福岡県ゴルフ連盟南部支配人会が参加費無料の新規ゴルファー創出プログラム「福岡ゴルフアカデミー」を開催した。矢野経済研究所でゴルフ産業白書を手掛ける三石茂樹の現地取材したレポートをお届け。

新規ゴルファー創出プログラムをゴルフ場が率先して開催

「三石くん、九州で何かやりようと?」

懐かしい方からのメールが届いたのは、確か6月下旬だった。メールの送信主は、福岡県にある伊都ゴルフクラブの筒井副支配人。以前は博多大丸でゴルフ用品のバイヤーを務めており、私も市況取材で何かとお世話になった間柄だった。

私が(公社)日本プロゴルフ協会(PGA)様、(一社)日本ゴルフ場経営者協会(NGK)様、(一社)全日本ゴルフ練習場連盟(JGRA)様と共同で組織している「PGA経営戦略委員会」で推進している「オール九州プロジェクト」の活動を聞きつけてメールしてみた、とのことだった。ちなみに「オール九州プロジェクト」とは、九州福岡地区のゴルフ練習場とゴルフ場、ゴルフショップによって組織された、新規ゴルファー創出・育成をミッションとした組織である。

画像: 会場となった志摩シーサイドカンツリークラブ

会場となった志摩シーサイドカンツリークラブ

筒井さんによると、24のコースにて組織されている福岡県ゴルフ連盟南部支配人会でもゴルフ産業活性化を実現に向けた議論が行われており、その具体的戦略として「福岡ゴルフアカデミー」を開催する、とのことであった。その「福岡ゴルフアカデミー」の内容は以下の通り。

・対象者は女性のみ。20名限定
・参加資格は「ゴルフコースでプレーをしたことがない人」
・10月2日(土)、9日(土)、16日(土)の12:30~17:00、座学及び実践による「ゴルフ教室」を開催する
・参加費は無料
・講師及びレッスンは南部支配人会の支配人が担当する
・受講者には「福岡ゴルフアカデミー」のロゴが入ったゴルフボール2スリーブ(ブリヂストンスポーツ、ダンロップスポーツ協賛)、ロゴ入りタオル、7番アイアン1本がプレゼントされる
・3回目の講義終了後、受講者に対して「福岡ゴルフアカデミー受講証明書(カード)」が授与される。受講者は一年間、南部支配人加盟24コースにおいてメンバーフィープラス1,000円(但し土日祝日はプラス3,000円)でプレーすることができる。またアカデミーに加盟しているゴルフショップ(九州地区ゴルフ5、二木ゴルフ、つるやゴルフ、モリタゴルフなど)及びゴルフ練習場でも、それぞれの施設が実施するサービスを受けることができる、

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、若年齢層を中心とした新規ゴルファー増加が指摘されて久しいが、最近になってその「課題」が顕在化してきているように感じていた。その一例がルールやマナー、エチケットを(決して悪意はないけれど)知らないそれらのゴルファーがゴルフ場に来場することによる「プレー遅延問題」を主体とした諸問題である。図らずも業界にとって長年の課題であった「新規ゴルファー創出」がコロナによって現実のものとなった今、業界にとっての新たな課題は「それら新規ゴルファーを如何にして“グッドゴルファー”として育成するか」に移っていると言えるが、その役割を(ゴルフ場、ゴルフ練習場、ゴルフショップ、ゴルフメディア、またはそれ以外のゴルフ産業従事者の)「誰が担うか」については明確になっているとは言い難いのが実情である。

画像: 「福岡ゴルフアカデミー」発起人の宮川支配人

「福岡ゴルフアカデミー」発起人の宮川支配人

多少厳しい物言いにはなるが、その役割はそれぞれの産業従事者が「それは我々の役目ではないですよ」と言いながら「ボールを投げ合っている」ような状況と言っても過言ではない。そのような状況が続いていた中で飛び込んでいた「ゴルフ場発信型」の新規ゴルファー創出のプログラムに対し、暗闇の中の一筋の光を見たような気持になった私は、10月に開催される第一回目のプログラムを実際にこの目で見るために、会場の福岡県「志摩シーサイドカンツリークラブ」に向かった。

印象的だった支配人たちの楽しそうな姿

第一回目の講義は10月2日の土曜日。余談だが、会場となった志摩シーサイドカンツリークラブは県内でも非常に人気の高いコースであり、ハイシーズンでもある10月となるとなかなか予約を取るのが難しいらしい。そんな「秋のゴルフシーズン」の忙しい時期にこのようなイベントを3回も開催するあたりに、本企画の「本気度」が伺える。そのあたりについてアカデミー発起人である宮川周三支配人に話を振ったところ「今回のアカデミー開催に向けては支配人会の中でも様々な意見があった。中には“忙しい時期なので”無理”。来場者の少ない閑散期に開催してはどうか”という意見もあったが、ゴルフシーズンに未経験者にゴルフ場を体験してもらうことこそが、ゴルフ継続意欲向上には重要である、という説得を行い協力してもらった」とのことであった。「メンバーシップ」を理由に新規ゴルファーの創出に積極的なゴルフ場が少ない中、宮川支配人のこの言葉には深い感銘を覚えた。

画像: 第一日目の講習会場。全員初対面なので心なしか皆さん緊張気味?

