アイアンのラインナップは、古くから基本性能を変えていないマッスルバック、コンパクトで複合素材を使ったモデル、飛距離性能を求めたモデル、その中間を埋めるモデルなど多品種に渡り選択肢を広げている。ギアの進化の受け入れ方をギアライター高梨祥明が考察した。

ゴルフクラブとしては非常に珍しいが、性能を大きく変えてはいけないクラブがある

昨今、クラブメーカー各社のアイアンラインナップは増加の一途を辿っている。伝統的なブレードアイアンから強烈にロフトの立った飛距離重視のものまで、1ブランドで最低4モデル、多いブランドになると6〜7モデルの選択肢から“最適”が選べるという「幸せな時代」だ。

アイアンがドライバーと違うところは、クラシカルモデルがいまだに現役で、新製品が発売され続けているところだ。1900年代から脈々と続くマッスルバックアイアン(以下MB)の系譜は、2021年になっても途絶えてはいない。これが多品種となる理由。パーシモンドライバーがいまだに発売されているようなものなのだ。

画像: アイアンのラインナップはコンパクトなマッスルバックから複合素材を採用し飛距離を求めたモデルまで多岐にわたる(写真/三木崇徳)

アイアンのラインナップはコンパクトなマッスルバックから複合素材を採用し飛距離を求めたモデルまで多岐にわたる(写真/三木崇徳)

よく今のMBと昔のMBはどこが進化しているの? という話題になるが、基本的に最新MBは昔のMBと大きく変わらない。なぜなら、世の中にはMBに対して“もうこれでいいよ。不足なし”と思っているゴルファーがおり、その変えて欲しくない人のためにMBアイアンは存在しているからだ。最新モデルは出るが、その実はなるべく性能を変えないように気を配りながら開発されている。とても珍しいゴルフクラブカテゴリーがMBアイアンなのだ。

【MBアイアンの変えてはいけない性能】
・コンパクトヘッド。シャープなアドレスルック
・ノーマルロフトによる適切なバックスピン量
・芯を外した時の打感・弾道に差があること

一般的にアイアンの進化といわれる要素(曲がりにくさや想像以上の飛び)は、MBアイアンユーザーにとっては余計なお世話でしかない。曲げようと思ったのに曲がらない、ぴったりだと思ったのにちょっと飛んでしまった…、そんな「難しいアイアンは要らない」というわけだ。

最新MBアイアンにとっての進化は、プレーヤーの打点傾向に合わせた重心位置の調整(昔よりも重心距離がわずかに長くフェースセンターよりになっている傾向)と、スウィングタイプに合わせたソール形状の変更(昔よりもキャンバー/丸みが強めでバウンス効果が強くなっている傾向)だ。

そして、精密鍛造製法の確立で人の手による研磨量が減り、均一な製品が出来やすくなったこともMBアイアンの進化といえる。

MBの見た目でMBではない性能。ニューブレードアイアン生まれる理由は?

芯を外した時にボールが曲がったり、飛距離が落ちたりするMBアイアンのことを“難しい”と思うことは、普通である。MBアイアンを好むトッププレーヤーでも、ミドルアイアン、ショートアイアンについては「何も変えて欲しくない」と思っているだろうが、ロングアイアンとなると話は別になる。やはりもう少しボールを上げやすく、ミスに対して寛容になってほしい、そう思ったりするものなのだ。そうしたニーズは低スピン傾向が顕著な現代のゴルフボールに対応するためでもある。

ボールが上がりやすく、打点ズレに対しての寛容性も少しだけアップしたロングアイアンとするために存在しているのが、ヘッドサイズはMBアイアンと変わらないキャビティバック(以下CB)や異素材複合ハイテクモデル、あるいは中空モデルなどだ。

PGAツアーでナンバーワンアイアンブランドとなっているタイトリストを例にすると、620CBやT100/T100・Sアイアンがこれに該当する。とくにT100シリーズはタングステンを内部配置したり、ボディとは違う高強度のフェース素材を採用するなど、非常に複雑でコストのかかる複合製法で作られているが、これも伝統形状である620MBと同じ形、大きさで、ロングアイアンでの最適な打ち出し角度とスピンを実現するのが目的だからだ。

620MBと同じ形、大きさであるからこそ、基本はMBユーザーであるプレーヤーも、ロングアイアンだけを違和感なくT100アイアンにすることができる。例えばジャスティン・トーマスも4番だけがT100、5番〜9番は620MBだ。MBの見た目でCBのような性能。ニューブレードアイアンがもたらしたものは、複数モデルを組み合わせる「コンビネーションスタイル」の確立である。

ウェッジがそうであるようにターゲット近くにボールを止めるためにはバックスピンは必要不可欠だ。だからこそスピンコントロールに優れたMBアイアンをトッププレーヤーほど使いたがるし、クラブメーカーもMBを廃番にすることはできない。ところが現在はゴルフボールの低スピン傾向が強まり、PGAプレーヤーでもロングアイアンで高さを出すことが難しくなってきた。その対応策として、コンパクトな見た目でハイテク構造のニューブレードアイアンが必要とされているのである。

この傾向はタイトリストだけのものではない。PINGでもこのほど「i59」というニューモデルを発表したが、これも既存の「BLUE PRINT」と変わらない大きさ・形状で、許容性のアップを狙った新しい構造のブレードモデルである。

画像: ピン「i59アイアン」もコンパクトかつ寛容性のあるモデルだ

ピン「i59アイアン」もコンパクトかつ寛容性のあるモデルだ

芯を外せば球筋が変わるのがMBアイアンの存在価値だとすると、許容性を高めたニューブレードアイアンは、少し“邪道”のように感じるかもしれないが、この場合の許容性とはアマチュア向けアイアンのようなミスをミスでなくするようなものではないと考える。ボールの変化によって出しにくくなった、ロングアイアン本来の飛距離を得るために、打ち出し角とスピンを整えるための新構造をもったアイアン。そう理解すべきだろうと思う。

その観点から個人的には「BLUE PRINT」を基本にしつつ、難しさが出てくる5番から上を「i59」にしたらいいかも、という印象を抱いた。

新しいアイアンが出ると、どうしても“セット”として丸ごと入れ替えることを考えてしまうが、実際はPGAプロのように変える必要のない番手(ミドル〜ショート)はそのままで、変化を望む番手だけを違うモデルにコンビネーションするのが賢い「選択肢の活かし方」であると思う。

それをするためにはアイアンの単品販売がもっとポピュラーにならなければいけないが、同時にゴルファー側の意識改革も必要だろうと思う。手始めに愛用アイアンで何番アイアンから不足・不満を感じるか、改めて考えてみることをオススメしたい。その番手を補うのは別のアイアンモデルか、あるいはUTやショートウッドなのか? アイアンを丸ごと変えることだけが解決策ではないはずである。

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