テクノロジーの発達によりゴルフスウィングを解析する技術も進んできた昨今。個性的なスウィングで結果を残すプレーヤーを分析することで、一昔前はNGとされていた動きも肯定されたり、時には長所として伸ばすことまで行われるようになってきた。地面反力研究の第一人者であるスコット・リン博士のセミナーにみんなのゴルフダイジェスト編集部員でプロゴルファーの中村修が参加したレポートをお届け。

カルフォルニア州立大フラートン校の運動学と生体力学の教授でもあるスコット・リン博士は、足裏から地面に対して、どんな力を加えているかを計測できる機器「スウィングカタリスト」を使ってPGAツアー選手から初心者まで様々なプレーヤーの動きを研究しています。「地面反力」という言葉で数年前から様々なメディアで取り上げられるようになったのは、スコット・リン博士がツアー選手やコーチと積み重ねた研究の成果でもあります。

画像: カリフォルニア州立大フラートン校の教授を務めるスコット・リン博士はバイオメカニクスの専門家でもありスウィングカタリストを使った地面反力の研究の第一人者でもある(写真は2022年のカタリストセミナー)

カリフォルニア州立大フラートン校の教授を務めるスコット・リン博士はバイオメカニクスの専門家でもありスウィングカタリストを使った地面反力の研究の第一人者でもある(写真は2022年のカタリストセミナー)

スウィングのパワーの源となるのは、横方向(ホライゾンタル)、回転力(トルク)、縦方向(バーチカル)の3つの力(フォース)を使うこととされ、日本語では「地面反力」と訳されていますが英語では「Ground Reaction Force(GRF)」と呼ばれるForce(力)を計測し、ニュートンの第三の運動法則(作用・反作用の法則)を使って地面からの反力を解析し、どんな力を使ってスウィングしているのかを分析できるようになっています。

座面が回転する椅子に足を浮かせて座り、上体を左右に回すと地面に足をつけているときとの差を感じるはずです。すなわち、伝える力の入れ方を変えると当然体の動きも変わり、体の動きを変えれば地面への力の伝え方も変わります。スウィングでいえば下半身をどう使うかによって、スウィング軌道や最下点の位置も影響を受けることになります。

例えば、バーチカルを大きく使うジャスティン・トーマスと、回転力を主なパワーの源に使うセルジオ・ガルシアでは、どの力を使うかの割合が異なることで、スウィングの見た目の違いが生まれます。左かかとが浮くほど足を伸ばしてスウィングするのが特徴のジャスティン・トーマスも、回転力を多く使うスウィングのガルシア。実績のある二人のスウィングを否定することはできませんし、どちらが優れているとも言い表せません。

そして、膨大な計測データから当然平均値も示されていますが、スウィングにはタイプがあることも理解が深まり、どの力を使うかはプレーヤー次第であります。マット・クーチャーのようにバーチカルフォースが自分に足りない力と知っていても、プレースタイルに合わなくなるからと、あえてそこは使わないという選択をする選手も存在します。計測データからやみくもに足りない部分を増やそうとしたり平均値に近づけるのではなく、自分にマッチした使い方を選択することが大切だということもわかってきています。

3つのフォースの使う割合や大きさは人それぞれですが、使う順序は共通しています。まずはテークバックで右へ移動した重心を左に戻す左右の動き、続いて骨盤を回旋させる回転力、最後に縦方向の力を使います。それぞれの力のピークを迎えるタイミングは、横方向のピークはトップに近い時点で、回転力のピークは左腕が地面と平行になる位置、縦方向の力のピークはクラブが地面と平行になる位置だと解明されています。

画像: 横、回転、縦方向の3つのフォースのピークを迎えるタイミングも解明されてきている(写真は2022年のカタリストセミナー)

横、回転、縦方向の3つのフォースのピークを迎えるタイミングも解明されてきている(写真は2022年のカタリストセミナー)

今回のセミナーでは、自分のスウィングタイプを知ることで、失敗しないスウィング改善策やトレーニング法、ライブレッスンなど新しく解明されてきた分析結果と実践的な内容が盛り込まれていました。3つの力を使う割合だけでなく右軸、センター軸、左軸といったスウィング軸のタイプも解析できるようになり、自分にマッチしないスウィング改造を施してしまうと不調やイップスの原因になってしまうとも話します。

画像: スウィングタイプを計測することでプレーヤー個人にマッチしたレッスンを提供できるようになる(写真は2022年のカタリストセミナー)

スウィングタイプを計測することでプレーヤー個人にマッチしたレッスンを提供できるようになる(写真は2022年のカタリストセミナー)

「Leg Dominace」、日本語では「利き足」と訳することになりますが、ゴルフスウィング的には軸の取り方と理解しました。右股関節前でインパクトをする右軸タイプ、体の真ん中でインパクトをするセンター軸、左股関節前でインパクトをする左軸といったスウィングタイプがあり「スウィングカタリスト」によって計測できるようになったといいます。

画像: スウィングタイプに合わせたトレーニングを施すことで効率的で再現性の高いスウィングを指導できるようなる(写真は2022年のカタリストセミナー)

スウィングタイプに合わせたトレーニングを施すことで効率的で再現性の高いスウィングを指導できるようなる(写真は2022年のカタリストセミナー)

左軸のタイプは横方向の動きを大きく使う数値になったり、センター軸や右軸タイプは回転力の数値が大きくなったりとタイプとデータは連動するといいます。この自分の持つタイプまでも改造してしまうのは諸刃の剣になりかねないようです。例えばZOZOチャンピオンシップを2位で終えたリッキー・ファウラーはコーチを変えたことから不調を経験し元々のコーチであるブッチ・ハーモンに再指導を受け復活していきました。

以前全米オープンの現地取材時にブッチ・ハーモンにタイガーやダスティン・ジョンソン、リッキー・ファウラーなどタイプの違うプレーヤーでも結果を残せている指導の秘訣は何かを尋ねると

「ダスティンが習いに来たときに、トップで左手首が手のひら側に大きく折れるのを直したほうがいいかと聞かれたが、そこは直さずにそれまでドローを打っていた弾道をフェードに変えて100ヤード以内をたくさん練習させたんだ。そうしたら世界1位になれた。理由はスウィングはナチュラルなのが一番だからさ」(ブッチ・ハーモン)

このブッチの言葉は今でも鮮明に覚えています。スコット博士にそのことを話すと「ブッチはヒューマンロンチモニターを持っているからね」とブッチ・ハーモンのスウィングや体の動きを見抜く力はまさに人間計測器だと感心していました。

こういった解析器が発達するとプレーヤーにとってはマッチしたレッスンを受けやすくなる反面、インストラクターやコーチに求められるスキルは当然高くなります。日本ではそういったインストラクターはまだまだ少なく、インストラクター同士の交流やセミナーでスキルを高める機会もコロナ禍もあり、やっと再開したばかりです。

ゴルフ用の計測機器やレッスンスタジオを手掛ける「エンジョイスポーツ&ゴルフ」が招聘した今回のスコット・リン博士の「カタリストセミナー」や森守洋コーチの開催する「森ゼミ」などは、全国からインストラクターが集まり受講しています。彼らがゴルフスウィングの理解を深め、スキルを高めていくことで、より一層ゴルフを楽しめるゴルファーを増やし、ひいてはジュニアゴルファーやツアープロのレベル向上にもつながり、結果的にゴルフ界が盛り上がっていくことを期待したいと思います。

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