佐久間朱莉との一騎打ちを制した
涙の初優勝だった。
最終18番、1.2メートルのウィニングパットを沈めると、阿部未悠は右の拳に何度も力を込めた。同組の上田桃子と佐久間朱莉がホールアウトするのを見守ってから、佐久間とハグして激闘を讃え合う。
続いてグリーンサイドで待っていたプロテスト同期合格の岩井明愛、桑木志帆と抱擁。喜びの涙がほおを伝って流れ落ちた。
優勝インタビューでも涙は乾かなかった。
「ずっともうすぐ(優勝)だよって言われながら、もう(実質)3年目になっしまったんですけど勝てて本当によかったなってすごく思います。ジュニアのときには成績を出せる選手じゃなかったですし、そういう自分を応援してきてくれた両親、周りの方たちの協力があってここまでこれたので、本当に感謝しています」
身長155センチ同士の佐久間と一騎討ちの展開だった。
2日目まで阿部は69、67、佐久間は67、69で回り、通算8アンダーで上田を含めた3人が首位に並んだ。この日の最終日は佐久間が1番のイーグル、2番のバーディで頭ひとつ抜け出したが、阿部は諦めなかった。
11番でティーショットを左に曲げて4オンのピンチがあったが、7メートルのボギーパットを沈めて、悪い流れを断ち切った。2打のビハインドで迎えた14番は先に佐久間が5メートルのバーディパットを決めた後、3メートルのバーディパットを入れ返して食い下がると、ここから勢いが加速する。15番は残り125ヤードの第2打をPWでピン右2メートルにつけてバーディを奪い、1打差に肉薄。16番で右手前5メートルを放り込んで通算14アンダーでトップに並ぶと、17番で第3打をピン1.5メートルに乗せて単独首位に浮上した。
とはいえ、初優勝のプレッシャーかアドレナリンが出たのか、簡単には勝たせてもらえなかった。
最終18番は第2打でグリーンオーバー。ボールは特設スタンドに当たって止まったため、ドロップゾーンからアプローチを打ち、これも強めに入ってピンを1.2メートルオーバーしてしまった。これを外して佐久間がバーディを奪えばプレーオフの可能性もあったが、しっかりと打ち切ってまれに見るデッドヒートに決着をつけた。
「今まで何回か最終日最終組があったんですけど、優勝したい気持ちが空回りしていたので、今日はどんどんエンジンをかけていった。この3日間はすごくゴルフに集中できたし、すごく楽しんでゴルフができました」
初日は5連続バーディ発進を決め、最終日は勝負どころで4連続バーディ。爆発力とメンタルの強さが光ったが、それはオフに知人の紹介でプロ野球ソフトバンクの甲斐拓也の合宿に参加させてもらった際に聞いた言葉が支えとなった。
「甲斐選手が今年は野球を楽しむと言ってらして、それを聞いていて、ゴルフも辛く苦しいときがあるけど、私も本質はゴルフが好きなのだから、ゴルフを楽しまなきゃなと改めて思ったんです。今日は17番とか18番のパットはしびれたけど、最後まで楽しんでやろうとずっと思えたのでよかったです」
2000年度生まれの"プラチナ世代"では4人目の優勝
阿部は2000年9月27日、北海道恵庭市生まれの23歳。ゴルフは10歳で始めた。福岡県の第一学院高校を卒業後、2021年6月のプロテストに合格し、2022年に賞金ランク46位で初シードを獲得した。
ゴルフ以外のスポーツ経験はクラシックバレエがある。趣味は読書、ゲーム、写真撮影。今大会は富士フイルムの大会で優勝副賞にはカメラがあり、
「写真好きを公言していて、カメラが好きだと言っていて、富士フイルムさんと共催されている大会で優勝できたのは縁がある。カメラを副賞でいただけると聞き、めちゃくちゃうれしかった。何を撮りましょう」
と喜んだ。
2000年度生まれの"プラチナ世代"では4人目の優勝だった。同い年には米ツアーで活躍する古江彩佳、西村優菜、吉田優利がおり、常に目標にしているという。
「(3人は)アマチュア時代からトップを走っていて、私はそのグループにはいないと思っていた。焦りはなかったですけど、早く私もいつも上にいる選手になりたかったので、今回優勝できて本当によかったと思います」
初優勝の涙が乾いた後は、次なる目標も掲げた。
「元々今年の目標が、1勝もしていないのに、複数回優勝だったので、この1勝で終わらずにこの先も1勝、2勝と重ねていきたいですし、自分のゴルフができる週をどんどん増やしていきたいです」
遅咲きの"プラチナ"が輝く時がきた。
PHOTO/Shinji Osawa