中年の星と言われた職人プロ、藤田寛之が8年ぶりに海外メジャーに出場した。全米プロシニア、全米シニアOP、全英シニアOPの3戦とも予選を突破した藤田は、海外選手たちとの技術の違いに大きな衝撃を受けたという。そのきっかけは何だったのか?

世界のスタンダードは「クリーンインパクト」

54歳の藤田寛之は語る。

「最初に出た全米プロシニアでした。決勝ラウンドはB・ランガーと同組だったのですが、グリーンに行くとボクのボールだけないんです。ランガーと同じようなボールを打っているのに自分のボールだけが止まらない。この差は何なんだと驚きました。同組にKJ(チェ・キョンジュ)さんもいて『その打ち方ではボールは止まらないよ』と指摘されました。ボクの打ち方では世界で通用しないのか、と実感しましたね」

ボールの高さもそれほど変わらないし、落下地点もほぼ同じだったという。だが、藤田のボールだけが止まらない。なぜなのか? 

画像: 全米プロシニアの決勝ラウンドでB・ランガーと回った藤田寛之。グリーン上でボールを止めるために「クリーンインパクト」の必要性を感じた、という

全米プロシニアの決勝ラウンドでB・ランガーと回った藤田寛之。グリーン上でボールを止めるために「クリーンインパクト」の必要性を感じた、という

「もともとボールを止めるのは、パワーの問題だと思っていました。パワーがあれば、弾道の高さが出せるし、止められると思っていたんです。ですが、パワーではなく、技術で止められる、ということを思い知らされました。

またライの問題も大きいです。日本のライはボールが浮いていますが、海外のライはボールが沈みます。日本のライは特殊で世界で見れば、ベント芝のようにボールが沈むのが主流です。KJさんにも『ボールをクリーンにとらえられていない』とアドバイスをもらいました。ただ、この年齢でスウィングを変えることは簡単ではありません。ですが、世界で戦うには必要な技術でもあります。だからこそ、新しい打ち方を身に付ける必要があると感じたんです」

海外シニアメジャー参戦後、国内シニアツアーに集中している藤田は、まだまだ研究段階ではあるが、新たな打ち方に取り組み始めているという。

アプローチのインパクトイメージ、打ち方をまずは変えてみた

画像: シャフトを真っすぐ構え、真っすぐインパクトするような打ち方が「クリーンインパクト」(写真左)。藤田はロフトを立てながら強く打ち出す「ハンドファーストインパクト」(写真右)をずっとやってきた

シャフトを真っすぐ構え、真っすぐインパクトするような打ち方が「クリーンインパクト」(写真左)。藤田はロフトを立てながら強く打ち出す「ハンドファーストインパクト」(写真右)をずっとやってきた

藤田は、ボールをクリーンにとらえる「クリーンインパクト」をどう取り入れたのか?

「まずはアプローチから試しました。ヘッドスピードが遅いし、出球のスピードや弾道の高さを確認しながら練習できるからです。海外メジャーで気付いたポイントは2つありました。

ひとつはシャフトを真っすぐに構えることです。海外選手たちのアドレスは、見方によってはハンドレイトに見えるくらい衝撃的でした。そしてもうひとつが、ボールだけをクリーンに拾うインパクトです。ボールだけを拾うので、ターフもほとんど取らないんです」

アプローチ&パットの名手として知られる藤田だが、今までの打ち方と大きく変わるのだろうか?

「かなり違います。まず構え方ですが、ボクの打ち方はハンドファーストが基本です。そしてヘッドを上に上げて下に下ろすみたいな打ち方です。そう考えるとクリーンインパクトは真逆に近いです。
シャフトを真っすぐ構え、真っすぐインパクトするような打ち方ですから、大きな変化といえます。

このインパクトの違いで球筋も変わります。いつもの打ち方だとハンドファーストなのでロフトが立ちぎみに入り、ボールが強く、やや低く打ち出されます。自分のなかではボールを押しつつ、スピンでツンツンとブレーキをかけて止めるようなイメージです。一方、クリーンインパクトではロフト通りにボールが当たるので、打ち出しがやや高くなり弾道も高めになります。打ち出しの勢いが少し弱まるので、いつもより飛ばなくなる、というのが最初のフィーリングでした」

インパクトの形を見るとシャフトの傾き、ロフトの立ち方は一目瞭然。では、クリーンインパクトが世界のスタンダードだとすれば、どんな理由が考えられるのか?

