれている“と言えるかもしれません。

GD 取り憑かれている?

デイ そうです。ゴルフへの情熱がどんどん湧いてきているところです。ゴルフが上手くなることが楽しい。もしかすると、勝つことよりも上手くなることのほうが楽しいと感じているかもしれません。これはちょっと変に聞こえるかもしれませんが、そんな気持ちなんです。

デイ 自分の体のこと、スウィングのこと、ゴルフというゲームのこと、さまざまな面で新たな発見をしていくステージにいるんです。

GD 以前はそうではなかった?

デイ そうですね。無名のジュニアだった僕を世界のトップにまで育ててくれたコーチのコリン(・スワッソン)にすべてを任せていました。チームがあって、ストレスはすべてチームが解決してくれて、自分はゴルフだけに集中すればよかった。そのおかげで世界ナンバー1になれたけど、なぜなれたのか分からないままナンバー1になっていました。

デイ でも、いまは違うんです。いまもチームの仲間にお願いしていることは多いけど、いまは彼らが何をやっているかを知っていたいんです。ゴルフのことをもっと深く知って、そのうえで最少ストロークでプレーすることに集中するんです。

GD ゴルフのいろいろなことを知りたい?

デイ スウィングのことについて知りたい、体がどう動くかを知りたい、歩くことがスウィングにどう影響するかを知りたい、アプローチで右ひじをたたむとどうなるか知りたい。すべてを試してみたいんです。スウィングのパターンや感じ方を試す毎日です。動画を撮影して、クリス(・コモ=現コーチ)に送って相談して、よければ実行する。そんな日々を送っています。

画像: 取材時(2022年)のトップと、2015年頃のトップ。腰の回し方、肩の入り方もが全く違う

取材時(2022年)のトップと、2015年頃のトップ。腰の回し方、肩の入り方もが全く違う

「もしチャンスがあるならマスターズを制したい」

GD メジャーは全米プロに勝っていますが、他のメジャーへの意欲はありますか?

デイ もちろんです。できれば全部勝ちたいですね。それが最終目標です。とても難しいですけど。もし、どれかもう1つといわれれば、マスターズです。何度か上位でフィニッシュしたこともありますし、子供の頃からの夢でもあった。マキロイや、ケプカが、複数のメジャーで勝ちましたが、そのときは簡単そうにも思えましたが、実際には簡単じゃない。マスターズはぜひ欲しいタイトルです。

GD メジャーに照準を合わせることはできるのでしょうか?

デイ メジャーへの準備で、いちばん大きなウェイトを占めるのは芝への慣れです。芝質というのは本当に毎週異なります。なかでも要注意なのがバミューダ芝です。下り傾斜では止まらないし、ボールの跳ね方やスピンのかかり方、バンカーショットのボールの転がり方などがかなり違ってきます。

デイ そこで、統計を分析するスタッフといろいろと話すわけです。もちろん、コースレイアウトなども徹底的に分析します。150ヤードから175ヤードの距離を多く打ち分けなければならなくなりそうだとか、ドライバーより3Wの出番が多くなりそうだといった分析があれば、事前にそのクラブやショットを重点的に練習します。もちろんパッティングはつねに勝敗を分けるクラブですけどね。

デイ そのうえで、メジャーにピークを持っていくなら、ゴルフゲームはピークを合わせにくいかもしれませんが、体調をピークに合わせることはできます。トレーニングする時期をメジャーに合わせるという意味で可能です。

「ヒデキのパッティングはバックスウィングに上達のヒントがあると思う」

GD ところで、あなたはタイガーと仲がいいんですよね。

デイ そうですね。ツアーにあまりいないことをみんな寂しいと思っていますね。タイガーとは、最近のゴルフのこととか、足のケガのことなどをときどき話しています。今後はメジャーだけに出場試合を絞ることになるかもしれません。もっとタイガーを試合で見たいとは思ってますが、それはタイガーが決めること。

GD 松山選手については?

デイ ヒデキは大好きなプレーヤーです(笑)。

GD 過去に記者会見で、ヒデキはパッティングに弱点がある、と答えたことがありました。でも、昨年のマスターズの週にパッティングが突然よくなって優勝して、その後、また勝ち始めました。そんなパターンがあなたにも来るような気がしますが、どうでしょう?

デイ ヒデキはどのメジャーに勝ってもおかしくない素晴らしいショットメーカーです。パッティングに少し特徴があって、もう少しスムーズにストロークしてもいいかなと思っています。ほんのわずかだけど硬い。だから距離感に苦しんでいる感じがします。

画像: 「ヒデキと同じ悩みが実は自分にもあって、いまパッティングのスムーズなバックストロークを模索中なんだ」と語っていたジェイソン・デイ

「ヒデキと同じ悩みが実は自分にもあって、いまパッティングのスムーズなバックストロークを模索中なんだ」と語っていたジェイソン・デイ

デイ スムーズなテンポで、バックスウィングをもう少しだけ速く引いてもいいんじゃないかな。そうすると切り返しがスムーズになって距離感を出しやすくなるように思います。パッティングに柔らかさが加われば、もっともっと勝てると思いますよ。

デイ 自分に関していえば、実は同じようなことに取り組んでいます。自分もパッティングのバックストロークが機械的になり過ぎて、トップで止まってしまう感覚があるんです。すると、その後のストロークが速くなるんです。もう少し全体をスムーズに行わないといけないですね。そのうえで狙ったラインを信じて、自信を持って打てれば大丈夫だと思います。

GD 日本にもあなたのプレーを応援するファンがいます。

デイ 日本のみなさん、あともうちょっと待っていてください。必ずまた、勝ってみせます。

ニュースウィングを手に入れたデイの完全復活は間もなくだろう。(その9カ月後、AT&Tバイロン・ネルソンで復活優勝。今週の全米プロ、その先のメジャーでのプレーにも期待したい)

※週刊ゴルフダイジェスト2022年9月6日号より(TEXT&PHOTO/JJ Tanabe)

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