今年多くの女子ツアー会場に足を運び、取材したプロゴルファー・中村修。後半は渋野日向子に密着した中村は、渋野日向子のブレークの予感は前半戦にあったという。まだ渋野日向子の名前が一部でしか知られていなかった頃の話を振り返る!

初対面の印象は「ポテンシャルの高さと課題の多さ」

2019年女子ツアーの中心となった渋野日向子選手。ですが、開幕戦に彼女は出場できませんでした。今年がルーキーイヤーだった彼女は、出場優先度を示す「QTランク」40位。その順位では、開幕戦の出場権を得られなかったのです。

渋野選手の2019年シーズン初参戦は2戦目の「ヨコハマタイヤゴルフトーナメント PRGRレディスカップ」でした。その試合でいきなり6位タイに入る活躍を見せるのですが、この試合で優勝したのがのちに賞金女王を最後まで争うことになる鈴木愛選手。しかも、二人は最終日に同組でプレーしています。さらには、同じ6位タイにはこれまた賞金女王を争ったシン・ジエ選手の名前が。なんとも不思議な“縁”を感じます。

さて、私が渋野選手に初めて取材したのは、そんな「PRGRレディス」での活躍に興味を引かれたからでした。翌週「Tポイント×ENEOS ゴルフトーナメント 」の練習場で、どこで練習しようかと隅っこのほうを探していた渋野選手の姿は、もしかしたらこの先ずっと忘れられないかもしれません(笑)。

画像: 渋野にとっての初戦だったPRGRレディスでは6位タイに入りポテンシャルの高さを見せつけた(撮影/大澤進二)

渋野にとっての初戦だったPRGRレディスでは6位タイに入りポテンシャルの高さを見せつけた(撮影/大澤進二)

そのときの率直な印象は、ポテンシャルの高さと課題の多さ、両方を感じるというものでした。春先でアプローチ練習場の芝はペタペタの状態。青木翔コーチに「どうやって打てばいいのかわかりません!」なんて言っていましたからね。

その後、2週続けて予選落ちを喫した渋野選手ですが、難コース・葛城GCでの「ヤマハレディースオープン葛城」で予選を通過したことで自信をつけ、浮上のきっかけにします。

翌週の、「KKT杯バンテリンレディスオープン」では初日81と大叩きを喫して最下位に沈むも、2日目66と爆発。予選を通過して、終わってみれば20位タイまで順位を伸ばしてみせます。まだまだ地味な存在でしたが、“しぶこ”らしさは既に発揮されていました。

フジサンケイレディスでの、シン・ジエ、鈴木愛との優勝争いから多くを学んだ

そして、翌週のフジサンケイレディスクラシックでは優勝争いに加わります。渋野選手は17番でダボを打ち、それでも最終日を67でホールアウト。優勝したシン・ジエ選手とは2打差の2位タイでフィニッシュします。同じ2位タイに鈴木愛選手と、のちに賞金女王を争う3人での優勝争いとなりました。

画像: 優勝争いに加わったフジサンケイ。最終日にこの笑顔(撮影/大澤進二)

優勝争いに加わったフジサンケイ。最終日にこの笑顔(撮影/大澤進二)

日本ツアーを代表する実力者ふたりと最後までわからない戦いを繰り広げたことで、優勝争いをする際の心構え、戦い方、技術を学び、吸収することができたのは非常に大きい経験だったと思います。17番でダボを打ったこと、それも大きな糧となったはず。そして渋野選手は、この2試合後に初優勝を手にすることになるのです。

「PRGRレディス」から初優勝した「ワールドレディスチャンピオンシップ サロンパスカップ 」まで、わずか2カ月弱。とてつもないスピードで、渋野選手は成長していったことが今、振り返るとよくわかります。

「できないことはやらない」「最終日でもピンを狙う」というルールを守った

その背景には、「できないことはやらない」「最終日でもピンをしっかり狙う」という、チーム渋野の決めごと・約束を、渋野選手自身がしっかりと実践できるようになったということが非常に大きいと思っています。予選落ちした試合では安全に行ってしまったり、攻めきれなかったこともありましたが、最終日でもピンを攻めるというチームの決めごとを守り、彼女自身の言葉でいうところの「チキらない(ビビらない、といった意味)」で実行する。

画像: ニチレイレディス2日目は鈴木愛と同組。日本の女子ゴルフ界を盛り上げていく二人の姿がここにあった(撮影/大澤進二)

ニチレイレディス2日目は鈴木愛と同組。日本の女子ゴルフ界を盛り上げていく二人の姿がここにあった(撮影/大澤進二)

私はあれもできない、これもできない。トップレベルで戦っていれば、そう思わない日はなかったはずです。でも、チーム渋野はできないことには目を向けず、できることだけで戦うという選択肢を選びました。それが、渋野選手を大きく成長させたのです。コーチの指示を信じて守った、たぐいまれな“素直さ”、それも、渋野選手の重要な資質のひとつでしょう。

初優勝、2勝目、そして全英制覇……その後の“しぶこフィーバー”はみなさんご存知の通り。ただ、こうして1年間を振り返ってみると、私には初優勝をつかむまでのわずかな期間、急激に成長していった渋野選手の姿が、思い出されてなりません。2020年、彼女はさらに成長した姿を見せてくれるはず。今年もじっくり取材して、さらに大きく成長していくに違いない渋野選手の姿をお伝えしたいと思います。

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