
テーラーメイドが自信満々に送り出したカーボンウッドの『ステルス2シリーズ』(左)。それを駆使して早くも今季2勝を挙げたスコッティ・シェフラー(右)
カーボンフェースを搭載した『ステルス』でゴルファーに衝撃を与え、その後の『ステルス グローレ』、そして最新の『ステルス2』と、独自の「カーボンウッド化」の道を突き進むテーラーメイド。ナンバーワンウッドメーカーが考える“飛ぶドライバー”の現在地を、開発担当者に聞いた。
チタンは素材としての限界を迎えた!?

テーラーメイド ハードグッズプロダクト・シニアマネージャー
柴崎 高賜にカーボンウッドについて話を聞いた
――テーラーメイドは“脱・チタン”、“カーボンウッド化”を強烈に推し進めていますが、まずはその理由を教えてください。
柴崎:ひと言で言うと、カーボンが持つ“とにかく遠くへ飛ばすため”の性能に確信があるからです。我々にとっては昨年、初代ステルスで採用した「カーボンフェース」が一番のテクノロジーの転換点。とはいえ20年以上前にカーボンウッドチームは結成され、秘密裏に開発は進んでいたので、満を持してのカーボンウッド路線、ということです。
――チタンフェースのドライバーより飛ぶと。
柴崎:我々はチタンフェースでの最高のドライバーを『SIM2』で完成させました。しかしその一方で、素材の限界も感じていた。そこに飛距離の限界があると。「なにを使っても飛距離が変わらない」という方がいますが、素材を変えることによってその壁を打ち破る。それをカーボンフェースなら実現できる、そう考えました。
――確かにツアーの現場では「ボール初速が上がった」という声が多く聞かれます。
柴崎:昨年ブレイクしたスコッティ・シェフラーは顕著で、ステルスに替えて10ヤード以上飛距離が伸びました。トミー・フリートウッドもそう。毎日練習してプレーしている選手が飛距離で二桁の伸びを果たすというのは、まずありえないこと。素材の変化がもたらす飛距離のメリットは確実にあります。

昨年『ステルス プラス』を手に一気にブレイクしたスコッティ・シェフラー。世界ランキング1位、マスターズ制覇などを成し遂げた。今季も『ステルス2 プラス』を手にすでに2勝(2023年3月31日現在)
――チタンフェースとカーボンフェースでそんなに変わるものなのでしょうか。
柴崎:大きく変わります。飛ばす仕組みからして違うので。簡単に言うと、チタンは“弾く”のに対し、カーボンは“押し込む”。チタンはフェースを薄くすることでたわませ、その反発力で飛ばしますが、フェースがたわむとその戻るタイミングが合わなかった時に飛距離をロスしたり、スピンが増えることもあります。
カーボンはある意味逆で、非常に軽く、とても硬い。軽さは金属の比ではありませんし、ダイヤモンドのように硬度の高い素材です。インパクト時に、カーボンフェースは“軽いために”その場にとどまろうとし、“硬いために”変形しません。そこにきてフェースの後ろにあるヘッドの90%もの質量が後方から突き抜けようとする。そのエネルギーの圧縮と解放によってボールを強烈に押し出します。

最も重要な機能がカーボンフェースが生む“エネルギー伝達効率”。インパクトの瞬間、軽いカーボンフェースがボールの質量によりその場にとどまろうとするが、重いヘッド後方はダウンスウィングの勢いそのままにボールを打ち抜こうとする。他にはないこのメカニズムが圧倒的な高初速につながる
――『ステルス2』になって、その部分も進化したのでしょうか。
柴崎:もちろんです。フェースはさらに軽くなりましたし、ソールがカーボンになったことや、外周にカーボンコンポジットリングをめぐらせて発生した余剰重量をヘッドの最後方に多く集めたことで、メリハリの利いたヘッドになりました。さらに軽くなったフェースを後方の重いボディが押し込むことで、よりエネルギーをためて一気に打ち抜きます。カーボンウッドの特長を一層際立たせたのが『ステルス2』シリーズです。
『ステルス2』はテーラーメイドで初めて、メタルよりもカーボンの占める容量の割合が多くなりました。それにより発生した余剰重量を細やかに最適な位置に置くことで、深重心でありながら低重心という、従来では難しいとされた重心位置を達成しています。

