我々は生きている。その証は、呼吸していることにある。

ところが、我々はその呼吸に対してあまりにも無自覚すぎているのではないか。
その疑問と反省から、このコラムはスタートする。

これまで、人間をロボット扱いしたメカニカルな技術論があまりにも多すぎた。レッスンそのものが、型ばかりを重要視しすぎていた。生きて呼吸している人間の存在を阻害しすぎていた…。言うまでもなく、打つのは生きて呼吸している人間である。

体の内側からスウィングを考えていくと、数多くの重要なヒントが現れてきたのである。

(1997年Choice9月号より抜粋)

スポーツの常識としての
呼吸法を考える

本題に入る前に、まずスポーツパフォーマンスにおける呼吸の役割を、最先端のスポーツ専門家はどう認識しているのかを聞いてみたい。

他のスポーツにおいて呼吸はどんな影響を与えているのか?そんなスポーツの“常識”としての呼吸から考えてみよう。なぜならゴルフだけが例外ではないはずだから…。

画像: 重量挙げ

重量挙げ

解説は白石豊(福島大学助教授・1997年当時)さん。白石さんはスポーツにおけるメンタルトレーニングの世界で活躍されています。詳しいプロフィールは以下。

Q息を止めたままやるスポーツはありますか?

A まず皆無といっていいでしょう。

例えば、空手などの武道では、打突のとき鋭い気合をかけます。声を出すと言うことは、打つ瞬間吐いているわけです。気合なしでは武道は成立しないわけです。

画像: テコンドー

テコンドー

間違いなく言えるのは、吸いながらやるという動作はありません。“息をこらす”という言葉があるように、針の穴に糸を通すような精密な作業をするときに、息を止めたままやるということはあります。

けれども、打つ・投げる瞬間に力を発揮するときには、吐いているはず。これがスポーツの常識ですね。

Q息を吐くことは力を出すことなのですね?

Aそれだけではありません。

例えば、テニスの場合、息を止めたまま打っている選手はいません。打つ瞬間、うなっている。ということは吐いているのです。そしてその吐き方を、例えばサーブやグランドストロークのときは“ウ~ッ”と長く吐き、ボレーのときは“ウッ!”と短く吐く、という風に変えています。

画像: テニス マルチナ・ヒンギス(スイス)

テニス
マルチナ・ヒンギス(スイス)

その逆にしたら、まずうまく打てない。ということてゃそれぞれのスポーツのそれぞれのパフォーマンスの目的にもっとも叶った力の出し方と呼吸の仕方には密接な関係があるということ。逆に言えば、呼吸パターンからパフォーマンスを改良することもできるはず。

Q吐くためには、吸わなければいけないですよね。

Aもちろんです。そこからリズムが生まれるのです。

リズムとは「緊張と弛緩のなめらかな交代」なのです。つまり早い遅いが問題でなく、“なめらかな交代”であることが重要なのです。「緊張=チカラを出す時に吐く」のであれば、弛緩のときは吸うことであってしかるべきなんです。

画像: サッカー 三浦知良

サッカー
三浦知良

その呼吸がなめらかに交代することによって、いいリズムのパフォーマンスが生まれるわけです。従来の運動科学はフォーム分析が主流で、一番欠けていたのはこの運動リズムの研究でした。その重要な糸口が呼吸なのです。呼吸が乱れれば動作が狂うことは、みな体験的に知っているわけですからね。

Qその運動リズムについて、もう少し詳しく説明してください。

Aパフォーマンスは3つの局面に分類されます。

①準備局面②主要局面③終末局面の3段階ですね。ゴルフでいえば、①バックスウィング②トップ~インパクト③フォロー~フィニッシュです。準備局面というのは反対局面とも呼ばれるように、目標方向とは反対方向への動作ですが、ただし直線的な動きではなく丸みを帯びた流れるような方向転換が必要とされています。

画像: 野球 イチロー

野球
イチロー

先ほどのリズムで言えば、①弛緩②緊張③弛緩のリズムです。それがなめらかに行われるほど、見た目にもきれいでスムーズなフォームに見える。それを呼吸で表現すれば、①吸う②吐く③また吸う…となってしかるべきだと思います。

Q呼吸というのは単に酸素を取り入れるための生理現象ではない?

A心と体の架け橋が、呼吸、つまり“気”なのです。

あがったとき、深呼吸をするのは、呼吸という生理現象を使えば、心を鎮められることを無意識にしっているからです。こういうリラックスや集中のために意識的に呼吸を使うことは一般化してきて、ヨガや東洋の呼吸法が西洋でも研究されています。

つまり“気”ですね。元気・病気という言葉があるように、“気”(呼吸)は、心や体を弱めたり強くする“ライフ・エナジー”であり、心と体の両方を結ぶ架け橋なのです。

従来は心の方向の効果が注目されてきましたが、パフォーマンスを作るための呼吸法の研究が今後、もっと重視されると思います。

Qそれではゴルフの場合はどうでしょう?

Aゴルフだけが例外ということはないでしょう。

ゴルフスウィングにもっとも近いのは、テニスのストロークや野球のピッチングでしょうね。テニスで“う~っ”と吐きながら打っていくためには、準備局面では同じリズムで静かに「すぅ~」と吸ったほうがいい。

画像: ピッチャー 長谷川滋利

ピッチャー
長谷川滋利

静かに長く吸って、長く吐く呼吸リズムが、一番合っているのではないかと予測されます。たぶんアマチュアの場合、素振りと本番のリズムがまるで違ってしまうことの最大の理由は、ボールを目の前にして、そのボールを強く打とうとしたときに、呼吸のパターンが変わってしまうことではないでしょうか?

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