従来の開発手法を大きく変更し、とにかく高い性能を出すことにこだわったヤマハの新「RMX」。中でも、これまで軟鉄鍛造アイアンとして評価の高かった「1」シリーズの素材をクロムモリブデン鋼に変更して、パフォーマンスを飛躍的に高めたという。編集部はヤマハの開発工場がある浜松に飛び、開発者であるヤマハ商品開発グループの森輝充氏から話を聞いた。

性能を高めることにこだわったら、「クロムモリブデン鋼」が最適解だった

ヤマハの「1」シリーズと言えば、長年、軟鉄鍛造アイアンとして、打感・打音や操作性が評価されてきたモデルだ。こだわりの中上級者に愛用者の多い、いわば“いぶし銀”のアイアンだった。

しかし、新たに発売された「RMX 120」は、素材をクロムモリブデン鋼に変更したという。なぜ、ゴルファーから支持されていた軟鉄鍛造をやめてしまったのだろうか。ヤマハ商品開発グループの森輝充氏が説明してくれた。

画像: ヤマハ商品開発グループの森輝充氏。開発当初からのテーマは「性能を引き出すこと」だった

ヤマハ商品開発グループの森輝充氏。開発当初からのテーマは「性能を引き出すこと」だった

「素材を変えることが目的ではなくて、あくまでも性能を出すということが、開発当初からのテーマでした。その結果、軟鉄よりもクロムモリブデン鋼がより適していたということです。結果的に、前作「RMX 118」と比べて、パフォーマンスが飛躍的に向上したので、後継モデルというよりも、新たな高機能アイアンをリリースしたと言えるくらいの性能差が実現できました」(※以下、カギ括弧内 ヤマハ 森氏)

慣性モーメントを最大化するためには「一体成型」でなくてはならなかった

近年は、アイアンにもより飛距離が求められるようになり、市場では飛び系アイアンの人気が高い。「RMX 120」はどのような機能が向上したのだろうか。

「これはドライバーでも同様だったのですが、ミスへの寛容性を高めるため、ヘッドの慣性モーメントを大きくする必要がありました。そのためには、どうしてもポケットキャビティ構造を採用しなければならない。これまでの『1』シリーズのような、打感にこだわったハーフキャビティでは、寛容性という点ではまったく不十分だったからです」

画像: RMX 120アイアンの深い、深いポケットキャビティ。一体成型でこのディープなポケットをつくるためには、クロムモリブデン鋼の採用が必要だった

RMX 120アイアンの深い、深いポケットキャビティ。一体成型でこのディープなポケットをつくるためには、クロムモリブデン鋼の採用が必要だった

「現在、市場で人気となっているポケットキャビティは、ボディ部を作り、そこに薄肉のフェース材を溶接して作る方法が一般的です。この製法は、フェース材をボディ部に溶接するための『受け』の部分をボディ側に作る必要があり、これが慣性モーメントを大きくする際のネックになります。ヘッドサイズを拡大せずにこれを解決するには受け部の必要がないフェース・ボディの一体成型しかありません。このような背景があり『RMX120』を一体鋳造で設計することを決めました。そして、鋳造材料の中でこのモデルに求める性能を達成するために選んだのがクロムモリブデン鋼です」

軟鉄鍛造からクロムモリブデン鋼鋳造への転換。これにより、一体成型のポケットキャビティが可能になり、ヘッドの周辺により重量を配分することが可能になったという。その結果、慣性モーメントは、比較的小ぶりな中上級者向けアイアンとしては、圧倒的に大きな数値を実現した。

画像: トップブレードの幅などは大きく変えず、構えた時のシャープな見た目はキープしている

トップブレードの幅などは大きく変えず、構えた時のシャープな見た目はキープしている

「クロムモリブデン鋼を使ったことで、フェースを薄肉化して、目標とする反発性能を出すことも出来ました。また、硬度の高いステンレスでは出来ない、ライ角・ロフト角の調整も出来ます。我々が理想とする性能と、中上級者向けのアイアンに求められる機能を達成するためにクロムモリブデン鋼が最適だったということです」

失ったものはない。得たものは、前作をはるかに上回る「性能」

しかし、クロムモリブデン鋼に変更したことで、これまでヤマハのアイアンで評価の高かった、軟鉄の打感や打音といった部分が失われるのではないだろうか。

「ポケットキャビティ、そしてフェースの薄肉化によって、インパクトでの弾き感が増すことは予測していました。我々開発スタッフも、打感と打音はアイアンにとって重要な機能だと考えています。そこで、樹脂とアルミの二層構造のキャビティバッチを搭載しました。このバッチが振動を吸収して打感を向上します」