第一日目の講習会場。全員初対面なので心なしか皆さん緊張気味?

第一日目の講義は座学から。ゴルフの歴史、ルールやマナーの基本についてひと通り講義を受けた後に実技として練習場でのアイアンを使ったレッスンと、練習グリーンでのパッティング体験とに分かれて実際にボールを打つ体験を。中には「コースに行ったことはないけれど練習場には何回か行ったことがある」という参加者もいたが、中にはゴルフクラブを初めて握る、という参加者もおり最初はなかなかうまくボールに当たらなかったものの、「先生」としてレッスンを行った各ゴルフ場の支配人のレクチャーもあり、徐々に前にボールが飛ぶようになってきたのはさすが。

画像: 練習場ではアイアン中心の実技講習

練習場ではアイアン中心の実技講習

ひと通り実技講習が行われた後、各自カートに乗って(そのカートが色違いで実にオシャレで「映える」デザイン)実際のコースを見学。講義(座学)ではOBに関する講習もあったが、印象的だったのは実際のコースに設置されているOB杭を指して、講師が「これが実際のOB杭です」と説明した際に受講生が皆「おお~!」という感嘆の声を上げたこと。ゴルフ場にすっかり「慣れている」身としてはゴルフ場にOB杭があることは「当たり前」の光景なのだけれど、ゴルフ場未経験者にとっては(ゴルファーにとっては憎き存在である)OB杭ですら新鮮に映るのだなあ、ということを実感した。「初心者、未経験者の視点に立って産業活性化を考える」ことの重要性を学んだような気持になった。

画像: 「映える」志摩シーサイドの乗用カート。カートに乗ることも初めての受講者にとってはそれだけでも「非日常」

「映える」志摩シーサイドの乗用カート。カートに乗ることも初めての受講者にとってはそれだけでも「非日常」

一日目の講義の締め括りは、海沿いのホールでの記念撮影。受講者の皆さんの楽しそうな笑顔はもちろん、個人的には講師を務めた各ゴルフ場の支配人の皆さんの楽しそうな、嬉しそうな笑顔がとても印象的だった。初めてコースに足を踏み入れた受講生の皆さんは口々に「こんなところでボール打てたら最高」「早くコースを回れるようになりたい!」と言っていた。こんなロケーションを体験すればそのような気持ちになるのも納得だが、日本のゴルフは「先ず練習場で修業を積んでからコースデビュー」というのがある種の不文律になっている。私自身も社会人になってゴルフを始めた際に当時の上司から「まずは3ヶ月練習場で球を打って、まともに球が前に飛ぶようになったらコースデビューを認めてやる」と言われたものである。

画像: すぐ横が海のホールで講師含めて記念撮影

すぐ横が海のホールで講師含めて記念撮影

今考えてみると「何であなたにそんなことを決められなければならないんだ」という気もするが、恐らくそれがバブル期の「文化」だったのだと思う。そして上司の言いつけ通りに暫く練習場に通い、数か月後に晴れてゴルフデビューを果たした訳だが、その時の思い出は「苦」のひと言に尽きる。ただでさえ緊張しているのに、上司から「クラブを3本持って走れ」「走るな(グリーン上は)」などと言われ、スコアを数えるどころかゴルフ場の景色など全く以て見る余裕もなかったのを覚えている(正直それで暫くはゴルフをするのが嫌で嫌で仕方なかったが、ゴルフ用品のメーカー勤務としてはやらない訳にはいかなかった)。

そうした「修行」を経てコースデビューした私のような人間と比べると、ゴルフ場未体験の人に最初にゴルフ場に連れて行って「雄大な景色」や「実際の芝の上からのスイング」「ゴルフ場の施設」を体験させるのは「ゴルフをやってみたい」「ゴルフを始めてみたい」というモチベーション醸成にはとても理に適っていると感じた。講義開始の時にはどことなく緊張気味だった受講生たちも、講義終了時にはすっかり打ち解けていて参加者同士でSNSの交換を行っている姿も印象的だった。

最終講義はあいにくの天気も、全員に無事修了証を授与

第二回目となる10月9日の講義は残念ながら仕事の都合で取材できなかったが、最終となる第三回目の講義(10月16日)は何としても訪れたかったので仕事のスケジュールをやり繰りして再び志摩シーサイドへ。受講生の「進化」の度合いをこの目で確かめたかった。

講義開始の12:30に教室に入ると、受講生同士が皆すっかり仲良しになっていた。「20名限定」「ゴルフ場未経験」というある種の「縛り」が受講者同士の絆を深めたのだろうか。皆さん第一回目の講義の時よりも表情豊かで、すっかり「ゴルファー」の顔になっていたような気がする。ただ最終日はあいにくの雨模様で海からの風も強く、予定していたカリキュラムを全て実行することはできなかった。でも、晴れの日もあれば雨の日や風の日があるのもゴルフ。プラス思考で考えれば、そうした天気で1ホール限定とはいえラウンド体験ができたのも彼女たちの今後のゴルフライフにとってはプラスになるではないかと思った。

