日本のコース設計の名匠として知られる井上誠一。彼がコース設計家を目指すきっかけは、川奈でのチャールズ・アリソンとの出会いだった。

旧制高校時代に井上誠一は日本脳炎になり、脊髄を悪くしてしまった。「治療と運動には腰を使うゴルフがよい」といわれ、霞ヶ関CC会員で叔父の井上達四郎に連れられて川奈のゴルフ場に行ったことがゴルフの仕事をするきっかけとなった。当時川奈には大倉男爵により、大谷光明設計の大島コースがあり、コースには20部屋ほどのロッジがあって長期逗留することが可能だった。

1931年の初め、東京GC朝霞コースを設計することで来日していたチャールズ・アリソンが川奈を訪れたとき、大倉男爵は「大島コースと建設中の富士コースについて意見を聞かせてくれ」とアリソンに伝え、アリソンはいくつかのアドバイスをしたとされる。改造などについて明文化された資料は現存していないようだが、大島コースの14番ホール/117ヤード/パー3のグリーンをガードしているバンカーは富士コースのバンカーと同形状で、しかもかなり深くアリソンバンカーそのものだ。アリソンの提案によって改造されたと推測ができる。

建設中で6ホール完成されていたといわれる富士コースをつぶさに検分したアリソンは景観の素晴らしさに感嘆し、多くのアイデアを大倉男爵に伝えると、大倉はすぐさま大谷光明設計の富士コースをアリソンに依頼することになった。

病気静養中の井上青年が、アリソンの仕事ぶりを見て「これは面白そうだ、僕もやってみようと思った」と、ゴルフ設計との接点を語っている。その年の春、井上は霞ヶ関CCに入会を果たしている。川奈滞在中、アリソンは大島コースや、建設途中の富士コースを実際にプレーしたようで「アリソンさんがプレーをしたとき父がキャディをした」と井上誠一の長女が語っている。日本滞在中にプレーをしたのは茨木CCに赴いた時だけとされているだけに貴重な証言だといえる。目の前には大島コースがあり、6ホールほど完成した富士コースもあり、検分をしながらボールを打ったことは想像できるし、静養中にゴルフを始めアリソンの仕事に興味を抱いた井上青年が、キャディを志願したのは当然の成り行きだろう。しかも井上は英語が堪能だった。

画像: 井上誠一をコース設計家へと導いたのはアリソンとの出会いだった

井上誠一をコース設計家へと導いたのはアリソンとの出会いだった

霞ヶ関CCは、アリソンの提案により改造をすることになったが、叔父の井上達四郎は、シェーパーのジョージ・ペングレースの通訳兼助手として井上誠一を使ってくれと霞ヶ関CCの藤田欣哉に頼み込んでいる。井上は東コースの改造でペングレースの作業を観察し、コース設計、造成の知識を実践で学んでいった。しかもコースに隣接する場所に住居を構え霞ヶ関CCの常勤会員として西コースの設計、造成作業にも当たっている。

井上誠一がアリソンの弟子といわれるのは、このようないきさつがあったからだ。ちなみに、コース設計者としてのアリソンは平面図しか描いていない。その平面図に描かれている等高線を見て土を盛り、削り立体的にしていくのがシェーパーの仕事であり、シェーパーの腕前によって仕上がりはかなり異なってくる。正確にいえば、井上はシェーパーのジョージ・ペングレースから直接造成技術を学んだといえる。

画像: アリソンからコースの造成を学んだ井上は、名門といわれる多くのコース設計を手掛けた

アリソンからコースの造成を学んだ井上は、名門といわれる多くのコース設計を手掛けた

霞ヶ関CC東コースの改造、西コースの設計によってコース設計の基礎を得た井上誠一は、1933年(昭和8年)に藤田欣哉と共同で那須GCを設計することになり3年後の1936年に完成させている。実際には、藤田はそのころ健康にすぐれず井上誠一にすべてを任せたことから、井上誠一の設計第1号は那須GCだとされる。戦後間もない1948年(昭和23年)、米軍の依頼で沖縄に泡瀬メドウズGCを完成させ、その後大洗GC(1953年)、日光GC(1955年)、龍ヶ崎CC(1958年)など多くのコースを手掛けた。

アリソンからコースの造成を学んでコース設計家となったのは井上誠一だけではなかった。アリソンが設計した廣野GCを造成したとき伊藤長蔵の助手としてコース造成に参加したのが京都大学で造園を学んだ上田治だった。後日上田もコース設計家となり多くの作品を残している。

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