日本有数の名コースが、世界基準に生まれ変わった
三井住友VISA太平洋マスターズの大会直後に、最終日のピン位置そのままの太平洋クラブ御殿場コースをプレーしてきました。
私は研修生時代を太平洋クラブ成田コースで過ごしたことから、御殿場コースには何度も足を運んだことがありましたが、当時から御殿場は憧れのコースでした。
タイガー・ウッズにデビッド・デュバル、リー・ウェストウッド、ダレン・クラーク……世界の名手たちがプレーした18番ホールを自分自身でもプレーする、その喜びはゴルファーなら説明無用。太平洋クラブの系列コースの中でも特別なコースという印象が当時も今もあります。

改修後の18番ホール。より戦略性が高まり、スリリングなホールとなった
その御殿場コースが、松山英樹プロ監修の元、リース・ジョーンズによって改修されるというのだから、「早く回りたい!」という気持ちを抑えるのが大変なほどでした。
リース・ジョーンズといえば、「ベスページ・ブラックコース」や「トーリーパインズ」などの超有名コースの再設計を手がけたことで有名な世界的コース設計家。タイガー・ウッズが劇的な復活優勝を果たした「イーストレイクゴルフクラブ」も手がけています。
彼が1年という限られた期間の中で行ったのは、すべてのバンカーとグリーン周り、そしてティグラウンドの改修。そして、ティグラウンドからの落下地点(IP)を、従来の250ヤードから現在の基準である280ヤードに設定し直すという作業でした。
その効果は1番ホールに立てば明らかでした。フェアウェイ右サイドの木がなくなり、280ヤード先のIPまで豪快に飛ばしたくなるホールに様変わりしていたからです。

1番ホールグリーンからティグランドを振り返る
もちろん、ただ飛ばせばいいだけではなく、フェアウェイバンカーの位置が工夫されていることから「ここに打ってこい」という意図も明確に見える。プレーヤーとしての挑戦意欲を掻き立ててくれます。
そして、これは他のホールにも言えることなのですが、プロや上級者が全力で挑める一方、距離の出ない女性やシニアには、むしろやさしくなっているんです。たとえば1番なら左側の厄介なラフがフェアウェイになったことで、ベテランメンバーさんはスコアが出しやすくなって喜んでいる、とキャディさんが教えてくれました。
「世界遺産・富士山の景観が映えること」が改修の目的のひとつ
このコースのもうひとつの大きな特徴、それは日本一の山、富士山の存在です。もともと富士山の景観が美しいコースでしたが、コース改修の目的のひとつに「原設計を生かしながら、世界遺産・富士山の景観が映えること」を掲げたことで、さらに絶景を楽しめるようになっています。
たとえば9番ホールは、フェアウェイ右サイドにバンカーがあることから、ドローボールで狙っていきたくなるホール。“VISA太平洋”では松山英樹プロが林からのスーパーリカバリーを見せてくれたホールですが、このホールではぜひ2打目地点からティグラウンド方向を振り返っていただきたい。

9番ホール2打目地点から振り返るとそこには富士の威容。見逃し厳禁だ
ドン! と目の前にそびえる富士の威容は、この地このコースでプレーする喜びを腹の底から感じさせてくれます。
トーナメントではワンオンチャレンジにプロが挑んだ短いパー4の15番、右サイドの木が絶妙に効いている16番、見惚れるような美しいバンカー群が印象的な17番……とできれば全ホール語りたくなりますが、多くのゴルファーが気になるのは、やはり超有名ホールである18番でしょう。
日本国内のゴルフ場のホールを全部足した何万ホールという中で、このホールほど「数多くのドラマを生んだ」という言葉が似合うホールはそう多くないのではないでしょうか。
グリーン右手前の池がグリーン右奥まで大きく食い込み、さらにはグリーン左のバンカーがグリーンに近づいたことで、そのスリリングさはさらに高まっていました。
アマチュアゴルファーの方の多くは、2打目を池の手前に打ち、そこからの3打目勝負になると思います。その地点に来たゴルファーは「あの名勝負の舞台に今立っているんだ」という感動を必ずや覚えるに違いありません。

名勝負の舞台に立つ感動が味わえる18番ホール。勇気を持って、ピンを狙おう!
リース・ジョーンズの改修はプロ・上級者にとってはチャレンジングですが、一般ゴルファーにとっては決して難しい改修になっているわけではありません。しかし、18番に関しては別。最高にスリリングなショットを十分に楽しんでください。
池ポチャでダボの可能性もありますが、恐れずにピンを攻めれば、バーディフィニッシュも十分可能です。「おれは、御殿場の18番でバーディを奪ったんだ」と、“一生モノ”の自慢話になるかもしれません。
トーナメントのコースセッティングを手がけた田島創志プロは、取材の中で、「ティショットをダイナミックに打たせて、2打目以降はターゲットを絞っていくという、本来ゴルフが持っているゲーム性に近づけたリメイク」と今回のコース改修を評していましたが、まさにその通り。
上手い人にアベレージゴルファー、女性にシニア、すべての人の挑戦意欲を掻き立て、ゴルフというゲームの楽しさを教えてくれる。世界に通用するトーナメントコースに生まれ変わったことはもちろん素晴らしいですが、より「誰もが夢中になって楽しめるコース」になったことに対して、心から拍手を送りたいと思います。