画像: とても立派な一年間有効のアカデミー修了証

とても立派な一年間有効のアカデミー修了証

すべてのカリキュラム終了後、受講者一人一人にアカデミーの「修了証」と記念のタオル、協賛企業からのプレゼントが渡された。

当然と言えば当然なのかもしれないが、宮川支配人の「この先ゴルフを始めてみよう、続けてみようと思うか?」という質問に対し全員が「今後ゴルフを続けていきたい」という回答をした。今後の受講者たちのゴルフライフがどのようになってゆくのか、受講者を「核」として周りの友人たちにも新しいゴルファーが生まれてゆくのか、個人的には追いかけ取材をしてみたいところだが、今回の取材を通して痛感したのは、ゴルフ場が「本気」になって新規ゴルファー創出の具体的な戦術を実行した際の「破壊力」の強さ。その実態はどうであれ、多くが「メンバーシップ」を掲げる日本のゴルフ場産業において、ゴルフ場は「それなりにゴルフができる人」が訪れる場所であり、ゴルフ場が「ゴルファー創出」のインフラとして有効に機能しているとは言い難いのが実情だった。

そもそも(ゴルフ場をゴルファー創出のインフラとして活用しようという)発想すらなかったのではないだろうか。弊社が過去に実施した調査では、新たにゴルフを始めた所謂「新規ゴルファー」のうち、「ゴルフ場経験をせずに練習場止まりのゴルファー」と「ゴルフ場を経験したゴルファー」とではゴルフの継続率に大きな差が生じるという結果を得たことが何度かある。決して一概には言えない面があるものの「ゴルフ場という“非日常の世界”を体験すると、ゴルフ継続に対するモチベーションが向上する」ということがそれら調査からも明らかになっている。もちろん国内すべてのゴルフ場がそうなる必要はないと思うが、新型コロナウイルス感染拡大により新規ゴルファー・休眠復活ゴルファーが増加している今、九州以外の地区においてもこうした活動が展開されるといいなぁ、それによって日本のゴルフ場にもっと「多様性」が生まれるといいなぁ、などという妄想を帰りの飛行機で繰り広げていた。

筒井さんからの後日談

今回の「福岡ゴルフアカデミー」の取材体験を「みんなのゴルフダイジェスト」にできる限り早く投稿しようと思ってはいたものの、その後も出張などが続いてなかなか筆が進まないでいた11月初旬、筒井さんから一通のメールが届いた。件名は「連名でお手紙を頂きました」。文章は以下の通りだった。

メディア各社様
御取引先各位
御世話になります

福岡ゴルフアカデミーの企画の講習、取材のときは、大変お世話になりました。ありがとうございました。全国のゴルフ業界全体に発信することができたと思います。企画後も宮川支配人にアカデミーの問い合わせが数件来ているそうです。

先日、志摩シーサイドCC宛に講習の生徒さん20名からお礼のお手紙を頂きました。
支配人会24人全員でお客様サービス視点で勉強会、講習に取り組んだことが伝わったんだなー!! って感慨深く成りました。

継続は力なりで、来春も含め、将来のゴルファーの創生につなげていきたいと思いますので、何卒ご支援のほどよろしくお願い致します。
そして、実際の手紙の画像も添付されていた。

画像: 受講者20名による連名の手書きのお礼状

受講者20名による連名の手書きのお礼状

私は今回の企画にお邪魔して取材をさせて頂いただけの人間で、実際の運営にはまったく関わっていないのだけれど、何だか自分までジーンと来てしまった。日本のゴルフ産業全体が長らく厳しい環境にある中において、言うまでもなく「利益(刈り取り)」は重要ではあるのだけれど、目先の「刈り取り」だけでは持続的な産業発展はやっぱり難しいということ、「種まき」「創出・育成」の精神が必要であること、そうした「心意気」を以て望めば遠回りかもしれないけれど、それは必ず相手に伝わるんだということを、この手紙を読んで改めて感じた。

「福岡ゴルフアカデミー」は今後も春、秋の年二回のスパンで継続的に実施する予定で、男性向けやジュニア向けのアカデミーも今後開催に向けて検討を行うとのこと。さらにはアカデミー受講者を対象としたゴルフコンペの開催など、「打ち上げ花火」で終わらせないためのイベントも実施予定とのこと。今後の同支配人会の動向に引き続き注目したい。

※なお上述した「オール九州プロジェクト」でも、独自のゴルフ未経験者を対象とした「ゴルフ場体験イベント」を今後展開予定である

写真提供/三石茂樹

画像: 【プロから学ぶ】パー3のティショットはこう打つのが正解です!宮田志乃プロが教える90切りマネジメント術 youtu.be

【プロから学ぶ】パー3のティショットはこう打つのが正解です!宮田志乃プロが教える90切りマネジメント術

youtu.be

This article is a sponsored article by
''.