「今日のグリーン速いなぁ」「スティンプメーター、11フィートだったもんね」。ゴルフ場ではこんな会話をよく聞く。しかし、パッティングを研究する大学教授によれば、11フィート以上のグリーンでも速いと感じるのは「下り」のみ。「上り」や「平地」は“速くない”という。


「PGAツアーでは、グリーンの速さは13フィート(約396センチ=スティンプメーターで測定した際のボールが転がる距離)と言われています。一般アマチュアの場合は大体9フィートから10フィートでプレーする機会が多いでしょうか。ですから、13フィートとまではいかずとも、名門コースや競技の直後などで『本日のグリーンの速さ11フィート』などの表示を見たら、『え~11フィート!? 速っ!』とブルっちゃうかもしれません。しかし、実は、11フィートのグリーンは速くない。はっきり言って、13フィートくらいまでは普通にパッティングしてなんの問題もありません」

画像: “ガラスのグリーン”と形容されるオーガスタナショナルGCの高速グリーンなど例外を除けば、PGAツアーでは平均13フィート、一般アマチュアが通うコースは約9~10フィートに設定されていることが多い

“ガラスのグリーン”と形容されるオーガスタナショナルGCの高速グリーンなど例外を除けば、PGAツアーでは平均13フィート、一般アマチュアが通うコースは約9~10フィートに設定されていることが多い

そう語るのは、元ゴルフのインストラクターという異色の経歴を持ち、ゴルフを研究テーマとする日本獣医生命科学大学運動科学教室の濱部浩一教授。11フィートが“速くない”。それって、どういうことだろう。

「私の研究室ではグリーンの速さを1.スティンプメーターで12.3フィート2.同14.4フィート、3.同15.9フィート、そして4.同22.9フィートの4段階に設定してあります。すべて、通常営業の基準からすれば超高速に感じる設定です」(濵部教授、以下同)

画像: 濱部教授の研究室。まさにパットラボという風情

濱部教授の研究室。まさにパットラボという風情

「ところが、通常めちゃ速いとされる『15フィートグリーン』でパッティングしてみても、別に驚くほど速くないんです。具体的に言うなら、この15フィートグリーンで20センチテークバックをとり、インパクトでゆるめずピシッとストロークして転がる距離は、大体5メートル前後。15フィートだからといって、10メートルも20メートルも転がるわけではありません。なぜか? 答えは簡単で、『平らだから』です。つまり、平地の15フィートは恐るるに足らずなのです」

濱部教授はそういうが、これには少々納得がいかない。研究室と本グリーンではそもそも違うし、我々ゴルファーは、現に11フィート(ときにそれ以上)の速さのグリーンで、何度も大オーバーの痛い目にあっている。「15フィートは恐るるに足らず」とは到底思えない。

速いのは「11フィート」ではない。「11フィートの下りのパット」だ

「なぜ11フィートのグリーンを、みなさんが『めちゃくちゃ速い』と認識しているか。その答えも簡単です。『11フィートの下り』はメチャ速だからです。もちろん、13フィートの下りならあり得ないぐらい転がります。みなさんが大オーバーの記憶を刷り込まれているのは、『高速グリーン』ではなく『高速グリーンの下りのライン』なのです」

画像: 「11フィートだから速い」ではなく、その傾斜を加味してグリーンの速さを理解する必要がある

「11フィートだから速い」ではなく、その傾斜を加味してグリーンの速さを理解する必要がある

な……なるほど。言われてみると、僕らがグリーンを速いと認識するのは、「カップを通過したボールが止まらずどこまでも転がってしまったとき」だ。“今日のグリーンは11フィートだぞ、速いぞ”という認識と、下り傾斜で大オーバーしてしまった記憶。両者が合体して「11フィート以上のグリーンはとんでもなく速い」という観念へと至る。

「その証拠に、11フィート以上の高速グリーンで大オーバーしたときのことを、ちょっと思い出してみてください。そういうとき、返しのパットでショートしていませんか? これ、本当はおかしいですよね。返しのパットも大オーバーすることはまずない。なぜか? それは、もちろんメンタル面の影響もありますが、それ以上に返しのパットが『上り』で“遅い”からなんです。また、下りで大オーバーしたあと、次のホールの平地や上りでファーストパットでショートするケースも多く見られます。これらの錯誤を生んでいるのは、ひとえに下り傾斜がもたらす、グリーンのスピードの“思い込み”なんです」

「11フィートで1度の傾斜」は、スティンプメーター約「22フィート」!

大オーバーの後の大ショート。それはメンタルの問題だと思い込んでいたが、実はもっと単純で、「ファーストパットは下りで、返しは上りだから」だったのだ。言われてみれば当たり前。まさに灯台下暗しだ。

「私の研究室には22.9フィートのグリーンがあると前に述べました。なぜ22.9フィートなのかといえば、11フィートの速さが出ているグリーンでの一般的な下りのパット(傾斜1〜1.9度)は平地で22.9フィートの速さに大体合致します。ですから、この設定でのグリーンが私の研究室にはあるのです。傾斜1度とは、1メートルの距離で高低差が1.75センチ。1.9度ならおよそその倍の高低差になります。普通のゴルファーが見た目でわかる傾斜は2度前後なので、1度だと下りと気づかずパットしているケースも多くあるはずです」

濱部教授によれば、傾斜が3度あると「このグリーンは上から速い!」と誰もが言う名物ホール。傾斜4度以上は、二段グリーンの境目など特殊なケースになるという。そういう意味では、下りの認識できない「1度の傾斜」こそが曲者だ。

画像: 富里GC(千葉県)などグリーンが速いことで知られるコースはそのアンジュレーションに注意が必要

富里GC(千葉県)などグリーンが速いことで知られるコースはそのアンジュレーションに注意が必要

「今日のグリーンが何フィートなのか」ではなく、「今から打つラインは上りか、平らか、下りか」に意識を集中して、打つ。当たり前のことだが、ファーストパットをピタリと寄せるには、それがなにより大切なのだ。

<今回のまとめ>
「9フィートだから遅い」とか「13フィートだから速い」という考えにとらわれず、「平地」か、「下り」か、「上り」かをジャッジすること。「平地」と、「上り」は9フィートでも13フィートでも気にせず普通に打ってOK。ただし、9フィートでも「下り」ならば20フィート近い速さになることを頭に入れ、最大限の注意を払うこと。

※一部訂正致しました(2017.1.19 10:30)

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