「ゴルフ科学者」ことブライソン・デシャンボーの「教科書」であり、50年以上も前に米国で発表された書物でありながら、現在でも多くのPGAプレイヤー、また指導者に絶大な影響を与え続ける「ザ・ゴルフィングマシーン」。その解釈に向かい続け、現在はレッスンも行う大庭可南太に、上達のために知っておくべき「原則に沿った考え方」や練習法を教えてもらおう。

みなさんこんにちは。「ザ・ゴルフィングマシーン」研究者およびインストラクターの大庭可南太です。早いものでこの連載コラムも開始して半年が経ち、気づけば今回で27回目になりました。これまでは「ザ・ゴルフィングマシーン」で提唱されている内容のなかでも「原則論」、つまり形はどうあれすべてのゴルフスウィングにおいて必ず達成されているべき「本質」について取り上げてきました。

しかし、ここまでお付き合いをくださった皆様にも、そろそろある疑問が生じているのではないかと思うのです。つまり「一瞬のゴルフスウィングのなかでそんなにあれこれ考えているヒマはない」ということです。今回はゴルフの上達にも大きく関わるこの問題について考察していきます。

「スクランブル競技」からわかること

ところでみなさんは、「スクランブル」という競技形式をご存知でしょうか。多くの場合、四人一組でそのつど全員のショットのベストボールを選択してラウンドをしていきます。この方式だと、ひとりひとりの通常ラウンドのスコアが100前後であっても、結構な確率で70台のスコア、あるいはアンダーパーのスコアが出てしまうことも珍しくありません。ここからわかることはなんでしょうか。

画像: 画像A スクランブル競技では技術面の再現性、状況の判断力を、「打つ回数を増やす」ことでフォローしている

画像A スクランブル競技では技術面の再現性、状況の判断力を、「打つ回数を増やす」ことでフォローしている

例えばティーショットを4回打ってよいのであれば、ほぼじゅうぶんな飛距離でフェアウェイに置けるわけです。各プレイヤーのドライバーでナイスショットになる確率が40%だとしても、回数を打てることでその「再現性」の低さをフォロ−できることになります。

あるいは傾斜地からのショットでバランスを崩してしまったならば、2回目以降は少しスウィングを小さくする、その代わりに少し大きい番手を持つといった対応をしていくことで、「判断力」をフォローできることになります。パッティングに関して言えば、4回も打ってよいのであれば最低でも1メートルくらいに寄せることはできるでしょう。

つまりいいスコアを出すために必要なのは、じつは300ヤードドライブの飛距離や、バンカーからスピンをかける特殊な技術力よりも、今できることを高確率で実現する技術的な「再現性」と、状況の「判断力」の要素のほうが大きいということです。

ゴルフの上達は「楽器の演奏」に似ている

もしゴルフの上達の早道があるとするならば、3〜4回に一回の割合で発生するナイスショットのクオリティよりも、「100回に99回は成功する」方法を考えるべきということになります。イチかバチかのビッグドライブの練習よりも、判を押したように毎回同じことができるようにする練習の方が効果的ということです。まぁ、多くのみなさんは前者のほうを頑張るんですが。

いっぽう「100回に99回」成功できるプレーヤーは、うまくいくための本人なりの「根拠」をもっているはずです。「根拠」とは言い換えれば、スウィング中のあらゆるパートにおいて「失敗の結果」につながらないための安全装置が無数に存在していて、それらが終始一体となって機能している状態になります。

海外では、ゴルフのスウィングはしばしば、ピアノの協奏曲のような「楽器の演奏」に例えられます。曲の始まりから終わりまで、ミスなく弾きあげるためには、結局は細部のひとつひとつのパートを完璧になるまで練習するしかありません。

曲の序盤が苦手ならば、それがじゅうぶんなクオリティになるまでまずそこだけを集中して練習します。中盤の表現力が不足しているならば、それを補う練習をするでしょう。そしてすべてのパートがある程度のレベルに達したならば、最終的にそれらを「全体」として統合して表現しなければなりません。

画像: 画像B 細部のパートを完璧にした上で全体として表現するという点では、ゴルフスウィングとピアノの演奏は似ている

画像B 細部のパートを完璧にした上で全体として表現するという点では、ゴルフスウィングとピアノの演奏は似ている

ゴルフスウィングも同じようなものなのですが、問題なのはそれが「始めから終わりまでたった2秒で終わってしまう」ということです。

「コンポーネント」という概念

つまりゴルフとは、「2秒で終わってしまう曲を、細部の高い完成度および連携のもとミスなく演奏しきる」という状況に似た、かなり難しいゲームであることになります。もちろん、とりあえずバックスウィングしてダウンスウィングすれば何かしらの結果は出るでしょう。しかし前述のスクランブル競技の例からもわかるとおり、もしスコアをよくしたいと考えるのであれば、細部の動きを個別に練習して完成度を高めていくしかないのです。

