20グラムというとてつもない重さのウェートが大きく動くことで使用者の球筋に決定的な変化をもたらすRMX VD59ドライバー、アイアンなのにチタンヘッドドライバー級の“慣性モーメント4000超え“を達成したRMX VD40アイアンと、とにかくキャラが濃いヤマハの「RMX VD」シリーズ。
そのラインナップにあって、プロからの評価が異様に高いクラブがある。それが、RMX VDフェアウェイウッドだ。なんと、谷口徹、有村智恵の両契約プロが一発打って即バッグに入れたというのだ。
「いや、契約プロなら当たり前でしょ」と思うなかれ。谷口徹といえば、長年同じフェアウェイウッドを使い続けたことがギア好きの間では知られる、とにかくフェアウェイウッドを替えないプロ。そんな谷口がたったの一発で替えたという事実は、はっきり言って衝撃的。誰が衝撃を受けたかって、ヤマハの担当者が誰よりも衝撃を受けているレベルだ。

ヤマハのニューフェアウェイウッド「RMX VD40」(写真は3番)
RMXのブランドディレクターで、かつては同社ツアー担当でもあった梶山駿吾氏は、その“衝撃“をこう振り返る。
「RMX VDドライバーのテストをシーズンオフに行ったのですが、そのときにフェアウェイウッドも打ってもらったんです。といっても、谷口さんはフェアウェイウッドを替えないプロ。あくまでついで、ご紹介程度に『スプーンだけ打ってもらえませんか』とお願いしたんです」(梶山氏)
そしてスプーンを手にした谷口は、構えた瞬間に「良い感じやね」とつぶやいた。プロは構えた顔がしっくりこないと替えることはありえないので、まずは第一関門突破。衝撃は、一発打った次の瞬間に訪れた。

谷口はRMX VDフェアウェイウッドを「全部がやりやすい」とベタ褒め
「谷口さんが無言になったんです。『え?』ってなったんだと思います。飛んでいましたし、計測上の初速もすごく出ていましたから。(替えるのは)本当に最初の一発で決まった感じでした。そのあと曲げてみたり球を押さえたりしても『全部がやりやすい』と。球を上げるのも距離を落として打つのも、なんでもしやすいのに叩いたらちゃんと飛ぶ、っていうのがすごい良かったみたいです」(梶山氏)
同じような経緯でこのフェアウェイウッドを採用したのが有村智恵。彼女も非常に繊細な感性を持ち、なかなかクラブを替えないプロの一人だが、梶山氏いわく有村がフェアウェイウッド、それも3番ウッドに求める要素はシンプルで「キャリー200ヤード」なのだそうだ。キャリー200ヤードを超えない3番ウッドを、有村智恵は使わない。
では、RMX VDフェアウェイウッドの試打結果はどうだったのか?
「有村プロには屋内の『鳥かご』打席で試打をしてもらったのですが、構えて打った瞬間に『えっ』ていう言葉が出たんです。鳥かごなのでほんの数ヤードしか弾道は追えませんが、それでわかるくらい初速が速かったみたいで。そのテスト一発目の数値が、キャリーで216ヤードだったんです」

RMX VDのテスト後、有村は自身のSNSで計測データを期間限定で公開。発表前ながら、思わずシェアしたくなるほど飛んだというわけだ
それを見た有村はこの3番ウッドを“一発採用“。梶山氏の長いプロ担当としてのキャリアを通じて、プロが一球打って「コレ使います」となったのは初めてだったそうだ。キャリー200が求めるレベルのところ、何度打っても210を下回らず、220に到達しそうな球まで出たというのだからそれも当然だろう。「持って帰って調整します」という梶山氏の申し出を断り、シャフトを入れ替えただけの状態のこのクラブを、有村は即“お持ち帰り“したというから、完全なる一目惚れだったのだろう。ゴルファーはときに、運命的にクラブと出会う。

