ミズノの新製品「ミズノプロ」のアイアン3モデルの勢いが止まらない。ミズノプロは、“フィッティングを前提としたカスタム専用モデルアイアン”。従来のように、ショップに行って“吊るし”のクラブを買うのではなく、ゴルファーはまず専用の計測器によるフィッティングを受け、それを元にクラブをカスタムオーダーする。そして、そのオーダーはミズノが誇る岐阜県の養老工場に直接届き、練達の職人たちの手によって、一本一本組み上げられることになる。大量に届くオーダーを、工場はどうさばいているのか? そこにはどんな付加価値があるのか? それを探るべく、養老工場に突撃取材を敢行した!

そもそも養老工場はカスタムオーダーの経験を積み重ねていた

実は、ミズノのカスタムオーダーは、今回のミズノプロがスタートする以前からアイアン好きの間に利用者が多い、“知る人ぞ知る”サービスだった。シャフトはもちろん、ロフト角、ライ角などを自分ピッタリに合わせることができ、グリップや、番手の数字に入れる色、メッキの種類に至るまで細かい指定ができることから、ギア好きなら一度はオーダーしてみたいと思わせるものだったのだ。

画像: 通常メッキのミズノプロ518(左)とカスタムオーダーのメッキが施されたもの。仕上げひとつで、所有感は大違いだ

通常メッキのミズノプロ518(左)とカスタムオーダーのメッキが施されたもの。仕上げひとつで、所有感は大違いだ

今回のミズノプロのすごいところは、そのきめ細やかなオーダーシステムを、ほぼ“全量”において実施しているという点と言える。たとえば、もう少し飛ばしたいからロフトを1度立てて欲しい、とか、身長が高いから少しアップライトにしてほしい、とか、フェースターンを抑えたいからグリップの下巻きテープの右手部分をやや厚めにしてほしい、なんていう、普通はゴルフ工房にクラブを持ち込まなければやってもらえないような注文を、オーダー段階で聞いてもらうことができるのだ。

全国から届く多種多様なカスタムオーダーを、しかも最速3日の発送で実現する。その仕組みを作るために、養老工場は数年前から生産体制の見直しを、トヨタ自動車の技術指導など“外部の血”も取り入れつつ進めてきたのだという。

画像: メッキが施された直後のミズノプロ118アイアン。圧倒的な美しさ。美しすぎて使えないかも……という不安が脳裏をよぎるレベルだ

メッキが施された直後のミズノプロ118アイアン。圧倒的な美しさ。美しすぎて使えないかも……という不安が脳裏をよぎるレベルだ

しかし、ここでどうしてもわからないことがある。工場というと、普通は流れ作業。Aさんはグリップを入れ、Bさんはシャフトを差し、Cさんは……というように、次々に作業をこなしていくはず。たとえば1日中同じクラブを作るのであれば分かるが、一本一本シャフトもグリップも違うといったオーダーを、どうこなしているのか? それが知りたくて、ミズノ株式会社ゴルフ事業部でプロモーションを統括する横山直生さんの案内で、養老工場を訪れた。

ひとつのラインで、ひとつひとつ異なるオーダーに対応する

「ミズノプロが発売となり、養老工場のカスタム比率は従来より跳ね上がっています。一人一人のオーダーにお応えしなければならないということは、一本一本作業工程が変化するということ。当然工場のリスクは増えますし、よりシビアに管理する仕組みを整える必要もありました。間違いがあってはならないのが、カスタムオーダーの前提です。わざわざフィッティングを受けたんだから、とお客様は期待値のハードルを一段上げて、商品の到着を待ってくださっていますから、その期待は絶対に裏切れません」(横山さん、以下同)

注文通りに、しかも期待以上の仕上がりで、商品を届ける。そのためには、カスタムオーダーの仕組み自体から見直す必要があったと横山さんは言う。従来は各ショップがオーダーを受け、それを工場に送るという形だったが、ミズノプロの誕生を契機に、フィッティング現場のタブレットから直接オーダーが工場のカスタムセンターに届くように、いわば窓口を一本化。このような効率化が、ミズノプロの“ほぼ全品カスタム対応”という大手メーカーの主力商品としては過去に例のないビジネスモデルを成立させている。

画像: 養老工場内のカスタムセンター。全国からの注文はこの部署で集約され、組み付けの現場へと流される。工場のラインのすぐ脇に位置するのも、効率化に一役かっていそうな印象だ

養老工場内のカスタムセンター。全国からの注文はこの部署で集約され、組み付けの現場へと流される。工場のラインのすぐ脇に位置するのも、効率化に一役かっていそうな印象だ

さて、工場に目を戻そう。工場に足を一歩踏み入れると、そこはフォークリフトが忙しく働き、梱包されたクラブの発送業務を行う倉庫へと運んでいる。つまり、そこが“終点”。そこから工場は奥に向かうにつれ、よりパーツに近い状態になっていく。壮観だったのは、その“始点”の部分。つまり、パーツがモデルごとに管理されているエリアだ。

