ゴルフに関する様々な理論に精通するインストラクター・大庭可南太が、ジェネシス招待で2年ぶりの優勝を飾った松山英樹のショットについて解説する。

こんにちは。ゴルフインストラクターの大庭可南太です。さて先週行われましたジェネシス招待では、松山英樹選手が最終日6打差からのスタートで9バーディー、ノーボギーの圧巻の「62」でラウンドし、大逆転で約2年ぶり9度目のPGAツアー優勝を飾りました。

画像: PGAツアー「ジェネシス招待」を制した松山英樹(写真/Getty Images)

PGAツアー「ジェネシス招待」を制した松山英樹(写真/Getty Images)

中継をご覧になった方も多かったと思いますが、最終日はチップインだのロングパットだのベタピンのショットバーディだの、やりたい放題のバーディラッシュで難攻不落のリビエラCCをボコボコにしてやったという印象のゴルフでした。他の選手がスコアを伸ばせないなか全開ぶっちぎりの異次元のプレーは、見ていて本当に痛快でしたね。

海外メディアでは同じく難コースとして知られるマスターズのオーガスタと、このリビエラCCの両方で勝つことの難しさを伝える報道も多かったのですが、そんな中、PGAツアーのオフィシャルFacebookにて2008年マスターズチャンピオンである、トレバー・イメルマン氏が松山選手のアイアンショットについての解説を行なっていたので紹介したいと思います。

スウェイを許さない「右脚軸」

イメルマン氏は、松山選手を「PGAツアー屈指のアイアンストライカー」として紹介し、その特徴について語っているのですが、まず注目しているのはアドレスからトップまで微動だにしない「右脚」です。イメルマン氏はこれを「右脚を軸にしたピボットによるバックスウィング」と表現しています。

画像: 画像A●アドレスからトップまで上体がコイル(捻る)しても、しっかりとその荷重を受け止めて動かない松山英樹の右脚。イメルマン氏はこれを「右脚軸のピボット」と表現している(写真/Blue sky photos )

画像A●アドレスからトップまで上体がコイル(捻る)しても、しっかりとその荷重を受け止めて動かない松山英樹の右脚。イメルマン氏はこれを「右脚軸のピボット」と表現している(写真/Blue sky photos )

ちなみに「ピボット」という単語は日本語だと「回転軸」で「軸の決まっている回転」というニュアンスです。これが速い回転になると「スピン」なので、比較的ゆっくりとした動作を指します。

特にアマチュアの場合、このバックスウィングで後方に持ち出される両腕やクラブの荷重を右脚が受け止めきれずに流れてしまう「スウェイ」が起きがちですが、松山選手の場合にはこれがまったくなく、しっかりとスウィングの中心を維持したまま上体が捻じられたトップになっています。

イメルマン氏はこの松山のトップを「完璧なトップ。このトップが作れればナイスショットはもう約束されたようなもの。切り取ってスクリーンショットして印刷して毎日見ていたいくらい良いトップ」と評しています。

ウィークグリップによる「開いて閉じる」

そして松山選手のグリップが、昨今の選手の中ではかなりウィークであることにも着目しています。これによってトップではしっかりとフェースが開き、またインパクトまでに閉じてくる動作が入ることで、安定したボールストライキングを行っているとしています。

画像: 画像B●切り返し(左)からダウン(中)にかけての段階では、グローブのロゴが見えているが、インパクト付近(右)では左手の甲は目標方向を向いており、ダウンスウィング中の前腕の旋回でフェースをスクエアに戻してインパクトを迎えている(写真/Blue sky photos)

画像B●切り返し(左)からダウン(中)にかけての段階では、グローブのロゴが見えているが、インパクト付近(右)では左手の甲は目標方向を向いており、ダウンスウィング中の前腕の旋回でフェースをスクエアに戻してインパクトを迎えている(写真/Blue sky photos)

クラブを振り下ろす動作に同調して、前腕も回旋を行うことでヘッドスピードを安定して確保するとともに、しっかりとフェースをスクエアにしてボールを捉えていると評しています。

ここまでがイメルマン氏の松山評です。

フェースの開閉は「可動域」と考える

ここからは私、大庭個人の意見になりますが、昨今はドライバーの大型化などの影響もあり、「開いて閉じる」よりは、「ずっと開かずに」、いわゆるフェースを「シャットに」「開きを抑えた」手法が流行っていると言えますし、それに伴ってグリップもストロンググリップが多くなってきていると言えます。

ストロンググリップというのは両腕がフェースを開いた状態にしてから、クラブだけをフェースが目標に向くように握り直した状態です。

画像: 画像C まずスクエアに握り(左)、そこからフェースを開き(中)、手の状態を変えずにクラブのフェースの向きだけを目標方向にむくように握りかえるとストロンググリップになる

画像C まずスクエアに握り(左)、そこからフェースを開き(中)、手の状態を変えずにクラブのフェースの向きだけを目標方向にむくように握りかえるとストロンググリップになる

つまり手や前腕はフェースを開いた時と同じ状態になっているので、スウィング中にフェースが開く要素が排除できるというのが利点です。「フックグリップ」とも言われますが、一般的にはフェース開閉を抑えてフェードボールを打つのに適した手法です。

しかし、レッスンの現場、とりわけ初心者の方には私はこのグリップをお勧めしていません。理由は、「ドローが覚えられない」ことと、「ショートゲームが難しくなる」からです。

プロでもフェードヒッターは、ほぼ「かつてドローヒッターだった」選手が曲がり幅を抑えるために転向したケースがほとんどです。アマチュアでも、まずはクラブの構造通りに「開いて閉じる」ことで、距離の稼げるドローボールを打つことを覚えたいものです。

そして松山選手といえば、アイアンに加えてアプローチショットの技術も世界屈指といえますが、これもフェースの開閉を自在に操れるウィークグリップであることが大きな要素になっていると思います。今回のジェネシス招待でも、閉じた状態での転がし、しっかりと開いたロブなど、多彩な技術で寄せて(入れて)いましたが、ストロンググリップでそうした繊細さを習得するのはかなり困難だと思います。

しばしばフェースを閉じすぎると「左にフックする」「曲がる」と思っておられる方がいます(そういう方に限ってスライサーだったりします)が、「開いて閉じる」を操れるのであれば「開かず閉じず」も操れるようになります。

つまりフェースの開閉はあくまで「可動域」と考え、状況に応じてその量を変化させられるのが王道であり、ゴルフの楽しさや将来性を広げていくカギになると思います。

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