2017年、年明け早々PGAツアーで“異変”が起きている。ソニー・オープン・イン・ハワイでジャスティン・トーマスが初日「59」という記録的スコアを叩き出したかと思えば、その翌週キャリアビルダー・チャレンジの3日目にアダム・ハドウィンがまさかの二週連続で「59」。PGAツアーで50台のスコアは過去9人(10回)しか達成されていないが、そのうちの6回は2010年以降に記録されている。そして今回の“二週連続”という事態……いったいこの超ハイスコア現象の原因はなんなのか? 米国ゴルフ事情に通じるプロゴルファー・中井学に聞いた。

弾道計測器・トラックマンの出現で、ゴルフは「トライ&サクセス」時代へ

2016年、PGAツアーではジム・フューリックが「58」を出し、下部ツアーにあたるウェブドットコムツアーではステファン・イエガーが同じく「58」を出しました。欧州チャレンジツアーでも「59」のスコアが生まれています。そして2017年に入って立て続けに出た「59」のスコア。私は、この現象の裏側には「3つの理由」があると考えています。

3つの理由のなかでも、もっとも影響が大きいのが、トラックマンの出現です。インパクト前後のクラブの軌道や、飛んでいくボールの弾道を計測できるこの機械がプロの練習現場に投入されたことで、プロたちのスウィング作り、練習の効率は明らかに変化しました。

かつて、プロの練習は(アマチュアも同じですが)トライ&エラーの連続でした。どうすればもっといい球が打てるのか。現状のスウィングを修正し、結果が良ければ続け、悪ければ戻す。その繰り返しの果てに、スウィング改造に成功することもあれば、失敗してドツボにはまることも多くありました。それを避けるために、僕のようなプロコーチがお手伝いをするわけですが。

しかし、「トラックマン以降」のゴルフ界は、基本的には「トライ&サクセス」の時代に突入しています。クラブヘッドの軌道や、ボールのスピン量や打ち出し角度など、自分の状態はほぼすべて数値で把握することが可能です。自分にとっての理想の弾道は数値で確認でき、それを実現するためのクラブの軌道も数値で把握できます。そのため、「エラー」が起こりにくいんです。

その結果どうなるかといえば、選手の早熟化です。理念的な「練習法」や「スウィング理論」はすべて数値で検証可能になり、効果のないものは淘汰されていきます。結果、正しいことだけを続けることになり、下手にならない。ステップバックがないので、どんどん上手くなる。20代の選手が「50台」を連発している背景には、このような練習環境の変化があります。

かつてビデオカメラはプロたちの練習環境に激変をもたらしましたが、それ以上の変化がトラックマンや、スウィング解析器であるMトレーサーなど、新時代のガジェットによってもたらされているのです。

日本ではなぜ「50台」が出ないのか?

では、世界中で「50台」が連発しているにもかかわらず、日本では2010年の石川遼選手以降50台のスコアが出ていないのはなぜでしょうか? それは、日本人選手と海外選手の考え方に基づいているように思います。これが、理由その2です。

画像: 2010年に石川遼が達成し、ギネスにも認定された「58」以来、日本ツアーで50台のスコアは出ていない

2010年に石川遼が達成し、ギネスにも認定された「58」以来、日本ツアーで50台のスコアは出ていない

海外選手は、基本的に自らの弱点を論理的に検証し、確率論に基づいて払拭しています。たとえば、自らのスタッツ(部門ごとの成績)を分析し、「自分は75〜100ヤードのアプローチに難があるな」とわかったら、徹底的にそこを潰す練習をしてきます。そして臨んだ試合で前半「29」が出たとしましょう。彼らはこう考えます。「よし、練習の成果が出ているぞ。後半は28が出せるかもしれない」。日本人選手はといえば「前半は流れが良かったけど、後半もこの流れが続くとは限らない。気をつけよう」とこんな具合です。

ビッグスコアが出ると、選手はメディアのインタビューに呼ばれます。このとき、日本人選手は基本的に「流れ」の話しかしません。「3番ホールのバーディで流れが良くなった」とか「15番ホールのボギーで流れが切れてしまった」とかですね。

