昭和35年(1960年)、私は一度だけ川奈ホテルゴルフ場の創業者である大倉喜七郎に会ったことがあります。

場所は、銀座松屋から少し京橋寄り、銀座中央通りから1ブロック入った2丁目の大倉商事ビルでの取材でした。その頃私は、「ヘッドライト」という自動車雑誌の編集部で働いていました。その日は、出版社社長が、日本一のオーナードライバーと評判の大倉氏の取材に出かけ、私はその鞄持ち役でした。

画像: 【目指せ!ゴルフの雑学王】“最後のミリオネア”大倉喜七郎と「幻の富士コース」

大倉財閥は、越後新発田の豪商、大倉千之助の三男・喜八郎が江戸に出て鉄砲商となり、戊辰戦争、日清、日露戦争と政府に銃火器を納入、さらに軍備輸送で巨利をモノにして男爵まで登り詰めた政商でした。その子孫・喜七郎は若い頃7年もの長い間、英国ケンブリッジ大学などに遊学。明治40年帰国したときは、日本に2台とない超高級車を5台持って帰ったほどの自動車好き。自動車雑誌には憧れの取材対象だったのです。

ひとしきり自動車の取材があって、話がゴルフそして川奈ホテル富士コースにひろがりました。大倉が「川奈には、英国風のカントリータイプの牧場を造りたかった。ところが下が岩盤で、動物が蹄を痛める。仕方なくゴルフ場にしたのだ」といい出しました。残念ながら「動物」が何だったのか記憶にありません。牛だったのか山羊か緬羊か。昭和8年のゴルフ税騒ぎでコースを閉鎖した時、「閉鎖して馬でも放っておけ」と語ったそうだから、馬の可能性が高いと思われますが。

赤星六郎設計、幻の富士コース

牧場をあきらめた大倉は、川奈に50万坪を買収、昭和3年(1928年)6月、まず大谷光明設計の大島コースを開場します。

画像1: 赤星六郎設計、幻の富士コース

18ホール、5366ヤード、パー68の短いコースでしたが、熊谷さんの家の上を打ちぬいてゆく「クマガイアドベンチャー」とか、海水の入り込んだ谷越えの「S・O・S」、170ヤード谷越えの「オオタニ・スマイル」などおもしろいホールが続き、小さなホテル付きのゴルフリゾートは開場早々、大いに賑わったようです。

もっとも賑わうはずです。運営はパブリック、プレーフィ無料。払うのはキャディフィだけで、米国記者がびっくりしたという記事が残っているようです。また女子キャディを採用。ユニフォームをつけていたそうです。

画像2: 赤星六郎設計、幻の富士コース

大倉は引き続き隣接地に、もうひとつのホテルともうひとつの18ホール、富士コースを造り始めます。ゴルフコースの設計は当時の実力ナンバーワン赤星六郎、監修・大谷光明という形で進められていました。その証拠は赤星六郎設計のルーティング図として、現在もクラブハウス廊下に展示されています。

赤星・富士コースが何ホールできていたか、諸説あります。6、7ホールでき上がっていて、実際にプレーしたことがあるという川奈出身の古いプロゴルファーもいますし、昭和4年の東京朝日新聞には、9月には建設中の7084ヤードのコースが完成するという記事もあるそうです。昭和6年の「ゴルフドム」には、「2コースあり」の記事もあるそうですが、やはり正史では、6、7ホール完成というのが想定の範囲のようです。

画像3: 赤星六郎設計、幻の富士コース

そして予想外が起きます。アリソンの来日です。

昭和5年12月、英国の設計家C・H・アリソンが、東京ゴルフ俱楽部朝霞コースと廣野ゴルフ俱楽部の設計のため来日します。それを知った大倉は、工事中の富士コースを手直ししてもらう契約をします。契約料1万円だったそうです。

廣野へ出かける途中、川奈に立ち寄ったアリソンは、断崖上にひろがるコース用地と太平洋の碧い海原にこころ衝たれて、「驚きで2、3日は設計のアイディアが浮かばない」と洩らしたというエピソードが伝わっています。そしてでき上がったのが、現在の富士コースとなる設計図です。

画像4: 赤星六郎設計、幻の富士コース

赤星案とアリソン案の違いは赤星案では現1番と現2番の間に打ち下ろし200ヤードのパー3(赤星2番)を挟んでいます。それに現8番から現14番附近が赤星案では広いリンクス風の比較的平坦な部分になっていて中心に茶店(小ハウス)があります。そこから10、11番と出て12番で一度戻り、13番で岬の方へ出て14、15、16と海岸沿いに進みます。赤星17番(パー4)は現17番(パー4)とほぼ同じではないかと思われます。

茶店は現在の13番フェアウェイ附近でしょうか。赤星案に比べるとインコースの一部でかなり変更されていますが、アウト現3番、現4番など重要なホールは(ホール番号が変わっただけで)そのまま踏襲されています。今もプレーヤー泣かせの16番・パー3は、赤星案では「六郎ロック」という愛称で海沿いの423ヤード・パー4になっています。いわくありげな愛称だと思いませんか。

2007年ゴルフダイジェスト社刊
田野辺薫「一度は回りたいニッポンの名コース」より

【お知らせ!】
ゴルフダイジェスト「読者ナンバー1」を決める戦い!
チームGDミニツアー関東サマーシリーズ第3戦は
「川奈ホテル富士コース」で開催します!

エントリー詳細は↓こちら↓から…

コメントを読む・書く

This article is a sponsored article by
''.