有村は鳥かごで打った時点で一発採用。そのまますぐコースでも打ち、最終的にはプロトモデルを持ち帰るほどの気に入りっぷり
過酷なトレーニングに耐え、スウィングを磨き上げ……プロは勝負のためのわずかな違いを作り上げる。クラブを替えるだけで飛距離が10ヤードも20ヤードも伸びることなんて、本来ありえないことなのだ。
ともかく、そんな経緯で谷口・有村の両名のバッグにはRMX VDフェアウェイウッドが収まることとなった。ふだんはシャフトを筆頭に細かい調整が必須だという両者だが、その後も「なんの注文も来てません」(梶山氏)というほどのハマり具合。
谷口にいたってはツアーでこのフェアウェイウッドの営業部長状態になり、周囲の選手に「なぜこのフェアウェイウッドを使わないんだ?」というくらいの勢いで勧めまくっているらしく、実際それで採用を決めたプロもいるようだ。

谷口をして「なぜこのフェアウェイウッドを使わないんだ?」と言わしめるほどの出来に、RMX VDフェアウェイウッドは仕上がっている
もちろん全員が全員ハマるわけではないが、使わない理由が「飛びすぎちゃってキツいから」という人までいるというから面白い。ドライバーと同じくらい飛んでしまって逆に困るというわけだ。初めて聞く理由である。
以上、すべてウソのようなホントの話なのだが、気になるのはなんでこんな性能のフェアウェイウッドが誕生してしまったのか、という点だ。プロ担当からRMXブランドディレクターの顔に戻った梶山氏は言う。
「高い飛距離性能を実現するために、商売っ気をゼロにして作っているんです。ひたすら性能重視で、正直、このフェアウェイウッドに関してはあまり儲けは出ないんですよ。お金をかけすぎちゃっていて、その分値段も高めなのですが、正直全然割に合いません。それくらいの覚悟をもって飛距離性能を出しに行った結果だと思っています」(梶山氏)
うーん、すごい。儲けを犠牲にして性能を追求すると言う、飛距離に挑戦というより資本主義という仕組みに挑戦、といったほうがいいようなクラブというわけだ。その結果、谷口ならば250ヤード、有村なら200ヤードという“基準“をあっさりクリアする、おかしいくらい飛ぶ3番ウッドができあがってしまった。
その背景には、自社の契約プロたちが他社のフェアウェイウッドを使うという悔しい現実があったと梶山氏は言う。その現実を受け止め、他社製品の良さを認識した上で、それを超えるクラブを作り上げることを目指したヤマハの意地の結晶、それがRMX VDフェアウェイウッドなのだ。
プロの話ばかりになってしまったが、このフェアウェイウッドは“プロ専用モデル“ではまったくない。フェースに高い反発性能を持ったβチタン(ZAT158チタン偏肉フェース)、クラウンに軽量カーボン、ボディに6-4チタン、ソールに高比重合金を配したこのフェアウェイウッドの高反発・超低重心仕様の恩恵は、むしろアマチュアのほうが受け取れるといっていいくらいの扱いやすさも秘めている。それだけプロでもクラブにやさしさを求める時代になっているということも言えそうだ。

フェースの素材に反発性能の高いβチタンを用いることで飛距離性能を高めつつ、超低重心設計でやさしさも併せ持っている
冒頭に挙げたVD59ドライバーやVD40アイアンのようなド派手な特徴は正直ない。だが、クラブが発揮するパフォーマンスは今回のRMX VDのラインナップのなかでも最強の一角を構成するに足る。1本5万8,300円と価格はたしかにお高め。しかし、このフェアウェイウッドがドライバーと同じくらいに飛ぶのなら、この価格はむしろ安いくらいかもしれない。そのあたりの価値観は人それぞれ違うだろうが、断言できることがひとつある。
ここまでの話がホントかウソか、一度試打してたしかめてみるべきということだ。