では、たとえば「ダウンスウィング」という動作では、どのような要素が関係しているでしょうか。トップの両手の位置、フェースの開閉量、ヒップモーション、ウェートシフト、クラブヘッドの加速の方法、ダウンスウィングのプレーン、あるいはそもそものグリップなど、ざっと考えてもこれらの「部品」が高い精度でタイミングよく連携して動いてくれないと「再現性」につながりそうにありません。

いま「部品」と表現しましたが、こうした細部の「形」や「動かし方」をひとつひとつ分離して考えたほうが上達のためには合理的であると「ザ・ゴルフィングマシーン」では考え、それら「部品」を「コンポーネント」と呼んでいます。
で、このコンポーネントがいくつあるのかというと全部で「24個ある」と「ザ・ゴルフィングマシーン」では定義しています。もちろんひとつひとつのコンポーネントのなかにもそれぞれ種類があって、プレーヤーはそれをバリエーションとして選択しています。たとえばグリップという「コンポーネント」には「オーバーラップ」、「リバースオーバーラップ」、「インターロック」、「ベースボール」、「クロスハンド」の五種類があって、そのどれかを選択しているといった具合です。

画像: 画像C 「ザ・ゴルフィングマシーン」で定義されている、ゴルフスウィングの24個の「コンポーネント」のリスト。各コンポーネントにはさらにバリエーションが存在する

画像C 「ザ・ゴルフィングマシーン」で定義されている、ゴルフスウィングの24個の「コンポーネント」のリスト。各コンポーネントにはさらにバリエーションが存在する

今後これら24個をこのコラムで詳細に紹介していくかどうかは今後考えるといたしまして、いずれにせよ「ザ・ゴルフィングマシーン」では、その書籍としての名前の通り、ゴルフスウィングを24個のコンポーネント(部品)を組み上げた「機械」であると考えています。どの「コンポーネント」を採用して「ゴルフをする機械」を組み上げるかで、そのプレイヤーのスウィングは変わってきますし、まったく同じスウィングというのはほぼ存在しないと言ってよいのです。

「全体としての統合」が重要

しかし最終的には、これらのコンポーネントを「統合」してひとつのゴルフスウィングにしなければなりません。これも楽器の演奏に近いと思うのですが、まずはひとつの小節があってそこに使われているテクニックに習熟すると、それよりも大きなパートをひとつの「ユニット」として捉えられるようになり、やがてはひとつひとつの細部を無意識かつ完璧に統合した「曲」として弾けるようになるといったことが起きます。

上級者ほど「曲全体」としての一体感やリズム、表現力といったものを重視するようになりますが、だからといって細部がないがしろになっているわけではなく、むしろ細部まで分解しても高い精度で演奏されているわけです。

ゴルフも同じで、上級者ほど「スウィング全体の流れ」や「リズム」といったものを重視します。そこから「『イチ、ニィ、サン』で振る」とか、「上げて下ろすだけ」などの表現が出てくるのですが、ゴルファーとしてのマインドとしては正解です。だって「24個のコンポーネントがこのように連携して」なんてラウンド中に考えられるわけがありませんから。

つまりピアノでもゴルフでも、上級者は「細部を完璧に作り上げる」ことと、「それらを全体として統合して表現する」という「ショートカットキー」のような機能を搭載しています。そうすることで本来は複雑であるゴルフスウィングを単純化して実戦に投入できるわけです。

画像: 画像D 上級者ほど、多数の要素からなるゴルフスウィングを「ひとつの流れ」として全体的に捉える「ショートカットキー」を持つことでスウィングの再現性を向上させている。(写真はジャスティン・トーマス 写真/Blue Sky Photos)

画像D 上級者ほど、多数の要素からなるゴルフスウィングを「ひとつの流れ」として全体的に捉える「ショートカットキー」を持つことでスウィングの再現性を向上させている。(写真はジャスティン・トーマス 写真/Blue Sky Photos)

とはいえ、レッスンの世界では、やはりどうしても細部の精度に目を向けることが必要になります。よって「フィニッシュまでリズムよく振り切りましょう」や「上げて下ろすだけです」ではレッスンとしては限界があります。各コンポーネントを個別に捉えて、どの部分がそのプレーヤーのスウィングの脆弱性に与える影響が大きいのかを考える必要があるでしょう。

次回の記事では、これまでの記事をもとに、いくつかのコンポーネントをユニットに組み上げる実例についてご紹介します。

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