WGCの裏大会として開催中のPGAツアー、バラクーダ選手権。今大会には日本のみならず世界中でその変則スウィングが話題になった“虎さん”ことチェ・ホソンが出場している。チェ・ホソンの個性が強すぎるスウィングは理にかなっているのだろうか。スウィング分析の権威ヤン・フー・クォン教授が科学の目で分析した結果を、ゴルフスウィングコンサルタントの吉田洋一郎がレポートする。

柔軟性を補うために編み出したフォロー

近年は計測機器の発達に伴い、より効率的に飛距離を出せるスウィングの研究が進んだおかげか、個性的なスウィングの選手はあまり見かけなくなりました。そんな中、米国でも話題になったのがチェ・ホソンです。

ひざを柔らかく使ってトップを作り、その曲がった両ひざを目標方向に送り込むようにダウンスウィング。そして左足に体重を乗せフォローでは左足1本で立ち、最後には目標に背を向けるようにクルッと体全体を回転させていきます。

この変則スウィングはどのように誕生したのか、本人に話を聞きました。

「25歳でゴルフをはじめたので、早く上達しようと自分に合ったスウィングをたくさん試しました。やっていて気付いたのですが、僕はもともと柔軟性が低い。そこで上半身を積極的に使ったテークバックになりました。フォローでも下半身を中心とした体重移動を積極的にすることで、柔軟性の低さを補うようにしました」

画像: 変則スウィングで話題になったチェ・ホソン(写真は2019年の日本ゴルフツアー選手権)

変則スウィングで話題になったチェ・ホソン(写真は2019年の日本ゴルフツアー選手権)

話していると理路整然としていて理論派の印象も受けますが、今のスウィングに行きつくまでには自分の感覚を頼りに試行錯誤を重ねて完成させたという超感覚派。そんなホソンのスウィングを、科学的な視点で分析をしたらどうなるのか。バイオメカニクス(生体力学)を用いてゴルフスウィングの研究を行っているヤン・フー・クォン教授とともに、最新の計測機械でチェックしてみました。

虎さんはまだまだ飛ばせる!?

今回の計測では日本体育大学の協力を得て研究機関で使用する体の動きをデータ化するためのモーションキャプチャーと、目に見えない力の大きさや流れを可視化するフォースプレート(地面に埋め込まれた機械)を用いて、分析を行いました。

独特のフィニッシュが印象的なホソンですが、毎回左足1本になるわけでありません。

「試合の中で飛距離が欲しい時や、球を打ち分ける時にフィニッシュが変わります」

そこで通常のフィニッシュと左足1本になる2パターンのスウィング計測を行いました。結果は本人の感覚通り、変則スウィングのほうがヘッドスピードにして2~3m/s上がっています。ではどの部分の力の出し方が変わったのでしょうか。計測をしたクォン教授に分析をしてもらいました。

画像: クォン教授(写真中央のパソコンを操作している人物)がホソンのスウィングを分析した

クォン教授(写真中央のパソコンを操作している人物)がホソンのスウィングを分析した

「ホソンは縦のスウィング軸を使ってコマのように回転をするタイプの選手です。変則的なフィニッシュに目が行きがちですが、あれは回転の力が強くなった結果の一つにすぎません」

大きな変化は、切り返し直後にあると教授はいいます。

「ダウンスウィングの際、左足のつま先で地面を蹴る(押す)力が強くなっています。そうすることでその反動の力(地面反力)が大きくなり、その力が今度はかかと方向にかかってくる。それが体を回転させる原動力となっているのです」

ホソンが自ら試行錯誤して作り上げたスウィングは、力を生み出すための合理的な動きだったのです。しかし教授はテークバックを改良することでさらに飛距離が伸びる可能性があると言います。

「反力を大きくするには、右、左、右というように、異なった方向にリズムよく体重を移動することが重要です。ホソンはテークバックの際、まだ右サイドに体重を乗せきれていない。ここを改善すればさらに反力が大きくなり飛距離が伸びていくでしょう」

科学の視点からアドバイスを受けた超感覚派。ホソンのさらなる進化に期待です。

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