「今年は結構苦しい時期が多かった。ここで優勝できてよかった」(稲見)
強い稲見が帰ってきた。
同組の桑木、先に上がっていたペ・ソンウに1打リードで迎えた最終18番、フェアウェイから放った第2打は一直線にピンをさし、池を越えて手前5メートルをとらえた。
桑木が長いバーディパットを外し、2パットでも優勝という状況で、バーディフィニッシュこそならなかったが、30センチのウィニングパットを沈めた。
沸き上がる拍手と歓声を浴び、両手を突き上げて歓喜の万歳。
畑岡奈紗と桑木志帆から祝福の抱擁を受け、心の底からうれしそうな笑みを浮かべた。
優勝インタビューでは一転して涙ぐむ場面があった。
「今年は結構苦しい時期が多かった。ここで優勝できてよかった」
記者会見でその時の心境を問われると
「インタビューの最初にしゃべろうと思っても声が出なくて。毎年1勝を目標にしてきて、今年はなかなか勝てないんじゃないかという気持ちが強くて、ここで勝てた安心感で涙が込み上げてきました」
パーオンホールは72ホール中68回
優勝の原動力は復調したショットだった。
首位の畑岡、桑木に1打差でスタート。12番パー5でピンまで187ヤードを4Uで2オンに成功し、2パットのバーディとし、この時点で単独トップに浮上した。
勝負を決めた17番パー5も残り197ヤードをピン手前9メートルに乗せてバーディ。通算22アンダーまで伸ばして、桑木、ぺ・ソンウを突き離した。
「12、17番のロングで2オンしてバーディを取れたのは大きいです」
今週のパーオンホールは72ホール中68回。好調時の代名詞ともいえる精度の高さが際立った。
パッティングでは2018年からのクロスハンドを前週から順手に変えたことが奏功した。
「元々順手。ここ最近うまくいかなかったので、順手にしてみたら、左へ行くミスが減った。今週はしっかり打てて自信になりました」
不振を乗り越えての1年3カ月ぶりの勝利だった。
腰痛に苦しんだ経験から今季は体に負担が少ないスウィング改造に取り組んだが、順調にはいかず、ヤマハレディースオープン葛城から自身初の3試合連続予選落ちも味わった。スウィング改造は4回にも及び、持ち球の変更も模索したという。
「練習をしても意味がないんじゃないかと思ったり、でも、練習しないとうまくならいし、葛藤しました。でも、新しいことを取り入れるとか、チェンジするとかは、私のとっては練習したくなる要素で、そこからまた練習をやりたくなりました」
今週もまだ試行錯誤の最中だったが、トップまでの体の回転を抑えることで、ショットの精度を上げることができ、それが優勝につながった。
来季米ツアーに参戦するかどうか…
19年から続く年間1勝以上はこれで5年連続となった。
米ツアー公式戦で優勝を果たし、来季の米ツアー出場権をつかんだ。
「新しい未来が切り開かれたということは大きいです」
来季米ツアーに参戦するかどうかについては
「自分一人では決められない。チームで決めたいと思います」
と決断を先送りにしたが、
「今までは日本ツアーで頑張ってと思っていたけど、もう一つ世界で戦えるという選択肢が開かれました」
21年東京オリンピック銀メダリストとしても注目された稲見が、世界最高峰の米ツアーへ参戦するのかどうか。その決断が注目される。