10年あまりで、パターの定番となった「スパイダー」
改めて「スパイダー」についておさらいしてみよう。
初代スパイダーである「ロッサ モンザ スパイダー AGSI+」が発売されたのは、2008年のこと。今でこそ見慣れた形状だが、ステンレススチール製のワイヤーフレームが後方に大きく張り出した、当時としてはかなり大型なヘッドは、異彩を放っていた。
同年、これでは大きすぎるという声に応えて、2回りほど小さい「ロッサ モンザ イッツィビッツィ スパイダー AGSI+」が発売。「スパイダー」の特徴である大きな慣性モーメントと操作性を両立し、ヒット商品となった。
以来、10年余、様々な意匠を施した新たなスパイダーが登場してきた。中でも、印象に残るのが、ジェイソン・デイの愛器となった「スパイダーツアーレッド スモールスラント」。やさしさに定評のある「スパイダー」の形状に、ショートスラントネックを装着することで操作性を向上させたモデルだ。
パターの名手であるデイが愛用し、同形状のブラックのモデルをダスティン・ジョンソンが使って活躍したことで人気が沸騰し、大ブレイクした。
彼らの活躍もあって、現在、ツアープロ達のたちの多くが「スパイダー」を愛用している。アマチュアだけでなく、ツアープロにとっても「スパイダー」は完全に定番になったと言っていい。
現在、テーラーメイドのパター・ウェッジ開発担当であり、「スパイダー」の生みの親と言えるビル・プライス氏に、当時のことを聞いてみた。
キワモノ扱いされた形状が、優勝で評価が一変
—―初代スパイダーが発売されたときは、これまでにない不思議な形状に驚きました。なぜ、あの形になったのですか?
ビル・プライス氏(以下、BP):四角い箱のようなカタチで、「スパイダーウイング」と名付けたウェイトポートが両サイドに広がっています。当時から、驚かれましたよ。とにかく、パフォーマンスを向上させたいという思いを追求した結果、あの形状になりました。
さすがに最初はキワモノ扱いされたのですが、発売から5週間後に、J・Bホームズが「スパイダー」を使用して優勝しました。それから、プロが使えるパターとして認知されていきました。
—―パフォーマンスとは具体的にはどういうことですか?
BP:当時の背景を説明しないといけませんね。11年前、ツアープロの約80%が、クラシックな形状のブレード型パターを使用していました。しかし、これらのパターは安定性という点では、あまり良いとは言えません。
我々のデータでは、一般的なゴルファーは、パッティングの際に3mmくらいの幅で打点がずれている事がわかっています。驚くことに、ツアープロであっても2mmくらいのズレがあるんです。このズレは、ヘッドのグラつきや距離感の誤差に繋がります。だから、それを補う安定性の優れたパターが必要だった。それが、「スパイダー」だったというわけです。
—―「スパイダー」は、初代からそれほどカタチが変わっていません。この11年間、どのような進化をしましたか
BP:初代「スパイダー」が出来たとき、大きな慣性モーメントを実現し、安定感と寛容性を得ることが出来ました。しかし、大きすぎるという声も多かったので、パフォーマンスを犠牲にしないようにしながら、小ぶりなサイズの「イッツィビッツィ」を作ったんです。これは、ツアープロたちにも大変好評で、以降は「イッツィビッツィ」サイズで、操作性を加味しながら、より安定感のあるパターの開発に取り組みました。
新作「スパイダーX」にはミスを防ぐテクノロジーが詰め込まれている
—―それが新モデルの「スパイダーX」ですか?
BP:その通りです! 「スパイダーX」はベリーディープCG(重心)を実現したパター。一般的なブレードパターの重心深度は約11mmですが、「スパイダーX」は、35mmと非常に深くなっています。
これを実現できたのが複合素材。マルチマテリアル構造です。真ん中にあるカーボンのプレートで、本来最も重くなる部分を非常に軽くすることが出来ました。周辺の重量スチールフレームによって、「イッツィビッツィ」サイズでありながら、大型ヘッドと同じような寛容性があります。
—―ちょっと意地悪な質問です。「スパイダー」の寛容性が優れているのはわかりましたが、操作性という意味ではブレードタイプを使ったほうが良いのではないでしょうか。現にプロや上級者でも、クラシックな形状のパターを手放さない人は少なくありません。
BP:私は、これまでのブレードタイプやピン型のパターを、クラシックパフォーマンスと読んでいます。多くのゴルファーたちはこの形状のパターでゴルフを覚え、長く愛用してきました。このクラシックな見た目をとても愛しています(笑)。
一方、「スパイダーX」のようなパターは、テクニカルパフォーマンスと呼んでいます。テクノロジーがたくさん詰まっていて、昔にはなかったパターです。
たとえば、3メートルのパッティングでわずかにスイートスポットを外した場合、ブレードタイプだと7センチの距離感のズレになります。7センチというと大したことないと感じられるかもしれませんが、ツアープロの場合は、カップに入るか入らないかという大きな違いになります。「スパイダーX」ならこうした距離感のズレはありませんから。
以前は、ブレードタイプの使用率がツアーで約80%と言いましたが、現在は、約60%の選手がこうした高機能のマレット型パターを使っています。若い選手たちは、ショットでもあまりフェースの開閉を使わず、シンプルにスウィングする傾向があります。同様に「スパイダーX」のように、寛容性が高くてやさしいパターをシンプルに使うように、時代は変わってきています。
もちろん、クラシックパフォーマンスのパターを否定するわけではありませんよ(ニヤリ)。
多くのツアープロが優勝を勝ち取ったパフォーマンス
—―ツアープロが評価する「スパイダーX」ですが、我々アマチュアが使っても良いパフォーマンスが出ますか
BP:もちろんです! それでも疑い深い人は、キャディバッグに2本のパターを入れてプレーするといいでしょう。ひとつは愛用するパター、もう一つは「スパイダーX」で。ハーフで使い分けてみると、性能の違いがよく分かるはずです。
寛容性と安定性に優れているということは、ショートパットが有利なのはもちろんですが、ロングパットでの優位性も非常に大きくなります。多少、芯を外しても距離感が合うので、とても心強いはずです。10メートル以上のロングパットをする回数の多いアマチュアゴルファーには、ぜひ使ってほしいですね。