ゴルフクラブは1980年代初めころまでのパーシモン時代と、それ以降では大きく変わった。その変化は主に新たな素材の登場や製造技術の進化がもたらしたものだが、それだけではない。ヘッドの重心に着目して設計する人物が現れたことが、ゴルフクラブを大きく進化させた。その人物こそが竹林隆光だ。

クラブを“いじる”うちに重心の存在に気がつく

主にパーシモン時代まで、ゴルフクラブに重心という概念はなかった。これまでの経験に基づいてクラブが作られ、打つほうも打ちやすいとか上がりやすいという違いはわかったが、その理由がなんなのかまでは気にしていなかった。そんな時代にフリーの設計家として竹林が登場。「ヘッドの重心位置こそがクラブの性能を決める最大の要因」との設計理論を基に、それまでの常識にとらわれない話題作、ヒット作を生み出したのだ。

竹林は2013年に64歳で亡くなるが、本書(クラブデザイン研究会発行、フォーティーン監修、B6版、164ページ、ソフトカバー)は設計家としてクラブの進化を牽引した約30年の功績を振り返ったものだ。その内容をかいつまんで紹介しよう。

ゴルフクラブ設計家の竹林隆光氏。ゴルフクラブの進化はこの人からはじまったといっても過言ではない

竹林は1949年生まれ。高校3年のときにゴルフを始め、大学ではゴルフ部に入り、プロにレッスンも受けていた。当時のプロはクラブを“いじる”ことが 当たり前。どこをどういじると球筋がどう変わるかを経験的に知っていて、ヘッドに穴を開けたり削ったり、ウェイトを移動させたり増やしたりしていた。レッスンを受けていたプロもそんな作業を繰り返していたという。

それを見た竹林は、自分でも見よう見まねでいじって打ってみると明らかに球筋が変わることを実感。そして、ヘッドのウェイトの位置や重さを変えるということは重心位置を変えることだということに気がつき、重心位置によってクラブの性能が変わることを知ったのだ。

画像: フリーの設計家として「インテストLX」(写真中央)をはじめ多くのメーカーのヒット作を手がけた

フリーの設計家として「インテストLX」(写真中央)をはじめ多くのメーカーのヒット作を手がけた

重心は高さ、距離、深度によってその位置が表され、さらにはそれらが絡み合うことで重心角が生じる。竹林はこれらの要素が弾道やスウィングにどう影響するかをいち早く解明し、設計に取り入れていった。その初期の代表作が、カーボンとステンレスの複合構造で驚異的な低重心を実現したPRGRの「インテストLX」(通称タラコ、1986年)だ。楽にボールが上がり、誰もが苦手とするロングアイアンの代わりとなる番手として大ヒットし、後のユーティリティクラブの先駆けとなったモデルだ。

ウェッジにも革新的な進化をもたらす

その後、いくつものメーカーから依頼されて重心理論に基づいたヒット作を生み出したが、竹林が先駆けたのはそれだけではない。ヘッドスピードという基準やドライバーの長尺化、クラブヘッドの評価に慣性モーメントという数値を取り入れるなど新たな発想を次々に提案。それらは現在のゴルフクラブの常識となっていることはいうまでもない。

フリーの設計家としての活動は1990年代半ば過ぎまで続き、それ以降は1981年に自ら立ち上げたクラブメーカー、フォーティーンのオリジナルモデル設計に専念するように。そこでも独自の革新性は衰えることはなく、中でも2001年発表の「MT-28」ウェッジは、「ある理由」で国内男子ツアーでの3年連続使用率No.1となるほどの人気モデルとなる。これまで公にされなかったその理由が、本書では明らかにされている。

画像: 他の追随を許さなかった激スピンウェッジ「MT-28」。その秘密は読んでのお楽しみ

他の追随を許さなかった激スピンウェッジ「MT-28」。その秘密は読んでのお楽しみ

また、竹林は日本オープンでローアマになるほどのプレーヤーだっただけではなく、素振りをして数発打っただけでそのクラブの重心位置やシャフトの特性を感じ取る絶対打感の持ち主だったという。そんな話も盛り込まれ、興味深く読むことができる。

お求めはフォーティーンの公式オンラインストア、Amazon、または東京駅と高崎駅周辺の一部大型書店で。

ゴルフクラブは今やコンピュータで設計され、打てば即座に弾道データを取ることができる時代。だがここに至るまでの進化に竹林が果たした役割がいかに大きいか。ぜひ本書で唯一無二の設計家の功績を振り返ってもらいたい。

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