画像: ミズノプロ518のヘッドが、番手ごと、ライ角ごとなど細かく分類され、棚に収納されている。ここからオーダーに合わせてひとつひとつパーツが選ばれていく

ミズノプロ518のヘッドが、番手ごと、ライ角ごとなど細かく分類され、棚に収納されている。ここからオーダーに合わせてひとつひとつパーツが選ばれていく

「カスタムセンターで集約されたオーダーシートは、速やかに調品部門に回されます。調品とは、オーダーごとに、ヘッドはこれ、シャフトはこれ、グリップはこれとパーツを選別する役割。集められたパーツはひとつのトレイにまとめられ、オーダーシートとともに工場のラインに乗るわけです。料理でいう材料が部品で、レシピがオーダーシートというイメージでしょうか」

画像: ヘッド、シャフト、グリップ……ひとつひとつのパーツがオーダーシートに沿って選ばれ、組み上げられる

ヘッド、シャフト、グリップ……ひとつひとつのパーツがオーダーシートに沿って選ばれ、組み上げられる

これが、カスタムオーダーに対応するためにミズノが作り上げたシステム。グリップを装着する人、シャフトを挿す人……職人たちは流れてくるパーツをその熟練の技術で一本一本組み上げていくわけだが、そうして完成するクラブは同じ「ミズノプロ」でもシャフトやグリップが違ったり、細かい味付けが施されたカスタム仕様になるというわけだ。

画像: 工場のラインを流れていくカスタムオーダーされたミズノプロアイアン。同一ラインでありながら、グリップがオーダーごとに全部違う!

工場のラインを流れていくカスタムオーダーされたミズノプロアイアン。同一ラインでありながら、グリップがオーダーごとに全部違う!

この仕組みを支えているのが、ミズノ独自のマイスター制度。作業工程ごとに定められた、いわば検定制度のようなものだ。

画像: ミズノプロのアイアンは、ミズノの宝とも言える養老工場の職人たちが組み上げる

ミズノプロのアイアンは、ミズノの宝とも言える養老工場の職人たちが組み上げる

「年に一回、技能検定があるんです。それで、たとえば技能が一級ならこういう工程ができますよ、といったようにできることが変化し、それに応じて職位が上がっていきます。海外の工場などと違い、顔の見える人が作る安心感がありますし、技能の伝承が行われ続けるのも、メリットだと考えています」

一人一人がプロの職人だからこそ、「流れ作業の中でカスタムオーダーを請け負う」という離れ業を成し遂げられるというわけだ。事実、この日工場を訪れて一番驚いたのが、思ったよりも手仕事が多いという点。機械にもAIにも置き換えられない仕事が、たしかにここにはあると実感できる。

画像: グリップも職人の手によって、一本一本丁寧に装着される

グリップも職人の手によって、一本一本丁寧に装着される

とはいえ、一本一本異なる仕上げとなるカスタムオーダーは、当然ながら生産効率は既製品に比べて落ちる。現在、工場は部品のある限りフル稼働して、全国から舞い込むオーダーに対応している。すごいと思うのは、その過程のどれひとつとして「手伝えない」と感じた点。

超高速かつ超高精度で流れていく作業は、どのパートであっても到底素人が代わるのは不可能。生産効率を高めるための効率化も熟練した仕事人の存在あってのことだ。

画像: このアイアンは一体どんなゴルファーの元へ向かうのか。カスタムオーダーだけに、一本一本仕上がりの異なるクラブが、次々に箱詰めされていく

このアイアンは一体どんなゴルファーの元へ向かうのか。カスタムオーダーだけに、一本一本仕上がりの異なるクラブが、次々に箱詰めされていく

工場のラインの上流においてただのパーツにすぎなかったアイアンが、ロフト・ライ角を整えられ、シャフト、グリップと工程が進むにつれて、徐々に息が吹き込まれ、最後、箱詰めされる直前には、これをオーダーしたゴルファーの顔を思わず想像したくなるような、“生きた道具”になっていく様子は圧巻の一言。

最後、出荷されていく寸前には、「今から、このアイアンの到着を楽しみに待っている人の元へ行くんだな」と、なんだか非常に感慨深い気持ちにまでなってしまった。まさか工場取材で子どもの卒業式に出席した親のような心境になるとは思わなかった。

画像: 「さあ、行け! 君たちを待つゴルファーの元へ!」と、最後にはアイアンにエールを送りたくなった

「さあ、行け! 君たちを待つゴルファーの元へ!」と、最後にはアイアンにエールを送りたくなった

ひと通りの作業を取材して、控え室に戻った横山さんがこう言った。

「養老工場あっての、ミズノプロなんです」

その言葉には、取材を終えた今、嘘も偽りもないことがよくわかる。ミズノの新戦略である“フィッティングを前提としたカスタム専用クラブ”ミズノプロは、養老工場の設備、生産体制、そしてなによりそこで働く職人たちがいて初めて可能となるビジネスモデルだ。

ビジネスモデルという言葉には、どこか冷たい印象がある。そして、アイアンは鉄の塊で、やっぱり冷たい印象がある。にもかかわらず、養老工場で見たミズノプロのアイアンたちは、人の手から人の手へと渡って組み上げられたからなのか、すごく温もりに溢れていた。

画像: 注文してくれたゴルファーを待たせるわけにはいかないと、今日も養老工場はフル稼働を続けている

注文してくれたゴルファーを待たせるわけにはいかないと、今日も養老工場はフル稼働を続けている

人が使う道具を、人が組み上げる。この“当たり前”のなんという贅沢なことか。そして、この贅沢さこそが、ミズノプロの最大の魅力なのかもしれない。そんなことを思った、工場取材だった。

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