「肉体は歳をとっても、情熱は歳をとらない」
尾崎は格言、過去の名言が好きだ。正月の書初めには、その年のテーマを格言に込めて着物姿で筆を走らせたものだ。年賀状にしたためたこともある。「捲土重来」、「一期一振」(一振とは趣味の刀剣で、その一振に己の人生を託す)、「守破離」などはキャディバッグのタグにその文字を書いてぶら下げていた。
守破離とは剣道や茶道などで修行のプロセスを示したもの。「守」は師や流派の教え、型、技を身につける段階。「破」は他の流派や名人の教えもよいと思うなら取り入れ、「離」は一つの流派から離れ、独自の新しい形を生み出し成熟へと向かう段階をいう。尾崎は、こんな格言から自分を鼓舞する方法を見つけていたのだと思う。
50~60代になり、あくまで現役にこだわる尾崎はサミュエル・ウルマンの『青春の詩』に出合う。この詩はマッカーサー元帥が座右の銘にしていて、日本占領時、日比谷の総司令部の部屋に飾ってあったことは有名な話だ。この部屋は昭和天皇が初めて民間人と並んでツーショットを撮られたことで歴史に残っている。
「青春とは人生のある期間を言うのではなく心の様相を言う。優れた想像力、逞しき意志、炎(も)ゆる情熱、怯懦(きょうだ)を却(しりぞ)ける勇猛心、安易を振り捨てる冒険心、こういう様相をいうのだ。年を重ねただけで人は老いない。理想を失う時に初めて老いがくる。歳月は皮膚のしわを増すが情熱を失う時に精神はしぼむ。
人は信念と共に若く 疑惑と共に老ゆる
人は自信と共に若く 恐怖と共に老ゆる
希望ある限り若く 失望と共に老い朽ちる」
この詩は、本当はまだ長いのだが、抜粋すると以上のようになる。尾崎はこの詩に触れて「まさに自分の人生そのものだと思った。この心なんだよ。自分には詩の才はないが、代筆してくれているとしか思えない……嬉しくなってしまったよ」と、感激の気持ちを自身のブログに綴っている。
1996年のダンロップフェニックス。49歳で100勝目達成。しかも3連覇のおまけつき。
同大会は欧米の一流プロ達がおしかけるのでも有名で、この時の2位には新帝王として世界に君臨したトム・ワトソンを3打差に屠(ほふ)っている。
「プロになって最初に勝った場所がここ(1971年、日本プロ、24歳の時)。そのあとフェニックスではなかなか勝てなかったが、2年ほど前からようやく大人のゴルフができるようになった。こういう舞台で自分の存在がこういう形でなし遂げられたこと。運命的なものを感じるよ」(優勝インタビュー)
50歳を前にした男は、ようやく大人になったといった。
「過去は振り返らない。一番新しい勝利が最も貴重なものなんだ。さあ、またゼロからの出発だ!」(同)
尾崎にとって49歳は、まだ青春途上だった。その挑戦は70歳を超えた今も続いているだろうし、シニアと名のつく試合には出ることはないと断言している。まだ「少年」の心を忘れていないのだ。
TEXT/Masanori Furukawa