チタン部分はフェースを支えるフレームのみ。フェース、クラウン、ソール、後方のカーボンリングはカーボン製(分解パーツは『ステルス2 プラス』)
かつて出した『SLDR』は、フェース面上の重心位置をひたすら下げたかったので“前重心”にしました。そうしておいてロフトアップして“高打ち出し・低スピン”を目指した。でもそうするとスイートエリアは狭くなります。『ステルス2』では、深重心でスイートエリアは広く球も上がりやすくする一方で、低重心効果でスピンは抑えられるという“いいとこどり”ができています。
――その深重心効果なのか、「『ステルス2』はやさしくなった」という声もよく聞かれます。
柴崎:そこはまさに狙ったところです。『ステルス2』では慣性モーメント(MOI)が飛躍的に大きくなっています。もっとも操作性が高い『プラス』でも約9%アップして、打ちやすさが増しています。大MOI=スピンが増える、と思われがちですが、先ほども言ったようにカーボン容量を増やすことで深重心かつ低重心を実現できているので、その心配はありません。「今回は球がつかまる」ともよく言われるのですが、それも重心位置の設計によって確実に変わった点です。

「インバーテッドコーン」というフェースセンター裏が隆起したフェース。初代ステルスに比べ、ベースのシートを減らし、中央にまたがる層を増やしたことで、スイートエリアを広げるとともに軽量化も実現
フェースも進化して、前作と同じ60層のカーボンシートから形成されていますが、組み合わせるパターンを変え、センター部分は厚く、周辺は薄く作ってあります。これにより高初速エリアが広がりました。ミスヒットに強いやさしさは、『ステルス』から『ステルス2』になっての最も大きな進化のポイントとも言えます。一例を挙げると、中島啓太プロは『ステルスプラス』ドライバーを44.75インチの長さで使っていたのですが、『ステルス2 プラス』では、「45インチにしようかな」、「45.25インチも試していいですか?」と長くすることにトライし、実際に従来よりも0.5インチ伸ばして45.25インチを使用しています。長くした分の多少の打点のブレを感じさせないヘッドだということを実感しているのだと思います。
――アマチュアはもちろんですが、一打を争うプロゴルファーにも、寛容性は欠かせない性能ですね。
柴崎:テーラーメイドのクラブは、タイガーやマキロイが使っているから「難しいんじゃないか」と思われがちですが、逆にミスショットすることを前提に、それをどう解消するかを優先して作られています。スイートエリアを広げるのはもちろん、左右の曲がりを抑える“ツイストフェース”も、フェース下部に当たってもスピンを抑える“貫通型スピードポケット”もミスヒットにいかに対応するかを考えて生み出されたテクノロジーです。

フェース近くのソール部分に施されたスリットが「貫通型スピードポケット」。フェース下部でヒットしてもスピン量を抑える機能。長年テーラーメイドのクラブに搭載されている
「次のドライバーも“カーボンウッド”。
それは間違いありません!」(柴崎)
――一部には、カーボンフェースの効果はヘッドスピードが速い人ほど恩恵がある、という声もありますが。
柴崎:そんなことはありません。エネルギー伝達効率の観点から考えると、ヘッドスピードの速い人も遅めの人も変わりません。ただしヘッドスピードが遅めの場合、打ち出し角が低くなったり、スピン量が少ない人が多い。ですので、大きめのロフトを選んだほうが結果が良くなる可能性は高いです。

プラスマイナス2度ずつ調整可能なロフトスリーブ。ライ角は基準値からプラス4度調整が可能
それから忘れがちなのがプラスマイナス2度調整できる“ロフトスリーブ”。ここをしっかり使ってほしいと思います。ライ角も動くので、10.5度をスタンダードポジションで使うより、9度をロフトアップして使うことでややフックフェース&ややアップライトの10.5度のヘッドに仕上がります。

