バックスピンでボールは止まらない、戻らないと説くのは、1mのパットが90パーセントの確率で入る「トライプリンシプル」理論で知られる福岡大学名誉教授、医師・医学博士の清永明教授。今回は、マスターズの練習日に必ず取り上げられる「水切りショット」についてのお話
画像: 毎年パトロンたちの声援に応え、オーガスタの16番ホールでは名手たちが水切りショットを披露する(写真は2023年マスターズ 撮影/Blue Sky Photos)

毎年パトロンたちの声援に応え、オーガスタの16番ホールでは名手たちが水切りショットを披露する(写真は2023年マスターズ 撮影/Blue Sky Photos)

いよいよマスターズが開幕しますね。マスターズの練習ラウンドで有名なことといえば、16番パー3での水切りショットです。

2020年、ジョン・ラームが練習ラウンド中に水切りショットでホールインワンを達成しました。このコラムでは「バックスピンでボールは止まらない、戻らない」という事実をみなさんに伝え続けております。その事実を証明するためにも、私はこの水切りショットによるホールインワン達成について数理科学的な分析を行う意味があると考えております。

さて、水切りショットの実態ですが、これはズバリ、トップボールそのものであります。これまでにお伝えしておりますが、このトップボールは力学的にはバックスピンが数値として最大値を示す状態でございます。

それなのにボールは水中に沈まないという事実! 逆にバックスピンだからこそ、水面を3回飛び跳ねてグリーンまで届き、なんと陸地に上がってからはパッティングと同じようにオーバースピンに様変わりして、転がり、結果は驚異のカップイン! どうしてこんなことが起こるのでしょう。

まずはジョン・ラームの水切りショットの動画を分析してみました。

【研究課題】

水切りショットの弾道を数理科学的に分析したデータについて、私、清永が調べ得た範囲内では見つけることが出来ませんでしたので、弾道中のボール速度並びに打ち出し角度とバックスピン数の推移について、清永自身のサイエンスアイ・ショットデータを基に大胆に予想することとしました。

【動画分析】

ジョン・ラームの水切りショットは、ボール位置が左足下がりの状態から打ち出されました。その初期弾道は水面近くを水平方向へ低く飛び出し、放物線を描きながら3回水面上で跳ねるのを確認。

「トップ」とは低く飛び出したボールに
バックスピンが最大に掛かっている状態

なぜ水面でボールが跳ねるのか? これは、ボールの落下角度が鋭角であること、かつ水のもつ抵抗に対して接触点を中心とする反射現象が起こったからであります。水面に対するボールの落下角度と反跳角度の繰り返しが3回の反射現象を起こしながら、4回目ではグリーン前面にぶつかり、そこからはピン方向へオーバースピンとなって真っすぐ転がっています。有名な16番グリーン奥側の大きく左側へ切れる傾斜面に移ってからは、ゆっくり転がりながらジャストタッチで見事にカップインしました。

3回目の水面でバウンドした後の反跳角度は、グリーン側へ到達するための最低角度と高さとが保持されていなければなりません。そうでないとホールは池の中に沈むことになり、グリーン上を転がっていくことはなかったでしょう。

 もしボール自体のスピンが、みなさんがトップボールと聞いてイメージするオーバースピンであれば、ベクトル(力と方向)論からしても最初の水面への接触点でボールは水の中に沈むことになります。逆にバックスピン量が最大値に近かったからこそ、水面上を反射現象で3回バウンド(反射)して跳んでいくことができたと考えます。これはバックスピンのまま水面上を進行方向へ滑っていくという「スリップ現象」そのものであることも表しているのです。

【水切りショットの発生機序と成功の必要条件】

水切りショットを意図したゴルファーはいわゆる「トップボール」を打つ必要があります。トップボールの条件としましては、ボールをヒットする際(インパクト)は必ずボールの赤道近傍の南半球側(5〜7mm幅)に、クラブのリーディングエッジを当てなければならない。これが水切りショットを成功させるための必要条件となります。

