しなやかで強いスウィングが戻ってきた
ステップ・アップ・ツアー、「ユピテル・静岡新聞SBSレディース」で、長く不振に苦しんでいた藤田光里が復活優勝を果たした。昨年1月に左ひじの手術を行い、満足にゴルフが出来ない状態からのカムバックだった。
北海道女子アマを5連覇し、2013年に18歳でプロテスト合格、その年のQTはトップ合格で新人戦にも優勝した。2015年には「フジサンケイレディスクラシック」でツアー初優勝と、まさに順風満帆のエリート街道を突っ走っていた藤田だが、ケガの影響もあって徐々に成績が下降。2017年にはシードを逃し、昨年は11試合に出場したものの、予選を通過したのはわずかに1回と深刻な低迷にあえいでいた。
輝かしい成績を収めたプロゴルファーが、大スランプに陥る例は少なくないが、近年は女子ゴルフにそういう選手が散見される。それぞれの選手に、様々な理由が複合的に絡み合っているのだろうから、問題は単純ではないが、藤田の場合は、ケガの影響が大きかったろう。全くいいところなく終わった昨年の成績を見て、もう復活は難しいのでは、と感じたファンも少なからずいたはずだ。
しかし、今年はフジサンケイレディスクラシックで5位とひさびさの好成績をマーク。ベストテンは2016年9月以来、最終日までプレーしたのも1年2ヶ月ぶりだった。かつて優勝した大会で、復調を印象づけた。
さて、この大会で見た藤田のスウィングが、大きく変わっていたのに気づいた人も多いのではないだろうか。低迷していたころのスウィングは、右ひじが高く、担ぐようなトップから、煽り気味にインパクトを迎えていて、強いフックボールでスコアを崩すシーンが多く見られた。
一方、直近のスウィングは、トップでの右ひじの位置が低く、切り返しでよどみなくクラブが下りてきていて振り抜きもいい。実はプロ入り間もない頃の藤田のスウィングが、現在のスイングに似ているのだ。コンパクトながらしなやかで、飛んで曲がらない新人選手だった。本人は「戻した」という感覚はないだろうが、ケガと低迷を経て、かつてのスウィングに似てきているというのは、興味深い現象だ。
もっとも、優勝の決め手になったのは、上がり3ホールでのゴルフ力の高さだろう。16番595yのパー5では、2打目が悪いライだったことからどトップする珍事があったが、3打目をピンそばにつけてバーディ。17番はクラブ選択で悩むことなく、6番アイアンを一閃してバーディチャンスにつけ、同組で優勝争いをしていたハン・スンジにプレッシャーをかけた。それまで正確無比なゴルフをしていたスンジは大きくひっかけてボギー。目を疑うようなミスショットを誘発したのは、直前の藤田のショットだったろう。
圧巻は18番のティショット。左サイドにトラブルのあるホールで、ミスしたかと思えるようなローフェードを打った。ドローヒッターである藤田だが、絶対に左にいかないために、持ち球ではないコントロールされたショットを選択。セカンドでは、フォローの風に煽られてオーバーする同伴プレーヤーを見て、手前から乗せてバーディチャンスにつけ、優勝を確実にした。巧みな距離のコントロールとマネージメント、圧巻の横綱相撲といえる内容だった。
スウィングは、まだかつてのような力感がないので、体力の充実とともにこれからさらに良くなりそうだ。飛距離が伸びてくると、後半戦のレギュラーツアーでの活躍も楽しみになってくる。ケガで苦しんだ経験も精神面の強さになるだろう。
さて、極度のスランプに陥った選手が復活するには、どうしたらいいのだろうか。なかなか浮上できない選手が多い中で、近年は、比嘉真美子、有村智恵と再び強さを取り戻している選手が表れている。藤田もその1人に数えていいだろう。
スランプになった選手は、かつては出来ていたことが出来なくなる。その技術に大きな狂いが生じている。その状態から復活するには、一度壊れてしまった技術の歯車を、ひとつひとつ噛み合わせていくような作業が必要だろうと思う。それは時間がかかるし、結果が出ないと不安になる作業だ。
ややもすると精神面に原因を求めてしまいがちで、そのこと自体は間違いではないだろうが、不振から脱却するには技術面の充実、ピーキングがどうしても必要になる。劇的に変わった藤田のスウィングを見ると、スランプから脱却するためのヒントが見えてくるだろう。