画像: ヤマハのクラブの特長でもある打感や打音はそのままにRMX120アイアンを完成させた

ヤマハのクラブの特長でもある打感や打音はそのままにRMX120アイアンを完成させた

実際に打ってみると、軟らかく喰いつきの良い打感で、打音もヤマハらしい、ソリッドで高音の心地良い音だ。弾く感じよりも、フェースにボールが乗る感触があるので、中上級者が求めるであろう、弾道をコントロールする感覚が出しやすい。そして、インパクトでの爽快感も十分だ。

こうして生まれ変わった「RMX 120」アイアンは、実際のところ、どれだけの性能向上があるのだろうか。

「まず慣性モーメントに関してですが、同等のヘッドサイズであれば、もう限界に近いのではないかと言えるほど大きくなっています。慣性モーメントは、ヘッドが大きければ数値も向上しますが、想定ユーザーである、アスリート感のある中上級者は、大ぶりのヘッドサイズを好みません。彼らが好む、やや小ぶりのシャープなサイズでありながら、激飛び系アイアンを超えるほど、打点のブレへの強さがあります」

画像: 小ぶりでシャープなサイズでありながら打点のブレにも強いRMX120アイアンが完成した

小ぶりでシャープなサイズでありながら打点のブレにも強いRMX120アイアンが完成した

「バックスピン量にもこだわっています。反発係数の高いアイアンは初速が高く、さらにスピンが減るため、結果として飛距離は大きくなります。競技志向のゴルファーなら、弾道をコントロールし、グリーンにしっかり止めるためにも、飛距離が伸びるとはいえ、スピン量が減ることは受け入れ難いと思います。『RMX120』は中上級者が満足できるスピン量となるよう反発係数をコントロールし、重心設計と相まってRMX118とほぼ同等のスピン量を確保しています。まさに、良いとこどりで、絶妙のバランスになったと自負しています」

試打では、軟鉄鍛造のマッスルバックに対して飛距離で6〜7ヤードアップしながら、スピン量はほとんど変わらないというデータが得られている。顔は従来のイメージ通り。打感は樹脂とアルミの二重構造バッチで良く仕上がっている。なにも失うことがなく、高い性能だけを得ているのだ。

「ほぼすべてにおいて、RMX120が優れている」

実は、今年から新たにヤマハの契約プロとなった永井花奈が、クラブ契約の決め手になったのが、この「RMX 120」のプロトタイプを試打したことだった。女子選手が使うには、ややハードな番手と言える5番や6番もこのアイアンなら、やさしく打てるという。

画像: フェースの反発が高いことで初速が出るため、ボールの最高到達点が高くなる。結果的に、長い番手にやさしさが加わることとなった

フェースの反発が高いことで初速が出るため、ボールの最高到達点が高くなる。結果的に、長い番手にやさしさが加わることとなった

「4番から6番の長い番手は、ボールを上げやすく、ショートアイアンではミスへの寛容性がより向上するように設計しています。プロやアマチュアテスターからも、長い番手の打ちやすさには、特に評価をいただいています」

その言葉を裏付けるように、アイアンには極めて強いこだわりを持つ契約プロ、藤田寛之はシーズン終盤になってRMX120の5番をバッグに入れた。この時期の投入は、よほど性能に惚れ込まない限りありえない。

画像: 開発チームの努力を結晶でもあるRMX120アイアン。大きな決断の裏にはこんな物語が隠されていた

開発チームの努力を結晶でもあるRMX120アイアン。大きな決断の裏にはこんな物語が隠されていた

「ゴルファーはあるレベルに達すると、ただ飛べばいいというアイアンでは満足できません。アイアンは、スコアを作るクラブですから、飛距離以外にも操作性、寛容性、打感など多くの要求があるものです。『RMX 120』なら、ミスしても曲がり幅が小さい分、グリーンオンする、手前のバンカーや池に入っていたような当たり損ないが、ピンの近くまで届くこともあるでしょう。ミスに強く、飛距離も出せて、グリーンに止められるので、上達志向のゴルファーがスコアを出すには、強い味方になるアイアンです」

画像: RMX120アイアンは軟鉄鍛造神話を覆す先駆けとなるのだろうか

RMX120アイアンは軟鉄鍛造神話を覆す先駆けとなるのだろうか

ヤマハの関係者に「それほどまでに『RMX120』がいいのなら、軟鉄鍛造の『RMX020』を選ぶ理由はなんですか?」とぶつけると、返ってきた答えはこうだった。

「球を抑える、という一点においては軟鉄鍛造アイアンである『RMX020』に軍配があがります。しかし、球の高さ、飛距離、スピン量といったパフォーマンスに関しては……すべて同等か、『RMX120』が優れています」

素材を変更するという大胆な決断を行ったことで、性能が大きく向上したヤマハ「RMX 120」。多くのゴルファーが信奉する軟鉄鍛造がいいという神話を覆すのは、このアイアンかもしれない。

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