進化の続くゴルフクラブ。それは、もっともシンプルな形状のマッスルバックアイアンも例外ではないようだ。ギアライター・高梨祥明が今、静かに注目されるマッスルバックの世界を案内する。

マッスルがやさしくなったら、ハーフキャビティはいらない

“今どきのマッスルバックアイアンはやさしい”、そんな風に書いてある記事を見かけたりすると、個人的には「ん?」と目を見開いてしまう。難しそうに見えるけど、打ってみたら意外に“やさしい”、進化を感じた。だいたいそんな風にまとめられているが、これはどうなのか? と常に考えてしまうのだ。 

意外に“やさしい”とは、誰から見てそうなのか。それはマッスルが難しく感じる人、つまり、普段はキャビティやチタンフェースのアイアンを使っているゴルファーということになるだろう。しかし、本当にそうならば、そのマッスルは、マッスル本来の役割を果たしていないことになる。そうなると、とても大きな問題であるように思えるのだ。

画像: いまどきのマッスルバックはやさしい?(撮影/加藤晶)

いまどきのマッスルバックはやさしい?(撮影/加藤晶)

キャビティやチタンフェースのように“やさしい”マッスルバックがあったとしたら、それは何のためのアイアン・バリエーションなのか? 動かざる基準として、伝統的で変わらないマッスルバックアイアンがあって、それに対して、ハーフキャビティ→フルキャビティ→チタンフェース、中空→ハイブリッド型 と、ミスに対する許容性を高めたモデルバリエーションに発展してきたのが、アイアンの進化である。マッスルバックがハーフキャビティのようにやさしくなってしまったたら、そもそもハーフキャビティなどいらないではないか。

ゴルフ道具は、そのすべてがニューモデル登場のたびに、やさしく、オートマチックになっていなければならないわけではない。マッスルバックアイアンやウェッジなど、飛距離アップではなく、距離や球筋のコントロールを求められるゴルフクラブは、マニュアル的なままであることが、プレーヤーからも望まれているのだ。

やさしい・難しいは、どちらから見るかで逆になる。

今週、PINGのニューアイアン『BLUEPRINT FORGED』が発表されたが、この商品説明においてPINGの担当者はこう明言していた。

「このモデルは従来のPINGアイアンとは全く別のコンセプトで作っています。常に同じ打点で打つことのできるプレーヤーのために作ったものであり、スイートスポットも広くしていません。ソールも驚くほど薄いです。重心も高いです。なにより驚くほどヘッドが小さいです」と。

簡単にいえば、やさしいアイアンじゃないですよ。と言っているわけだ。しかし、担当者の話をもう少し聞けば、決してPINGが“難しい”アイアンを作ったわけではないことがわかるはずだ。

「マッスルバックアイアンを好むプレーヤーたちにとっては、これこそが“やさしい”と感じるヘッドだということなのです。一部のプレーヤーにとっては、従来の慣性モーメントが大きく、フェースの広いエリアで等しいパフォーマンスを発揮するPINGアイアンは、やや扱いにくく、“難しい”と感じられるものだったのです。今回はそうした一部のプレーヤーのために、PINGとしては初めて、伝統的な性能を持つ鍛造のマッスルバックアイアンを製作したわけです」。

画像: 8月に発売予定のPING「BLUEPRINT FORGED」(画像は米国PINGの公式twitterより)

8月に発売予定のPING「BLUEPRINT FORGED」(画像は米国PINGの公式twitterより)

アイアンのやさしさと難しさが、見る方向によってまったく逆になる、ということがお分かりいただけたと思う。ここに各メーカーが多くの種類のアイアンを出す理由があり、種類が多すぎてユーザーがアイアン選びで迷ってしまうポイントがあるのだ。

それでは、マッスルバックアイアンのニューモデルとはいったい何なのか。どこが進化しているというのだろう。

それは、多くの場合、ヘッドの製造精度やスコアライン(溝)の精密性である。モデルによってはタングステンウェイトなどを内蔵するケースが見られるが、これも本当はなくても良いものであるかもしれない。メーカーはどこかに新しさを込めたいのかもしれないが、プレーヤー自身は、とくにマッスルバックに新しさは求めていないはずだからである。

進化、進化で進んできたゴルフクラブ開発だが、ここまで技術が成熟してくれば、プレーヤー側がこれ以上の進化を望まないケースも出てきている。その証明がPINGの作った最もPINGらしくないアイアン『BLUEPRINT FORGED』である。

ご存知の通り、米男子ツアーではマッスルバックユーザーは一部ではなく、主流だ。彼らに、我々の好む、やさしさ満点の飛び系アイアンを渡したならば、十中八九こういうだろう。“難しい!”と。それがアイアンのあり方だ。我々は人気に左右されることなく、自分にとって“ちょうどいいやさしさ”のアイアンを選ぶべきである。アイアンは、それができるラインナップになっているのだから。

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