ゴルフコースを回ると必ずといっていいほどに遭遇するのがバンカー。フェアウェイからグリーン周りまで様々な場所に設置されているバンカーだが、ゴルファーのみなさんは始めてバンカーショットをしたことを覚えているだろうか? 慣れているからこそ気をつけたい“バンカーのマナー”をゴルフマナー研究家・鈴木康之が著書の「ゴルファーのスピリット」からご紹介しよう。

レーキを二刀流で使う人はいない

初めてバンカーショットをした時のことをあなたは覚えていますか。

ゴルフ場というところには、なぜこんな難儀なものをわざわざこしらえてあるのかと、あなたはゴルファーのサド・マゾ趣味に呆れましたね。

一度で出て「天才」とおだてられましたか。「もう出てこいよ」と地獄に仏の声をかけられましたか。ともあれ、やれやれと出かかると、「コラコラ、そのまま出てきてはいかん、後始末をして出なさい」と叱られ、かたわらのバンカーレーキで砂の凸凹を掻きならしてから出てくるものだ、と教えられました。

二度目のときは「コラコラ、急斜面から下りてはいかん」と叱られ、「低くてボールに近いところから入るのが道理だぐらいのことが、見て分からんのか」と小馬鹿にされたものでした。

あれから何年になりますか。いまでこそあなたは「レーキを手に持って入るといい。ショット後、足跡に沿って後ずさりして出てくるとラクだから」とビギナーに優しく教えてあげる側になりましたが……。

画像: バンカーには打った後に砂を均すレーキが置いてあるが、置き方に注意したことはあるだろうか?

バンカーには打った後に砂を均すレーキが置いてあるが、置き方に注意したことはあるだろうか?

はじめの頃あなたは、バンカーならしなどコースの作業員がやる仕事、なんで金払う客の俺がしなくちゃいけないんだと、反発を感じましたか。が、「お前はトイレで流さないで出てくるのか」のひと言に一撃を喰らって納得。

ついでに先輩から「ゴルフという嗜みはグラウンドを傷めずにはできないゲームゆえ、一打ごとの後始末が不可欠。ショットの痕跡を消して後続のプレーヤーに場を明け渡すのが紳士の作法。しかも自己完結のゲーム。後始末の責任はすべてプレーヤー自身にあり」と、大家の説法の受け売りまで聞かされたものでした。

そのうちあなたは、そうしたプレーの後始末がルールブックの第一章に書かれていることだったと遅まきながら知りました。そこには、バンカー内につくった「穴や足跡もすべて入念に埋め、平らにならしておくべきである」とあって、続く解説には「だから、入念に埋めず、平らにならさないのは、埋めたことにも、ならしたことにもならない」と書いてある。一度そうと知ってしまうと、以後いい加減にならすことはできなくなりました。丁寧にやろうとすれば待つ人がスロープレーだという目つきをしても、です。

最近になってあなたは、レーキをバンカーの外へ置くコースと中に置かなければいけないコースがあることを知り、レーキを無意識に置けなくなりました。

先週あなたは、レーキを外に置くコースへ行きました。外に置くコースと知って外へ置くと、先輩に忠告されました、「そこにレーキがもう一本置いてあるだろう。レーキは同じところに一本あれば足りるんだ。レーキを二刀流で使う者がいるかい」と。気づいてみると、レーキが二、三本寄り集まっていることがよくあります。

そういえば先輩は時折、通りすがりに寄り集まっているレーキを置きなおしていることがよくあります。知った以上これからは自分もそれをやることになるだろうな、とあなたは思います。

知れば知るほどに、気づけば気づくほどに、やることが多くなる。ああ、思えば遠くまできたものだ。それにしてもバンカーとは難儀なものだ。

「ゴルファーのスピリット」(ゴルフダイジェスト新書)より

写真/三木崇徳

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