マキロイは「LOWER」ポジションにして持ち球のドローを生かす
これはトッププロも活用していて、フェードヒッターのコリン・モリカワは「HIGHER」ポジションで左に向け、ドローヒッターのマキロイは「LOWER」にして右に向けています。ロフト調整できるのはもちろんですが、自分のヘッド軌道、プレーンの特性に対して、フェースアングルをスクエアに合わせることで、より狙った弾道が打ちやすくなる。自分の「スタンダード」ポジションを見つけることができます。
――『ステルス2 プラス』、『ステルス2』、『ステルス2 HD』と3モデルありますが、それぞれどんなゴルファーに向いていると考えていますか?

左から『ステルス2 プラス』、『ステルス2』、『ステルス2 HD』の3モデル
柴崎:まず『HD』はわかりやすいと思います。“つかまった高い球”が打ちやすいので、スライスで悩んでいたり、打ち出し角が不足しがちな人に。
スタンダードの『ステルス2』は“とにかく真っすぐに飛ばす”クラブなので、球筋を持っていない人、曲がり幅を抑えたい人に薦めたい。
『プラス』は「球筋は?」と聞かれて「ドロー」、「フェード」と明確に答えらえる人。『プラス』はソールのスライディングウェイトもぜひ使ってほしいです。ドローヒッターはトウ上、フェードヒッターはヒール下めに当たりやすいので、自分の打点に近い位置にウェイトを持ってくることで、自分の打点に重心が近づくことでさらに飛ばせる可能性が高まります。タイガーは若干ヒール寄りにウェイトを動かしていますが、これはあえてヒール寄りに当ててフェードを打っているからです。
――『ステルス2 HD』と『ステルスグローレ』で迷う人もいますが。

昨年10月に発売された『ステルス グローレ』。ロフトスリーブのついた『ステルス グローレ プラス』もある
柴崎:確かに両方とも“上がる、つかまる”ドライバーですが、設計上は明確な違いがあります。『ステルス グローレ』のほうは、ややスピン量が増えるような重心設計。少し重心を上げ、球の高さと最適なスピン量で、ヘッドスピードがゆっくりな人でも大きなキャリーが出せる。クラブ重量が軽い点もポイントです。
――今後、カーボンウッドはどう進化していくのでしょうか。
柴崎:カーボンは、いったん形状が決まれば、重さ、厚さ、大きさというものが、寸分たがわず出来上がること、さらに設計の自由度がチタンに比べはるかに高いことが大きなメリットです。フェースで言えば、シートの枚数、形状、シートとシートの間のレジンの性質など、可能性は無限に広がります。カーボンの成型技術もますます進んでいて、今回のヘッド後方のカーボンコンポジットリングよりも複雑な形状のパーツを生み出すことも可能になるはずです。
――すべてがカーボン、ということも?
柴崎:可能性は否定できませんが、現在唯一チタンを使っているフェースを支えるフレーム部分は、ある意味フェースよりも大事な部分かもしれません。インパクトの衝撃を受けやすいのでとてもセンシティブな箇所です。ですので、その部分をカーボンにしていいかというと、現状そういう感じはありません。メリハリをつけることも大事なので。

「フェースを支えるこの1インチの部分が非常に大事です」(柴崎)
とはいえまだまだやれることの範囲はとても広いです。来年もきっと新モデルが出ると思いますが(笑)、確実に言えることは、次期モデルも「カーボンウッド」だということです。宣言したことですので、ここがブレることはありません!
次回作に課せられた命題は? と聞くと、「より飛んで、曲がらないこと。ステルス2を使っても曲がる人はいるかもしれませんから」と柴崎さん。今や、カーボン素材を使うドライバーは非常に多いが、そのメリットを最大限生かしていく推進役は、今後も間違いなくテーラーメイドが担っていくことになるだろう。