なお、奇跡的なカップインをするためには、インパクト直後のボール速度が約100ヤード先のグリーン上のカップまで届く適正値であること、も必要条件となります。

画像: *ボールを地球に喩え、赤道に相当する部位を赤色表示  ・ボール直径:1.68 (インチ)=42.672 mm ・ボール半径 =21.336 mm ・ボール半径の2/3 =14.224 mm ・ボール半径の1/3 = 7.112 mm

*ボールを地球に喩え、赤道に相当する部位を赤色表示

・ボール直径:1.68 (インチ)=42.672 mm
・ボール半径 =21.336 mm
・ボール半径の2/3 =14.224 mm
・ボール半径の1/3 = 7.112 mm

水切りショットを成功させるための具体的な弾道解析(1)

それでは具体的に例を出して説明しましょう。

(1)例えば、約100ヤード届かせるアイアンのヘッド速度を 33 m/s とし、打ち出されたボール速度は 30 m/s と仮定する。

(2)その際のスマッシュ・ファクター(=ミート率)は、ボール速度/ヘッド速度=0.9 (〜1.0) となる。

(3)トップボール(上方向打ち出し角度:5〜10度)の場合を想定し、清永データのアイアンショットによる上方向打ち出し角度(x) と毎秒当たりのバックスピン数:rps (y) との一次回帰式である 『y = 200.63 – 3.87x』 に基づき算出。

(4)ボールの弾道は水面上でバウンド(反射)するたびに水の抵抗を受けて、ボール速度もバックスピン数も減少し、バウンド回数が増える度に徐々に水面へ近づいて低くなる。

水切りショットの弾道解析に必要な諸条件の数値は不明もしくは未発表のため、今回は大胆な仮説を提唱する必要性から、以下の表に示すように、清永の個人データに基づくサイエンス・アイによるショット時のボール速度30m/sのバックスピン数10,900 rpm(181rps)をインパクト直後のスピン量として採用。弾道の放物線によって水面で反射する度に、水抵抗によって速度の二乗ずつ減衰するのを考慮しながら推定値を決定しました。

画像: 清永教授が試打テストにより導き出した打ち出し角度とバックスピンの関係(ボール速度30m/sの場合)

清永教授が試打テストにより導き出した打ち出し角度とバックスピンの関係(ボール速度30m/sの場合)

【水切りショットの弾道概念図)

*クラブのリーディングエッジでボールの赤道近傍の南半球側(5~7mm幅)をヒットすることが必要条件
・上方打ち出し角度は5度、水平破線は弾道放物線の頂点レベルを表示、最高頂点戦は1m前後

画像: ジョン・ラームの水切りショットホールインワン現象を分析し表したイメージ図(上) 各バウンド時のボールのスピン量の変化(下)

ジョン・ラームの水切りショットホールインワン現象を分析し表したイメージ図(上)
各バウンド時のボールのスピン量の変化(下)

さて、まとめです。ジョン・ラームが水切りショットでホールインワンを達成。その際の弾道に対する数理科学的分析を行った清永の結論は、以下の通りとなりました。

水切りショットの実態はトップボールそのものであり、かつ力学的にはバックスピンが数値としての最大値を示す状態である。それにも関わらず、ボールは止まらず水中に沈まないという事実を目撃されたでしょう。そうです、バックスピンにはボールを止めたり、戻したりする機能はありません。ないということをゴルファーならば受け入れてください。

逆にバックスピンにボールを止めたり、戻したりする機能がないからこそ、水面を3回飛び跳ねてグリーンまで届き、陸地に上がってからはパッティングと同じようにオーバースピンに様変わりして転がり、結果は驚異のカップインを起こしたのです。

今こそ「バックスピンでボールが止まる、戻る」ということが如何に非常識な考えであるのかを、マスターズが始まると必ず報道される、水切りショットという超有名な事例を通して学んで貰いたいと思います。

多くのゴルファーはいわば洗脳状態にあると考えています。水切りショットの本態がトップスピンでなく、バックスピンであることを理解されれば、ゴルフボールはバックスピンで止まらないことを当然の常識として受け入れやすくなるはずです。その結果ゴルフ場で起こるスピンの事実関係を正しく認識できるようになるのではないでしょうか。

※2023年4月6日11時37分、本文一部加筆修正しました。

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