「洋芝(ベント芝)はボールが沈みます。沈むということは、水平に近い形でインパクトを迎えたほうがパワー効率はよくなります。ヘッドが上から入るほど、沈んだ部分が壁になるからです。沈むライはシャフトが垂直のままインパクトするほうが適しているのでしょう。まさにボールだけを拾う、クリーンなインパクトです。この打ち方ができるとライの影響も少なくなります。地面が硬くてもカート道でも打てるはずです。今はまだアプローチだけの取り組みですが、アイアンにも応用できると考えています」

ウェッジの名匠、ボブ・ボーケイ氏も「ハンドファーストに構える必要はない。ウェッジはシャフトが垂直な状態を基本に設計されている」と語っている。シャフトを真っすぐに構え、真っすぐ打つ。これが世界の主流なのだ。

落下角、スピン量が増えて、ボールが止められる

世界のスタンダードだと藤田が感じた「クリーンインパクト」。その最大の特徴は、ボールを止められることだ。ボールが止まる、そのメカニズムとは?

「まだ予測の域ではありますが、ボールが止まる要素に違いが出るのだと思います。その要素のひとつが落下角です。ボールが落ちていく角度が増える(垂直に近い)ほど、止まりやすくなります。クリーンインパクトでは、この落下角が増えるのだと考えています。

ハンドファーストのインパクトは、ロフトが立つことでボールが低く打ち出され、強くなります。でもこれではボールが強すぎます。その結果、止まる要素である落下角が得られず、着弾してから前に転がってしまうのです。

逆にクリーンインパクトでは、ロフト通りのインパクトになりますから打ち出しや弾道の高さが高くなります。ボールの勢いも弱まることで落下角が増えるのだと考えています。まだ弾道計測していませんが、おそらくスピン量も違うはずです。クリーンインパクトのほうがロフト通りに当たるため、スピンも増えるでしょう」

画像: シャフトを真っすぐ構え、真っすぐインパクトするにはノーコックでタメが弱くなる。「スウィング軌道が横長の楕円になることで入射角が緩やかになります。インパクトが安定すれば、弾道も安定します」(藤田)

シャフトを真っすぐ構え、真っすぐインパクトするにはノーコックでタメが弱くなる。「スウィング軌道が横長の楕円になることで入射角が緩やかになります。インパクトが安定すれば、弾道も安定します」(藤田)

打ち出しが高くなり、落下角、スピン量が増えることでボールが止められる。つまり飛ばなくなる、 ということなのか?

「簡単に言えばそうです。練習していても、いつもの打ち方と同じ力感でクリーンインパクトするとかなりショートします。ロフトが立たず、初速も落ちますから当然です。ただウェッジもアイアンも飛ばすクラブではありませんから問題はありません。レギュラーツアーで戦う今の若手、たとえば、中島啓太や金谷拓実は、みんなクリーンインパクトですし。個人的な見方ですが、今平周吾から下の若手世代は、みんなクリーンインパクトです。ハンドファーストに構えないし、ターフも取りません。世界のスタンダードな技術を自然に身に付けています。ボクの打ち方は“昭和”なんですよ」

クリーンインパクトを練習するとスウィング軌道も変わるという。その特徴はノーコック、タメが弱い、フォローが大きいなどだが、メリットはあるのだろうか?

「入射角が緩やかになるのは大きいです。インパクトが安定すれば、方向や距離のブレは抑えられるでしょう」

世界のスタンダードなクリーンインパクトはアマチュアにも、もちろん有効。ぜひ試してみよう。

画像: ハンドファーストのインパクトはコックが入ってタメが強くなる。その結果、ヘッドが上から入りやすく、リリースも使われる。「この打ち方はボールが浮く日本のライなら問題ないですが、沈むライだとダフリやすい」

ハンドファーストのインパクトはコックが入ってタメが強くなる。その結果、ヘッドが上から入りやすく、リリースも使われる。「この打ち方はボールが浮く日本のライなら問題ないですが、沈むライだとダフリやすい」

PHOTO/Tsukasa Kobayashi THANKS/葛城GC BKコーポレーション

※週刊ゴルフダイジェスト2023年10月17日号「ボールだけを打つ『クリーンインパクト』が世界のスタンダード」より

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