「このクラブ、僕は定価で買います」(今野一哉)
ミズノのGXドライバーには新開発されたカーボン素材を用いた次世代カーボンシャフト「MFUSION」(エムフュージョン)が採用されている。GXドライバーの最大の特徴が、このカーボンシャフトだ。
その特徴は「軽・硬」。ギア好きゴルファーなら承知の通り、かつては70グラム台、80グラム台が当たり前だった海外のトッププロも、最近は60グラム台、50グラム台を使用するケースが増えており、軽・硬は世界的ムーブメントとなりつつある。その理由はシンプル。ヘッドが曲がらなくなった分、軽いシャフトでヘッドスピードを上げるのが、飛距離に直結するからだ。
MFUSIONのコンセプトが、まさにこの「軽・硬」だ。それも40グラム台という極めて軽い重量帯で、硬さをしっかりと感じさせるところに大きな特徴がある。従来、軽くするとシャフトは頼りなくなるのが当たり前だったが、新開発されたカーボン素材によってそのデメリットを解消したというのがメーカーの説明するところだ。
今回話を聞いたプロゴルファー・今野一哉もGXドライバーが発表されたタイミングでミズノの開発スタッフから「すごいシャフトができた」と聞いていたという。だが、新しいクラブを世に出すときはどのメーカーも「今度は凄い」と言うもの。今野自身、社交辞令的に返事をして、それっきりになっていた。
そして、今野は実際にGXドライバーを試打して驚くことになる。MFUSIONシャフトが、既存の“軽・硬”カーボンシャフトと比べてはるかに進化していると感じたからだ。今野は言う。
「いままでの“軽・硬”シャフトは、軽量がゆえにヨレてしまいスウィング軌道が安定しない、シャフトが逆にしなってしまう、などのデメリットがありました。結果、ヘッドスピードが上がっても球が暴れてしまっていたんです。しかしGXのシャフト『MFUSION』はそのデメリットを抑えています。
軽量だからヘッドスピードが出るのは当然なのですが、それなのに球が暴れない……“軽・硬”でこれだけ安定しているシャフトというのは、かつてないものですよね。軽くて、強度がしっかりあって、打ってみると球が暴れない。革新的ですし、向こう100年のゴルフギアのことを考えるなら、このシャフトに触れておいて損はないはずです」(今野)
商品へのリスペクトが高まった果てに「間違いなく、定価で買います」と鼻息を荒くする今野。量販店の割り引き価格で買うことすら己に許さないという絶賛っぷりは、このクラブの技術的な開発難易度の高さを理解できるからだ。
「新しい技術を用いて開発された新製品はたくさんありますが、ゴルファーに対して恩恵があるところまで昇華できている製品って少ないんですよね。その点で言えばGXドライバーは、プレーヤーが打った瞬間に『これは新しいな』と感じ取れると思います。次世代クラブのゼロベースになるくらいの衝撃とポテンシャルを持っています」
“軽・硬”が簡単に飛距離を伸ばす方法であることはメーカーも以前からわかっていたはず。しかし軽くすれば頼りなくなる。硬くすれば強度が足りない……技術的な問題で実現できなかった二律背反的な要素をミズノは新開発されたカーボン素材によって現実のものにしたということだ。
「ミズノさん、わかってらっしゃる」と言いたくなる、つかまり過ぎないヘッド
軽・硬シャフトが革新的かつ特徴的なGXドライバーだが、その一方でヘッドの形状はオーソドックスだ。
460ccの大型で、投影面積が大きく慣性モーメントは高め。「460CCのドライバーになじみのある人にとって、ごくごくオーソドックスなものです」と今野が語るように、形状はミズノらしいクセのない“いい顔”。フェースの高さが抑えられたシャローフェースで作られていて、重心は少し下げられている。さらにソールにスリットが入りたわみ量をアップさせることで反発を確保、高弾道低スピンのお手本のような形状をしている。
今野いわく、このヘッドの面白いところは、「ここまで『大型でやさしめのヘッドです』という形状ならばもう少しドローバイアスに入れてもいいはずだが、それをあえてやっていない」ところだという。
「上級者ほどフェースローテーションをうまく使っていますが、最近のやさしいドライバーは『大多数はフェースローテーションを使いこなせないのだから、フェースローテーションを使わなくてもいいクラブを作ろう』という考えのもとに作られていると思います。しかしそうすると、昔からのフェースローテーションを活用して打つゴルファーたちは戸惑ってしまい、未だに古いドライバーを使っている、なんて人もいると思います。
GXドライバーのヘッドは最新の技術を取り入れながらも、やさしい部分だけに特化しすぎないことで、現代の最新技術で作られたクラブが出てくる前からゴルフをやっていた人たちのフィーリングにも合うように設計されているのです」(今野)
年齢を重ね、ヘッドスピードが落ちてくるのは誰にでもあること。従来、そのようなベテランゴルファーには軽く、頼りないシャフトが装着され、フックフェースでつかまりのいい(ドローバイアスの強い)“シニア向け”のレッテルが貼られたクラブしか用意されていなかった。GXは違う。
思い切りフェースローテーションを使ってカッ飛ばせるヘッドに、振れば振っただけ応えてくれる軽量シャフトの組み合わせに、我が意を得たりと思うゴルファーは決して少なくないだろう。
「我はゴルファー」という人にこそ、打ってもらいたい
ミズノといえば昨年にカスタムすることが前提になっている「ミズノプロ」シリーズを発表している。ミズノというブランドに“フィッティングに力を入れている”というイメージが出来つつあるいま、アジャスタブル機能も付いていないGXシリーズが吊るし売りされていることにも、今野はこのプロダクトへのメーカーの自信を感じるのだという。
「GXシリーズはデザインもシンプルで地味とも言えるし、ヘッドもオーソドックスで目新しさはないです。これにはミズノの、GXシリーズとしてはじめて世に出されたものをまずは素材のまま楽しんでください、という意図が見て取れますよね。それだけ、MFUSIONという新技術への自信があるのでしょう。そして実際に打ったあとなら、その出来の良さに納得させられます。ある程度ゴルフを知っているゴルファーなら、試打に行って2、3発打てばその違いに気がつくはずです」
ミズノがターゲットにしているのは「I play golf」、すなわち「ゴルフをプレーし(たことがあり)ます」というライト層ではなく、「I am a golfer」、つまり「我はゴルファーである」という自負がある人々。
そんな人たちにGXドライバーは必ず響くものがあると今野は語る。プロゴルファーをもってして、「これは定価で買わねばならぬ」と言わしめたクラブ、一度試さない手はないだろう。