ー「数値化して自分を知る。選手寿命も伸ばしたい」
ほりおけんじ・71年岐阜県出身。レッドベターに師事し、ティーチングの世界に。02年より帯同コーチとして活動を開始。05年は谷口徹の3つのメジャーに同行。多数プロの契約コーチを務める
ー「今はひらめきを数字で確認しながらやってます」
おぎそたかし・97年愛知県出身。6歳でゴルフを始め、中3時に福井工大附福井中学に転校。14年の日本アマでは当時日本人史上最年少優勝を果たす。15年プロ入り、下部ツアー3勝を挙げている
小木曽が堀尾に師事したのは約3年前
自他ともに認める“超感覚派”の小木曽。堀尾の門を叩いたのは21年だという。堀尾は現在、20年3月に購入したギアーズ(スウィング解析システム)を使用した指導を行っている。
堀尾 いいコーチングとは何かを考え、シーズンを通して選手のいい状態を保つとなるとデータの活用が必要だと思いました。自分の勉強にもなったし、実際、小木曽を始め何人かが上手くいき始めた。もちろん一般のお客さんにも使い喜んでもらっています。
小木曽 最初はめちゃくちゃ言われました。「よくこれでやっていたね」なんて(笑)。
堀尾 ははは。でも超感覚派がデータを活用したいい例です。感覚があったほうが絶対にいい。でも感覚派という言葉の裏にはネガティブな意味、思いつき、行き当たりばったりみたいなものもある。小木曽は最初、ツアーの練習場で、3タイプのスウィングで迷っていると言っていた。AとBとC全部を言う通り見事にやるんです。でもまったく違うスウィングだから安定しない「自分スタイル」を決める必要があると言いました。
小木曽 1年間フル出場した年に、自分ではまあいいゴルフをした週もあったんですけどシードが取れなくて。これは何か変わらないとムリだと思い、堀尾さんに「言われたことを全部やります。180度変えてもいいくらいです」と最初に言った。これがよかったですね。
堀尾 そのタイミングで出会えたのがよかった。早くに自分の限界みたいなものを見たから自分を変えないといけないと思えたんです。
小木曽 とにかく飛距離が足りなかった。アプローチ、パットで頑張ってパーを取っていっても、バーディにならないので、そこが単純に悩みでした。
堀尾 彼はフェードヒッターで、でも結構カットが強くて数値を見るとオープンフェースで2度、3度と出る。ドライバーだと弱いスライスボールになるから飛ばない。ドローを打ってもらうと、インサイドからクローズフェース3度くらいで当てるんです。めちゃくちゃ器用ですよ。これだけ軌道を変えられる人はなかなかいない。でも飛ばない方法を採用していた。左に行かせたくないからフェードを打つんでしょうけど、それはスライスだよ、と伝えました。
小木曽 最初はデータを見ても何もわからなかった(笑)。平均との差が何度と言われてもその差が何なのか。でも3回くらい来て変化を感じ、これはいいと思いました。自分ではいい感覚だと思っても計測したら全然違っていたりする。今は数字を信じてやっています。
堀尾 プロには今までやってきたプライドもあるから、アドバイスをすぐに聞けない部分もある。彼のフェースの当て方はスライスの当て方で、それにこだわってもいたし、効率よく力を伝えるというよりも左に曲げないということだけに注力していた。今のデータと比較しましょう(図A)。最初の頃と一番違いが出ているのがトップでの軸の傾きです。
小木曽 前のはヤバイです。
堀尾 傾きを度数で見るんですけど、70度台だった。3回目くらいで90度に近い状態になりましたけれど。最初はかなり右腰が張り出して左肩が落ちているでしょ。後ろや上から見てもよくわかる。
小木曽 傾きなど意識してやったことがなかった。フェース面の感覚だけで打っていましたね。
堀尾 軸が倒れすぎだという話から、足の使い方、腰の回し方を練習し始め、こういうよい動きを作るドリル(ティーアップ打ち)も練習して。つま先上がりを作ってボールを打つんです。すると野球のスウィングみたいに横に回る。
小木曽 ティー打ちはめっちゃやりましたね。
堀尾 4回目くらいで軸の傾きが84度で回れるようになりましたね。データを見るポイントはクラブの動き方。体や腕がどう動いたら変わるのか、クラブの動きをよくするために他のパーツの動きを考えていく。ギアーズのすごいところって、クラブのデータが取れるところなんです。最近、AIで関節の動きを読み込むものも出ていますが、これは実測値なので精度が高いですし、AIなら見た目がよくなったかは確認できますが、クラブの動きがよくなっているかまでは確認できません。
小木曽 最初、違和感はありましたよ。でもコロナの年でゆっくり取り組めたのもよかったですし、ABEMAツアーに出ていましたが、結果よりもスウィングのことを重視してやっていました。飛距離は20ヤード伸びましたね。
堀尾 オンプレーンで振りながらドローもフェードも打てるというのが理想で、彼の場合はアウトサイドインのカットプレーンでフェードを打っていたんです。だからドローを打つときはプレーンをすごく変えてインテンショナルフックみたいに打っていた。
小木曽 球の曲がり幅はマジで減りました。大きく曲げるのではなく、打ち出しに対してボールが行くのが理想になってきている。今のクラブにもハマっていますし。でも昔からの曲げる感覚があったからいい部分もある。オンプレーンでドローを打つためには、少しフェースローテーションを入れる。そういう感覚はもともと僕にはありましたから。
