ゴルフクラブの進化を語るとき、忘れてはいけないのは、数百年に及ぶ先人たちの取り組みの果てに、今が、最新のカタチがあるということ。たまには昔のゴルフ道具を眺めながら、先人の叡智と今と変わらぬゴルファーの欲望に思いを馳せてはいかがだろうか。

いつの時代もゴルファーは、お助け機能を求めている!

現代ゴルフで“ユーティリティ”クラブといえば、ロングアイアンの代用、フェアウェイウッドとアイアンとの間に入れるアレを思い起こすはず。しかし、先人たちにとって、“ユーティリティ”といえばウェッジクラブを意味していた。

1920年〜30年代に活躍したジーン・サラゼンが、バンカー攻略のためにサンドアイアン(ウェッジ)を考案したのは有名な話だが、これは飛行機の翼をヒントに、アイアンのソールをワイドに、かつラウンドをつけることで砂に潜りにくくしたもの。今はいかに簡単に遠くへ飛ばすか? が“ユーティリティ”のテーマだが、昔はいかに砂から出すか、ラフから出すか、の方が重要だったのである。

今回紹介する、マグレガー社の「ダブルトラブルアイアン」も、そんなグリーン周りからのお助け機能を考えて生み出されたユーティリティクラブである。当時のカタログには、バンカーショットでも、ピッチショットでもうまくいく機能満載! と書かれている。

実際、ソールはそんなに幅広ではないが、その分、ソールの出っ張りを表すバウンス角度は、かなり急角度。通常のバウンス角は8〜14度くらいのところ、18度くらいはありそうだ。これでバンカーからのショットの際に、フェースが深く潜ることを防いでくれるから難なくクリアできそうだ。

画像: バウンス(ソールの出っ張り)角が大きいマグレガー社「ダブルトラブルアイアン」

バウンス(ソールの出っ張り)角が大きいマグレガー社「ダブルトラブルアイアン」

そして、世界で100万セット以上売れたといわれるキャビティバッグアイアンの源流、ピン社の「ピンアイ2」のサンドウェッジを彷彿とさせる、オフセット形状とスクェアなリーディングエッジは、パターのようなシンプルな動きでアプローチができそうな工夫だ。

画像: クラブフェースがシャフトよりも後方(右側)にあるオフセット形状

クラブフェースがシャフトよりも後方(右側)にあるオフセット形状

秀逸なのは、オリジナルの革グリップが通常のグリップに比べて長いこと。これがアプローチに特化したユーティリティクラブであることの証明のように思える。短く持って、ボールに近く立つ。そんなプレースタイルを考慮して、あえて長グリップにしたことが推察できるからだ。ソールの機能でサンドウェッジとして、形状とボールに近く立てる設計でチップショットも容易になる。まさに、ダブルのトラブル局面で使えるお助けクラブなのだ。

先ほど、「ピンアイ2」のようなオフセット形状と書いたが、アイ2の発売は1982年。では、『ダブルトラブルアイアン』はいつの時代のクラブなのだろうか?

答えは/1954年のカタログに掲載。※54年以前のモデルである可能性もある。

アイ2発売から数えて28年前。今からなら64年も前にこうしたアイデアユーティリティクラブが存在した。今も昔もメーカーがやっていること、ゴルファーの願望(わがまま?)は変わらないのだな、と少し可笑しくなった。

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