女子ツアーで歴代6位となる通算41勝を誇り、JLPGAの永久シード選手でもある森口祐子(本名:関谷祐子)が、バンテリン東海クラシックに出場した長男のキャディを務めたとの情報をつかんだ取材班。永久シード選手は一体どんなアドバイスを送ったのか。森口本人に直接話を聞いてみた。

目標はあえて抑えめに。「前半で3つパーを獲ろう」

森口の長男・関谷健夫さんは愛知学院大学付属病院に勤務する歯科医師で、現在は大学で講師を務めているが、アマチュア競技の「東海マスターズゴルフ」で優勝した資格で、男子ツアー「バンテリン東海クラシック」に出場を決めた。

森口の夫・関谷均さんもトップアマで、森口は若いころに均さんが出場した中日クラウンズでもキャディをした経験がある。父親と同じように「プロのツアーに人生で一回でもいいから出たかった」という健夫さんがつかんだ夢の舞台で、森口はどんなアドバイスを送ったのか。

画像: JLPGAの永久シード選手でもある森口祐子。どんなアドバイスを送るのか?

JLPGAの永久シード選手でもある森口祐子。どんなアドバイスを送るのか?

「まずはスタート前に具体的な目標を設定しました。コースの仕上がりとしては、グリーンの硬さとスピードやラフの長さなどかなりハードな設定になっているので、アマチュアなら70台で回れたら御の字。そこで、『まず前半は、3つパーを取ることを心掛けよう』という目標を立てました」(森口祐子:以下同)

70台を目指すならハーフで少なくとも5つはパーが欲しいところだが、森口は敢えてかなり抑え目に目標を設定し、健夫さんの気持ちの高ぶりと緊張を抑える意図があったとのこと。果たして、出だしは森口の思惑以上に上手く運んだ。

「インスタートで10番から15番まで6ホール連続でパーが続いたんですよ。息子は『今日の予定のパーをもう取っちゃったよ』などと言っていましたが、そこは三好はやっぱり16番からなんだなと、改めて思いしらされました」

三好カントリー倶楽部の名物ホール・16番はどう攻める?

男子ツアーでプロ達に、ツアーで最も難しいパー3ホールはどこかと聞くと、「三好の16番」という答えがもっとも多く返ってくる。プロも苦しむこの195ヤードのパー3ホールは、グリーンが縦長で、縦は37ヤードあるが、横幅は最も狭い所で9ヤードしかない。しかも、左サイドは崖になっていて、斜面に生える大きな木が邪魔をして、左に外すとボギーで上がるのも難しい。最難関の16番を切り抜ける作戦を森口はこう話す。

画像: 三好カントリー倶楽部西コース・16番ホールのグリーン。左に外すとボギーで上がるのも難しい。※写真は2016年「トップ杯東海クラシック」の際のもの

三好カントリー倶楽部西コース・16番ホールのグリーン。左に外すとボギーで上がるのも難しい。※写真は2016年「トップ杯東海クラシック」の際のもの

「初日はピンの位置が手前だったこともあり、狙いは右手前の3畳ほどのスペースに逃げていくしかない、ここはボギーでいいよと言いました。息子は三好のメンバーで、このホールの攻め方はよく分っており、意見は一致しました。このホールは絶対に左の崖下に落としてはいけないなので、右のバンカーに入れるという攻め方もあるのですが、その場合も入れ方があるんです。例えば、ピンの真横に入れてしまうと、グリーンの幅が10ヤードほどしかないので、左の崖に向かってバンカーショットを打たなければならず、プレッシャーが凄いんです。ですから、バンカーを狙う時には、ピンに対して手前とか奥めに入れて、次のバンカーショットの距離が残るようにして斜めに打って行くようにしないといけないんです」

健夫さんはこのホール、想定内のボギーで切り抜けたが、次の17番ミドルホールはセカンドショットをバンカーに入れてしまい、再び「ボギー」としてしまった。そのショットを悔やむ健夫さんは18番もダブルボギーとスコアを崩し、初日の前半のハーフは「40」で折り返した。

自身がプレーヤーであるからこそ、声掛けは淡白に。

ミスショットを悔やむ健夫さんに対して、森口は「しょうがない」と何とも淡白な声掛けをし、次のホールに向かった。健夫さんによると、自分のプレーをもっとも楽にしてくれたのが、この「しょうがない」という言葉だったという。

「プレーヤーとして私も、幾度となく口惜しい思いをしてきていますから、彼の気持ちは良く分かる。でもゴルフって口惜しい思いはそこで断ち切って、新しい気持ちで次のホールに臨むことを求められるわけですよね。でもそれってなかなかできない。それもゴルフだということを私は身に染みて分かっているわけですよ。そういうときに息子は、私から『これはしょうがないね』、『次行こう!』と声かけをされたことで、気持ちを引きずらずにプレーができたと言っていましたね」

ゴルファーの心情をよく知るがゆえの「しょうがない」の短い声かけによって、気持ちを断ち切ってやり、次のホールに気持ちを向かわせたのである。

画像: 今から43年前の1978年、ワールドレディスゴルフトーナメントで初優勝を決めたときの森口。40年後に息子のキャディをするとはおそらく本人も想像だにしなかっただろう

今から43年前の1978年、ワールドレディスゴルフトーナメントで初優勝を決めたときの森口。40年後に息子のキャディをするとはおそらく本人も想像だにしなかっただろう

迎えた2日目は、強い風との戦いとなった。森口は言う。

「昔、風の強い日にあるプロから、風の中でのショットは『空域に壁を作るんです』と言われたことがあるんです。その壁にぶつけて行く感じでショットを打つとイメージが出るというわけです。壁に当てる角度などによって、ボールの勢いがなくなって落下する球がどこに落ちるかある程度分りますよね。でもこれは不完全で、そこにグリーン面が介在してこないといけないわけです。つまり、ピン位置に対してどこにつけるかということですよね。簡単に言えば、ピンの上・下・左・右のどこに落とすかということですが、これは落ちたあとの傾斜を考えて決めるわけです。たとえば、ピンを中心にして『時計』をイメージして、上なら12時、下なら6時、右なら3時、左なら9時。更に細かくすれば、右下なら4時とか5時にボールを落下させるには、『空域の壁』に対してどうやってボールを打っていけばいいのかを考えるわけです。これはプロは感覚的にみんなやっていることですけれど、言葉で表すと『空域の壁』とグリーン上の『時計』のイメージを上手くマッチさせて計算をする、みたいな感じでしょうか。この辺りの風を含めた総合的なマネジメントに関しては良いアドバイスができたんじゃないかと思います」

健夫さんは、残念ながら目標の70台で回ることはできなかったが、初日・二日目、ともに80という、ツアー仕様のハードな設定の中では健闘ともいえるスコアで回ることができた。最後に森口にキャディをしてみた感想を聞いてみた。

画像: 出場者たちとの記念写真を撮る森口。右から2番目のブルーのズボンの男性が息子の健夫さん(写真提供/森口健夫)

出場者たちとの記念写真を撮る森口。右から2番目のブルーのズボンの男性が息子の健夫さん(写真提供/森口健夫)

「今回はカートをお借りしてのキャディだったのですが、場所によってはカートで入って行けなかったりして、クラブを受け渡しのタイミングが本当に忙しく、キャディさんは大変だなと再認識しました。ただ、ホールアウト後、塩見好輝プロに『プレーが早いですね』と言ってもらえたのは、プレーファーストを言われる今のプロの試合で、良かったなと思います。キャディの私は走りまくりでしたけど(笑)」

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