堀尾 ABEMAで高橋竜彦がラウンドレポーターをしていて、僕に電話をかけてきました。コーチをやっているのも知らずに(笑)。「小木曽ってめちゃめちゃ球が曲がらないね。あんなに球がねじれないやつ見たことない」って。
「今、小木曽は球がねじれないって言われます」(堀尾)
「調子が悪くても戻れるベースがあるからいい」(小木曽)
高い場所にあるボールをティーアップして打つ。軸の傾きを修正できプレーンも安定。「アウトサイドインでヘッドが下からくると手前を打ってしまいます。レベルで打てればボールだけを打てるんです」(堀尾)
小木曽 でも僕、今もひらめきはあるんですよ。本当にダメだと思ったらスウィングを変えちゃうし。でもそれも最近はハマります。間違った方向にはいかなくなっているんです。
堀尾 彼のなかにもこれとこれがよければ絶対にいい結果が出るというベースができてきている。その土台を毎回データで確認する。感覚的なプレーヤーはいろいろなことができます。でも、これは必要、これは不必要と、彼のなかで選別が素早くできるようになった。そして不必要なことを長くやらないようになったのが上手くいっている一番の要因かと思います。
小木曽 もちろん調子がよくない週もある。でも今は毎週持参するトラックマンのパスと自分のイメージが合えば今週いける! と思えます。
堀尾 自分のデータのベースがあるから、トラックマンを使う意味もある。実はこのオフになってまたフェースが開いて入ってくるようになった。昨シーズンはほぼなかったんですけれど。
小木曽 すぐに戻ると思っていたんですけど、開幕まで1カ月になっても6度オープンになっていて、これはヤバイなって。右手片手打ちでオープンにならないドリルをたくさんしました。
おすすめする3つの調整法
①【右手片手打ち】写真参照
フェースが開かずに下を向く。「右ひじを曲げたままだとリリースできない。右ひじをリリースしたら右手首はキープされます」(堀尾)
②【メディシンボール投げ】 (本誌掲載)
メディシンボールを下に落とす感じで投げる。「ミサイルを落とすような腕の使い方にしたほうがいいんです」
③【右ひざ触り】 (本誌掲載)
クセを矯正。「右ひざが出ないようにすれば右肩も落ちず、フェースも開かない。右ひじはダウン以降徐々に伸ばしていく感じで」
堀尾 開幕に向けて頑張り、間に合いました。結局、彼らは才能があるから、開いてきてもインパクトで閉じて当てられるので真っすぐには飛ぶんです。でもそれが試合になったら左や右に行く原因になる。今僕らが話をしているのはダウンスウィングの途中の話で、途中でフェースが開いているかどうかまではギアーズでないと確認できません。
小木曽 以前はインパクトゾーン30㎝が真っすぐ行けばいいと思っていました。もちろん自分の動画も撮って見ていたけど、チェックしていたのは手元を低くすることくらい。ダウンでのプレーンは考えてなかった。そこから真っすぐ行くことが大事なんですよね。ちなみに今僕がパッと見てわかるデータは3つくらい。意識しているのは軸の傾きとトップの位置がクロスにならずにレイドオフであること、エルボープレーンに対して振ることです。後の細かいことは聞きます。そして、掌屈、背屈も意識しています。僕のスウィングって掌屈になりすぎてもいたんですけど、どちらの感覚もわかるようになったので、アプローチにも落とし込めた。ランニングアプローチも全部掌屈でフェースがオープンのまま打っていましたが変わりました。
堀尾 僕がコースに同行したら、ここでやっていることとのズレをまず確認。また選手ごとに持っている嫌なシチュエーションのなかで、スウィングにどういうズレが出てくるかを一番見ています。
小木曽 僕は風に乗せるショットが多かったんですけど、今は基本、風に当てて打つように考えています。距離が足りないときは乗せるときもありますけど、そうするとエラーが出ることが多いので。当てる感じでいくとそこまでミスは出ない。これも堀尾さんから得たものですね。
堀尾 僕は選手生命をどうしたら伸ばせるかと考えてきて、いいときと悪いときの差を数値化して知ることができればいいと考えました。彼も昨年日本シリーズに出ましたけど、あと何回出られるかなあと。スピードを落とさずに今と同じデータで振れたら、同じクオリティのゴルフができるというワクワク感もある。多くのプロの皆さんに、スウィングがデータとしてどうなっているのかを見てほしいです。
小木曽 今は、プロ1年目のときとは全然違う。僕はすぐにやりすぎちゃうタイプ。すごくフラットになりすぎていたときもあれば、右回りが強くなったときもある。でも、自分のなかでダメな部分が処理できるようになってきて、それが今年に集約されてきたかなと思えるんです。今は楽しい。長い目で見られるようにもなりました。今年は優勝したいですね。昨年は予選落ちはなかったけど、もっと優勝争いをしないとチャンスは増えません。でも全部のコースで苦手意識なく戦えるようになったことにも成長を感じます。
堀尾 今年はすでに愛知県オープンでも優勝したし、開幕戦の東建も予選を通過して27位タイだったから。ぜひ、地元の中日クラウンズで勝ちたいね!
PHOTO/Tadashi Anezaki
※週刊ゴルフダイジェスト2024年5月7&14日号「感覚とデータの融合で最強スウィング」より抜粋