一躍時の人となった渋野日向子。世界を制した弾道の秘密を、計測器「トラックマン」の最新データからプロが読み取った!

軌道に対して完全にスクェアなフェース向き

AIG全英女子オープンを制し、一躍時の人となった渋野日向子。それまでは特別飛ばし屋という印象はなかったが、全英では最終日の平均飛距離が264.0Yと抜群に飛んでおり、12番ホール・パー4でエッジまで229Yでピンまで262Yを1オンさせたショットの印象も強烈だ。

今年のLPGAのスタッツを見ると、渋野のドライビングディスタンスは、平均245.05Yで15位(8/11現在)だが、この全英での結果を見ると明らかに飛距離は伸びており、仮に平均で264.0Y飛ばせるとすれば、現在1位の穴井詩の258.27を上回って堂々の1位となる。

画像: トラックマンで計測した渋野のドライバーショットから、彼女の強さの秘密が見えた

トラックマンで計測した渋野のドライバーショットから、彼女の強さの秘密が見えた

最終ホールのボギーでプレーオフ進出を逃し、3位タイで大会を終えた「NEC軽井沢72ゴルフトーナメント」の練習日に、トラックマンジャパンがとった渋野のドライバーショットのデータを見せてもらった。

そのデータが画像Aだ。データは練習日のものでサンプル数も少ないためあくまで参考値だが、トラックマンの日本担当・篠塚佳昭氏によれば、非常に素晴らしい数値で、彼女のドライバーの上手さが如実に表れていると分析する。

画像: 画像A:「トラックマン」で計測した渋野日向子の弾道データ。左上から時計回り、ヘッドスピード、入射角度、ダイナミックロフト、スピン量、打ち出し角、滞空時間、トータル飛距離、ボール初速。中心はミート率

画像A:「トラックマン」で計測した渋野日向子の弾道データ。左上から時計回り、ヘッドスピード、入射角度、ダイナミックロフト、スピン量、打ち出し角、滞空時間、トータル飛距離、ボール初速。中心はミート率

「まずボールデータを見ると、初速62.5m/sというのは日本のLPGAの平均値(60m/s前後)より少し高い数値。打ち出し角は12.4度で平均的。特徴はバックスピン量で、約2900rpmと女子にしては多めです。これはキャリー出る弾道で、滞空時間も6.13秒と長いほうです。このスピン量だと、もう少し初速が高いとさらにキャリーが出て飛ぶと思いますが、本戦時にはアドレナリンが出たりしますしもう少し振るでしょうから、かなり理想的な弾道に近づくと思います。実際、全英の12番くらい振った場合は、あと1m/sくらいは高い数値が出るはずです」(篠塚氏)

さらにクラブデータを見ると、クラブパス(軌道)に対してフェースがスクェアに当たっている点が、渋野のドライバーの精度を裏付けていると篠塚氏。

「クラブパスは2.7度インサイドなんですが、フェースアングルもまったく同じ2.7度のオープン。つまり、わずかにインからとらえてフェースのねじれがないということ。クラブパスからフェースアングルを引いた値を『フェーストゥパス』と呼ぶんですが、その数値が0度ということは、ボールのスピン軸の傾きがないので球が曲がらないということなんです」(篠塚氏)

全英でのフェアウェイキープ率やショットの正確さは、この軌道=フェースに起因するというわけだ。

さらに篠塚氏は、渋野の「スピンロフト」にもビッグキャリー弾道の秘密があると分析する。

「スピンロフトとは、実際にインパクトしたロフトであるダイナミックロフトから入射角を引いた数値で、打ち出し角やバックスピン量を決定づける数値です。渋野プロの場合、ダイナミックロフトが14.4度で入射角が1.9度アッパーなので、スピンロフトは12.9度。10~12度が理想値なんですが、少し多めになっていることで、一般的な女子プロよりもキャリーが出る球が打てているということだと思います」(篠塚氏)

キャリーは出ているが、ボールの落下角が36.1度と理想値の35度に非常に近いということからも、決してランが出ないわけでもない。これらのデータから、渋野のドライバーショットが「バランスのいい高弾道」だということが証明されたと言えるだろう。

スピンが多めだからこそ、キャリーで狙える

プロゴルファーの中村修も、これらのデータは渋野のドライバーの上手さを裏付けるものだと話す。

「単純に飛距離だけなら、もう少し低スピンで強めのドローのほうがランも出て飛ぶかもしれません。実際、多くの女子プロがそういった弾道を打っていますが、渋野プロはそれよりも少しスピンが多めの、キャリーが出てボールコントロールもしやすい球でこの距離を出している。ほぼストレートの弾道で狙ったところにキャリーで飛ばせるというのはマネジメントの面でも、大きな強みだと思います」(中村)

渋野のスウィングバランスのよさは、インパクト直後の写真を見るとハッキリと表れていると中村。

「このポジションでヘッドが少しだけティより高いので、わずかなアッパー軌道ということがわかります。にもかかわらずシャフトの飛球線後方への傾きがほとんどないのでロフトが増えすぎず、ボールにスウィングのエネルギーが効率よく伝わっている。データどおり、とてもバランスがいいインパクトです」(中村)

画像: ややアッパーで、ロフトがつきすぎない効率良いインパクトが、渋野の飛んで曲がらない弾道を生んでいる(撮影/岡沢裕行)

ややアッパーで、ロフトがつきすぎない効率良いインパクトが、渋野の飛んで曲がらない弾道を生んでいる(撮影/岡沢裕行)

加えて中村が絶賛するのは、渋野のスウィングテンポのよさ。

ルーティンのテンポとスウィングのテンポがシンクロしていることは、スウィングの再現性に大きく貢献する。これが決断の速さやスウィングの迷いのなさなどと相まって、プレッシャーのかかる場面でも曲がらないショット力につながっているのだろう。

「渋野プロのスウィングは、バシッと打ってフィニッシュで球の行方を一瞬見たら、すぐに目線を切るのが印象的。スウィングも感触もよく、感覚が研ぎ澄まされている証拠だと思います。彼女の強さが表れているシーンだと思います」(中村)

渋野が飛ばし屋に変身したことは、改めてデータでも証明された。現在のLPGAのドライビングディスタンスを見ると、15位の渋野より上に、松田鈴英、三浦桃香、山路晶、原英莉花、勝みなみ、河本結ら6人もの「黄金世代」が顔を連ねる。今後は、彼女らとの「飛ばし合い」の行方からも目が離せない。

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