矢野経済研究所という調査会社でゴルフや釣り、スポーツバイク(自転車)の市場を中心としたスポーツ産業の調査・研究を生業としている三石茂樹氏。時折思いもよらぬところから問い合わせや相談を受けることがあるという。ゴルフボールについて研究したいと同志社大学から相談がきた……。

一年後、同志社大学を訪問「逆取材」をしてみた

ディスカッションから一年ほどたった今年の6月、久し振りにゼミ生の一人からメールを頂いた。内容は「あれから引き続き研究を続けていること」「直接本間ゴルフの方にお話を伺いたいのでどなたか紹介して欲しい」という二点だった。後者については私の伝手で適任者を紹介し、その後実際にインタビューが執りおこなわれたようである。

この連絡をもらったとき、「このような活動を、業界内に情報として発信したほうがいいのではないか?」、そして「こうした活動を将来のゴルフ産業活性化に生かすことができるのではないか?」と頭に思い浮かんだ。そこで、今度は私がゼミを「逆取材」するという形で、7月某日京都にある同志社大学京都キャンパスを訪れることにしたのである。

夕方6時、同志社大学内にある「至誠館」を訪れると、すでに5名のゼミ生と商学部教授(経済学博士)の太田原準先生が待ってくれ、さっそくこれまでの研究の途中報告がおこなわれた。

当社のデータもふんだんに活用頂いたうえで、学生ならではの視点でボール産業の動向と「D1ボール」のここまでの成長の軌跡についていくつかの仮説を交えながら分析がなされていた。その中のいくつかは私自身が思いもよらかなかった視点からのアプローチで、自分にとっても大いに刺激になり、また勉強にもなった。

画像: プレゼンテーションの後、生徒たちとディスカッションを行った。次々と質問が飛んでくる素晴らしい時間だった。

プレゼンテーションの後、生徒たちとディスカッションを行った。次々と質問が飛んでくる素晴らしい時間だった。

一連のプレゼンを受けた後に私からいくつかの質問をさせて頂いた。

叙述したように私の最大の興味と言うか素朴な疑問は「何故ゼミの研究題材として“ゴルフボール”が選ばれたのか」そのプロセスとロジックで、その問いに対する生徒たちの回答は以下の通りであった。

• もともとゼミ生の中にゴルフを趣味として楽しんでいる人がいた
• その流れでゴルフボールの産業を調べているうちに、「白くて丸いシンプルな構造のゴルフボールの市場シェアが大手3社の寡占状態にあること」を知った(その裏側にどのような理由があるのかの知的好奇心が喚起された)

これが「経済学として研究するに値する」という判断のもと、ゼミでの研究が承認され現在に至っているとのこと。もう一点私が興味をもったのは「数多あるゴルフボールの中で、なぜ本間ゴルフのD1ボールを研究題材として選択したのか?」ということ。これに対しては、

• ゴルフボールの産業構造を調べていくうちに、同産業が大手3社の取得している特許により新規参入が困難な環境であることを知った(大手3社の特許により「ガチガチに固められている」市場であることを知った)
• そのような環境の中で、後発の「D1ボール」がヒット商品として現在に至っているのはナゼなのか、という疑問(知的好奇心)が芽生えた

大まかにはこのような理由とのことであった。今回のプレゼンの内容はその途中経過報告であり、その最終的な結論(最終の論文完成)はもう少し先となるとのことなので、最新の市場動向に基づく私自身の分析も交え、その後のディスカッションも大いに盛り上がった。

画像: なぜ学生たちは本間ゴルフの「D-1」をゴルフボールの研究題材として選択したのか。

なぜ学生たちは本間ゴルフの「D-1」をゴルフボールの研究題材として選択したのか。

ゴルフを活用した「産学連携」の可能性を感じた

今回の記事は「大学でゴルフボール産業構造の研究をしている」という事実を業界外も含めた多様な人たちに知ってもらいたかった、ということが最大の執筆理由であるが、今回の取材を通して私が感じたのは「大学(または高校、中学でも)とゴルフ産業が連携することにより、お互いが発展するWin-Winの関係構築が可能なのではないか?」」ということ。

例えば今回太田原ゼミで研究している「D1ボール」の最終的な研究結果をゴルフ産業と共有しパネルディスカッションを開催する。産業側からはゴルフボールメーカーの開発担当者や小売店のバイヤー、さらには一般ゴルファーにパネリストとして参加頂き、「大学研究者」「ゴルフ産業従事者」「ゴルファー」の三角型意見交換の場を設ける。

学生たちの研究成果を産業と共有する場を設けそれを発信してゆけば、今回のような同志社大学以外でも「ゴルフを研究題材とする」学部やゼミが現れるかもしれない。

それらの研究組織とゴルフ産業側が連携して意見交換をおこなう場が増えていけば、学生の「ゴルフに対する興味と理解」も深まるし、その研究成果をゴルフ産業が共有する「循環」が生まれる可能性もある。つまり「知の循環」が創出される、ということになる。これはゴルフ産業にとっても貴重な財産になり得るだろう。

もう一つの可能性は「新規ゴルファーの創出」という視点である。今回取材した太田原ゼミ生の中でゴルフ経験があるのは2名のみであった。残りの3名はまったくのゴルフ未経験者。その3名に「研究を進めていく中で、自身がゴルフをしてみたい、ボールを打ってみたいという欲求を抱いたか?」について聞いたところ「研究を進めるうちに、実際に(D1ボールや他メーカーの高額品のボールとに価格ほどの差が本当にあるのか)試したくなった」と回答したのである。

授業としてのゴルフを体験してもらうことが「実践的アプローチによるゴルフ体験、新規ゴルファー創出」の戦略であるなら、こちらは「学術的アプローチによるゴルフ体験、新規ゴルファー創出」の戦略というような表現になるだろうか。「研究対象」としてゴルフに触れる機会を創出し、そこからゴルフに興味を持って頂き実際にゴルフを始めて頂く、そんな導線を構築することもじゅうぶんに可能なのではないかと感じた。

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