それに対して海外選手は「この2週間、みっちり100ヤードの練習をしてきたことで、コースを攻略できた」といった回答をする場合が多いんです。理詰めで練習してきているんだから、結果が出るのは当然だ、という考え方なんです。一言でいえば、とんでもないロースコアになっても、ビビらない素地がある。

画像: 日本選手と海外選手の違いはインタビューの受け答えにも表れると中井は指摘する

日本選手と海外選手の違いはインタビューの受け答えにも表れると中井は指摘する

実は私も、2回50台のスコアを出すチャンスがありました。2回とも、18番ホールでバーディならば「59」という状況です。そして、2回とも達成できませんでした。一回はダボ。もう一回はロストボールでした。いずれも「こんなに上手くいかないだろ〜」というネガティブなマインドセットで18番に臨んでしまったことが悔やまれます。

ジャスティン・トーマスのマネジメント、実は「シンプル」

3つ目の理由は、コースマネジメントです。これはジャスティン・トーマスがいい例ですね。トーマスは、ジョーダン・スピースが常々「あいつは凄い」と発言していたので、早い段階でチェックし、この選手は凄いと認識していました。ドライバーは飛ぶし、ショートゲームも凄い。要するに、めちゃくちゃ上手い選手です。

画像: 2017年、爆発的活躍を見せているトーマス。そのマネジメントは“超”シンプル

2017年、爆発的活躍を見せているトーマス。そのマネジメントは“超”シンプル

彼のゴルフを解説してほしい、という依頼が来るたびに「トーマスのアグレッシブなマネジメント」というワードが付いて回ります。トーマスは、基本的にはピンに打ってきます。リスクのあるショットを選択しているのだから、たしかにアグレッシブと言えなくもありません。

しかし、私はこう思うのです。彼のマネジメントは「アグレッシブ」ではなく「シンプル」だと。たとえば僕は、グリーンを狙うときにこんな風に考えます。「右のピンに対し右に外すのは絶対に避けたい。グリーンセンターから軽いフェードで打っていこう。フェードがかかればピンに絡むし、かからなくてもグリーンセンターからワンパットが狙えるはず。ただし、逆球のフックだけは打たないようにしないとな」。

一方、トーマスはどうでしょう。おそらく同じ状況から彼はこう考えます。「よし、ピンを狙おう」。以上です。どちらがショットに対するプレッシャーがかかるかは、考えるまでもありません。

トーマスはなぜこのようにシンプルなマネジメントをできるのでしょうか? 答えは簡単。彼はボギーを打たないからです。要するに、ピンを狙って、仮にミスしてグリーンを外しても、アプローチがめちゃくちゃ上手いので、パーをセーブできるんです。パーをセーブできる自信があるから、ショットもゆるまず打てる。すべてが好循環になるんです。

前のティから回って、ビッグスコアに体を慣らしてみよう

以上が、昨今の海外での50台連発に対する、私なりの私見です。最後に、アマチュアの方向け、ビッグスコアを出すためのとっておきの方法をお教えしましょう。ズバリ、前のティからプレーするんです。普段白(レギュラーティ)からラウンドしている人なら赤(レディースティ)やフロントティ。青(バックティ)からラウンドしている人なら白から、一度プレーしてみてください。

そうすると、距離が短くなるわけだから基本的にはスコアが良くなります。100が切れない人は100切りを達成できるかもしれないし、普段青から80台で回ってくる人なら、赤から回れば夢の70台を達成できるかもしれません。「赤ティから70台を出してもうれしくない」って? 本当にそうでしょうか。絶対にうれしいはずです。そして、一度でも70台を出したことがあれば、実力は後からその結果に追いついてきます。論理的ではないかもしれませんが、これは実際にそうです。

50台を連発している海外の若手プロにあやかって、みなさんもぜひ「ありえないようなスコア」を目指してみてはいかがでしょうか。(談)

<中井学(なかい・がく)>1970年生まれ。プロコーチとして活動していた2015年、2位の好成績でプロテストを突破。2016年はプレーヤーとしてツアーを戦った

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